過惰幻

ひたひたと押し寄せてく
憂鬱は「おかえり」と僕を包み込む
仄暗く冷ややかな 空き缶の底で
雨垂れがぽたぽたと水面を震わせ
かなしみに浸かる

きっと 過ぎた夢を見てた
到底 似合わないのに
ああ 美しい約束が ふやけてく

あやまちに気づいても
後戻りも出来なくて
くずおれる
どうして 飛べそうなんて
思ってたんだろう
嬉しかった分だけ
苦しみは濃くなって
思い知る
拙い 勘違い
全部まぼろしだったんだね

心の奥へと匿って
僕を見せない
微塵も望まない
はずだった

水族館の魚は
混ざりあい泳ぐことを夢に見るのかな
隔てられたガラスは檻じゃなかったよ
傷つく僕を守ってくれていたのに

交わるはずなかった
最初から君と僕は
それなのに
どうして境界線[さかいめ]を ああ
越えてしまったの
ふいに咲くまばゆさで
フチドリがあやふやに
ぼやけてく
見えない 触れない
全部僕の幻影[ゆめ]だったね

知らず知らず
膨らみすぎた泡[あぶく]は
音もなく消える
ほんの束の間
やわらかな光に揺られた
そんな記憶も拭い去るように

もうすぐ 肺まで満たしてゆく
空き缶の真ん中で
小さな空を見てる
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