「マイポートレイト 古市左京

もうずいぶん長いこと、夢から目を背けて生きてきた。
母親は女手一つで俺を育ててくれた。
貧しくて、部活も遊びも、金のかかることは何一つできなかった。
毎日寄り道もせずまっすぐ学校から帰る。母親は遅くまで働きに出ていて、
誰もいない家に帰るのが嫌で仕方なかった。

ある日、学校からの帰り道に、見たことのない建物ができていた。
中を覗くと、大人達が楽しそうに芝居の稽古に励んでいた。
オレと…MANKAIカンパニーが出会った日だ」

暗く沈んだ闇の中で
俺を呼ぶ声が聞こえた
その声は無邪気で力強く
人生に光をくれた

「あのとき、オレの手をつかんで離さなかった少女の手の温もりは、
今でも忘れられない…」

後悔すらちゃんとできずに
季節だけが通り過ぎてく
埃をかぶった心を
いつか磨いてやれるだろうか…

「高校を卒業した俺は、ヤクザの下っ端のような仕事を始めた。
家を助けるためとはいえ、ヤクザになる道を選んだ自分が足を踏み入れて
いい場所じゃない。オレはいつしか、稽古場に顔を出さなくなった」

「それでも、劇団の公演はかかさず観に行った。
だから、劇団がどんどんさびれていくのは嫌でも目に入った。
この劇団に人が寄りつかなくなったら、少女や幸夫さんとの縁まで失われ
てしまう…。
金を貸そうと思ったのは、それが理由だ。どんな方法を使っても、
自分自身の手で劇場の活気を取り戻そうと思った」

本当はずっとずっと芝居がしたかった
この劇場の舞台に立ちたかった
でも、今の俺はこんな方法でしか
劇団に関われない

「劇団が一番大変だった時に、支えることもできなかった。
幸夫さんへの恩返しもできなかった。
それが俺の人生最大の後悔」
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