拝啓、花々。

拝啓、花々。
そろそろ芽吹く季節かい
こちらは狭い空の下 淡々と勤める日々です
ふいに昔思い出してはひとりぼっちの六畳
やたら広く感じるよ

ここは故郷より早く桜前線が来ます
そちらは雪と共に椿が落ちた頃でしょうか
雑踏に紛れこむ今の私のリアルは
無干渉に肩を寄せ合う 最果てのこの街で

君を思い出しては行方探すけれど
交わす言葉見当たらず
途絶えたままの青い春
香りすら思い出せそうな程に
恋しい景色はどこにもないけれど
それが大人になるということでしょう
みんな辿る道なのでしょう

背景、花々。
お元気に咲いてますか
私はなかなか帰れなくて寂しさ募るばかり

誰かの手料理を真似してみても記憶に残る味とはどこか違いました
ひとりぼっちの夜は直ぐに更けてしまうから
街へ繰り出せばその場凌ぎの愛に溢れて
この街の夜はやけに明るいから
自販機に群がる蛾のようだなんて思ってしまったよ

あゝ 君を思い出すよ 遠く離れたこの街
春夏秋冬過ぎる程に朧に霞んでいく
夢現だからこそ綺麗に咲いたままと
知りながら性懲りもなくまだ焦がれてる
それもまた人生の一興と思えるくらい
いっそのこと大人になりたいものです

蛹の頃は蝶になる夢をきっと誰もが見るのでしょう
ツツジの花を咥えて歩いた帰り道
くるり振り返った
君は今幸せでしょうか
拝啓、花々。
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