dirty ball

君は思いついた顔で 古びたボールを取り出して
「あそこから投げるから ちゃんとキャッチしてみろよ」

少しづつ投げる距離も だんだん離れてくけど
必死に追いかけて 上手くキャッチしてみたよ

「それならこんなフライなら、取れるもんか?」
なんて言って
全身全霊で空高く 君は放り投げた

君は最後に何か言おうとして ボールは太陽と重なった
目が眩んで見失った 唐突なダーティボール

あれから時は過ぎて 君と背丈も並んで
言葉も 距離感も上手くキャッチできずにいた

時折見せる君の 乾いた咳の音だけ
耳につく その度に僕は大人になれた

離れてく距離だけ 心は近くなっていって
全身全霊で弱々しく 君は放り投げた

君が空に放ったボールは 少し目の前で零れ落ちた
変わりに僕が君に向けて 放ったダーティボール
君は腑に落ちない様な顔で 照れくさそうに笑ってみせた
いつかは追い越して行くから 寂しくなるね

季節は何度も通り過ぎて 君は僕に何を託して
空高く 飛んで行った?

君は最後に何か言おうとして はにかんで言葉を詰まらせた
握った手は あの頃よりも遠くなるけど
僕が空に放ったボールは ずっと遠くで零れ落ちた
泪も 笑顔も 色んなもの詰め込んだダーティボール
君がくれた ダーティボール

僕は思いついた顔して 古びたボールを取り出して
「あそこから投げるから ちゃんとキャッチしてみろよ」
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