乙女心中

さア、斯の渺たる妾の終生を御覧あれ‥

水面を揺らす夜光蝶
燦に身体を裂いて
流れる血液を拭つて
不確かな暮らしを貪つた

右掌に髪飾 洒落な街に出よう
我儘も望蜀も月花 陶酔/\して
ひとりぢや満たせ無い
覺さめて渇いてゐる心中触れて頂戴れ

さア、手を取り何處かへと
貴方が為に間違ふ
秘匿した素性は明かせないでゐる
水銀燈が揺れてゐる路地裏を抜けたら
奔る感傷も散らさじ乙女哉

死体に群がる通俗人等
逃げ場を亡一味
「些末ない噺をするな」

其から世間は醒めない破朽へと
幸福な騙し絵に皆が執心/\で
何時でも口任せ
嘘に遑あらず、御覧入れませう

さア‥

さア、手を替え、品を替え
假初の嘘を吐く
仕合はせも不幸も何もかも頂戴れ
世界中の誰人をも殺したい妾も
貴方を救ひたい妾も、妾なの
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