虫の話

夜。
しきりに砂糖をはこぶ蟻や、
石の隙間で合唱の練習をするコオロギたちも、
やさしげな羽音に、少しばかり手を休める時。
今宵は、螢たちの最後の晩。

光のワルツに生命を捧げて、
闇のなかに弧を描きつづけた螢たちの、
今宵は最後のダンス。
月も雲にかくれて、
その時を待つ。

手をのばしても
声をからしても
時はいつのまにか
流れてゆく
ひとつひとつの瞬間
たいせつに抱きしめ
輝くほど自由に
心のままに
歩いてゆこう

あなたたちはとてもきれいだった。
最後の晩にとても立派なダンスを踊った。
虫たちも満足そうに仕事に戻った。

わたしはずっとここから見ていた。
あなたたちのように踊れたらいい。
かすかに淡く、光をまとって。
わたしに羽根はないけれど。
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