晩夏祭

単衣抜ける風 茜空は夏の街
隣座る影ふたつ 視線合わず落とす
先の金魚掬いの網をするり抜けたのは
淡夢 そっと水面に溶けていった

青 白 炎ゆ空は遥か彼方

今 夏が夏が夏が夏が
遠く遠く遠くなっていく
蝉時雨も賑わう声も君のしじまに隠されて
ふたり 祭り 灯り 翳り 嗚呼
まだ終わらないで
パッ、と開いた火の花が
ふと映した横顔に夜凪ぐ
息は忘れ物 秋の隣

悠久と見紛えそうな繰り返す夏を遡る
変わらないでと願ったのは僕の一人芝居

「――」

まだ 夏が夏が夏が夏が 誘う夢の中に
陽炎のように揺らいだまま灼き付けられた憧れが

今 夏が夏が夏が夏が
遠く遠く遠くなっていく
来年またねと言えないままに夜の帳は下ろされて
ひとり 祭り 灯り 翳り 嗚呼
まだ終わらないで
最後開いた火の花が
とっ、と胸を打つ幕引きに夜凪ぐ
二度と来ない同じ夏の日
僕は忘れ物 秋の隣
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