僕に会いたい

穴の空いた風船を膨らます人
底無しの井戸水を汲み上げる人
栓を抜いた湯船に水を張る人
蜂蜜に落ちる蟻 列を成してる

陽が顔にかかると朝になってた
良いもんじゃない
何でもない ただ、唯
それを繰り返す 不揃いでも
重たい体よ、軽くなってと

自分のことも まだ 未だ
分からない癖に
整理整頓された机にコーヒー
黒い水たまりが 広がった

僕に会いたい
名前のない僕に
時間がない
時間のない部屋で
空っぽになるまで
塗り潰したい

声にならない声を込めて
そのまま息を止めて
一つまた一つ
千に足らずとも
いつかいつか

夜直 眠れなくて
枕と天井を交互に寝返り
少し遠くで聞こえてた羽音
耳元で止まり そこは行き止まり
いとも簡単にこの体を
重たいせんべい布団から追い出した

長い廊下 軋む足音はそっとしといた
先に見える青蚊帳
隙間閉じる 今更
中の人物はとっくに寝息を立ててる
外の景色はどっぷり夜を抱えてる

まだ 未だ
増えていく羊の数数えながら
静かな窓辺 駆けぬける羊飼い
彼らは夢を見るのでしょうか

数の数え方はいつの間にか覚えた
文字の書き方は無理矢理覚えた

虚無と共存する全ての事柄は
蚊帳の外から 見て覚えた

廊下の先は突き当たり
…行き止まりだった

僕に会いたい
名前のない僕に
時間がない
時間のない部屋で
空っぽになるまで
塗り潰したい

声にならない声を込めて
そのまま息を止めて
一つまた一つ
千に足らずとも
いつかいつか

軋ませた その先の光に気づく
常夜灯の灯り 蛍のよう
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