小心旅行

どうせなら独りでゆこう。

今日は携帯は切っとこ。
あー、もう。乗り換えがわかんないや。
じゃあつけとこうかな。
いわゆる「便利な世の中」は
字面ほど自由じゃない。

どうせ忘れちゃうのなら、
上書きしちゃうのなら、
カメラは必要ないんだけど
つま先は覚えていたいみたい。

財布と携帯と充電器。イヤホンは置いていく。
身軽さでスキップの距離を稼ぐ。

あぁ、いいや。感情は切っておこう。
ずっと背負うのは割に合わない。
...今日はつけよっかな。
靴擦れじゃ困らない。
私しか、困らない。

どうせ忘れちゃうとして、
上書きしちゃうとして、
でもね、いつかは思い出すから。
所詮、人ですから。
お土産はいつもマグネット。
私と猫の分。それで十分。

見慣れた家電に安心する。カーテンは家の匂い。
離れてこそ浮かぶ、私の輪郭。

正真正銘の傷心旅行。
誰にも言わずに家を出る。
結局、知っている店に逃げる。
この小心さえ愛している。
放心状態の傷心旅行から
戻ったよと伝えたい。
それが誰かわからない、
けど、あなただといい。

ただいま。帰ったよ。
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