畏き海へ帰りゃんせ

今宵の海は赤かろう
饑(ひだる)し我が子が父(てて)喰らふ
畏き海へ帰りゃんせ
畏き海へ帰りゃんせ

沖へと小舟を漕ぐ 水面にし垂るる糸

逸らしつる魚(いを) 海境(うなさか)の森と御殿を領(し)ろしめす
岩場で添ひ居る夫婦(めおと)の影は夕凪を誘ひけり

我が身を削ぎて命を与へ ながながし日を明かし暮らすと誓ひつる

やがて いつくしき女は孕み給へり

暇(いとま)申して故郷へ しばしの別れを難(かた)みす
然りけれど夫(せ)な愚かなり 許さざらむは異心(ことごころ)

かりそめの愛 許されぬ罪 生しき怪夢 償(つぐな)ひの刻(とき)ぞ来る
情け失せたり 徒(あだ)なる契り 血肉を喰らふ我主(わぬし)こそが化生ぞ

今宵の海は赤かろう
饑し我が子が父喰らふ
畏き海へ帰りゃんせ
畏き海へ帰りゃんせ
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