兄さ恋唄

白帆の船が荒海越えて
待つひと逢いに江差に着いた
主(ぬし)はしがない 水夫(かこ)ながら
胆(きも)は千両 情けは万両
昨夜(ゆうべ)添い寝に在所が知れた
兄さよ 故郷(くに)は信濃の追分村か

十三七ツ二十歳(はたち)の春に
桜も見ずに売られたこの身
祝儀はずんでくれたなら
徳利転がす踊りもします
けれど心は売り物ならず
兄さよ 私(わた)しゃ一途の山家(やまが)の育ち

鴎が一羽 別れの朝に
一声啼いた涙をふけと
今日は浜止め 弁財船(べざいせん)
明日は遠国(おんごく)浪花をめざす
女乗せない北前船か
兄さよ 届くだろうか追分節が
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