煙夜の夢

a. 香水壜と少女

歪な香水塔から抜け出した街で
蓮っ葉に足を投げ 影を追った少女は

「私が見つけたの」と台詞じみた言葉と共に
風の中に消えた

少女が忘れていった 小さく握っていたものに
多分 意味はない

「私にはとっておき」
自慢げな呟きと忘れ物をそのままに僕も消えた


b. 空虚な肖像画

影を千切っては投げるいつかの天邪鬼の言う所によりますと、
「矛盾に飼い馴らされた
とても立派で狂おしい肖像画の出来上がったばかりです。
見栄ばかり張っていないで見て行ってはいかがですか?」


c. 煙夜の夢 (夜が固まる前)

カーブミラーに夢を見た
ある雨上がりの夜
水蒸気の寄り場となり
霧の役目を一身に
映るすべてをぼかす
街灯の光は月のように
自分の姿はまるで知らない他人のように

夢の正体は何か
考えながら握るハンドルの軸が
濡れた地面と共に
無限に深く伸びた次の時には
ツンと張り詰めた部屋にいて
どこかに忘れ物があることに気がついた

夜の吐く息が
返事をしたような
不思議をとかして
くれるものを見た

夜の吐く息が
形を作るような
不思議をとかして
くれるものを見た
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