シナリオライアー

小生が生まれたのは遠い雪国の寒い日
吐く息も白く染まる 冬の夜(よ)の帳に
捨て子だった小生を拾ったのは
歩く事さえ覚束ないとある老夫婦だった

けして裕福とは言えない暮らしの中で
ささやかでも確かな愛を受け育った
お爺さんの話はいつもデタラメで
可笑しくて小生はそれが大好きだった

あの冬の夜から丁度十年の日
二人は「欲しい物を一つ上げよう」と言ってくれたんだ
華やかに輝く 街角のショーケースに
子供の目を惹くオモチャなんていくらでもあった

プレゼントを探す痩せ細った老夫婦に
小生はやりきれない程の感謝を抱いた
「欲しい物なんてない」
それは小生が初めてついた嘘だった

悲劇のヒーロー
嘘つきのシナリオライアー
デタラメなストーリー

やがて学生にでもなれば働くには十分で
朝から晩汗を流し生活を支えた
それでも学校へ行けとお爺さんは
飽くことなく小生を言い励ました

学校生活は孤独との戦いさ
貰い子への風あたりは強く容赦無い
小生はいつしか 心を閉ざすように
誰とも話さず 闇の中の日々を過ごした

そんなある日 思いがけぬ光を見たんだ
独りにも慣れた あの教室の片隅で
とある青年が小生に話しかけて来たのだ
彼はただ一言「友達になろう」と

こんな嫌われ者に何の用があるのか?
こんな捻くれ者に何の得があるのか?
「友達なんていらない」
それは小生が二度目についた嘘だった

悲劇のヒーロー
嘘つきのシナリオライアー
デタラメなストーリー

青年が病に倒れたのはそれから数日後
理不尽にもよく晴れた夏の日だった
駆けつけた頃には青年は目を覚まして
小生の訪れに驚き 嬉しそうに笑った

長い闘病になるらしい
それでも小生はあの日くれた光のお返しだと
翌る日も翌る日も ただ一人だけの掛け替えのない友の傍らに寄り添った

そして寝たきりの青年を楽しませようと
作り話を沢山書いて話したんだ
あの時君が笑っていたのはきっと
小生の話があまりにもデタラメだったからなんだね

今でもずっとデタラメを集める終わりなき旅の途中さ
君が笑ってくれるなら
小生は何度だって嘘をつこう

悲劇のヒーロー
嘘つきのシナリオライアー
デタラメなストーリー
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