幽霊

冬の嵐に激しく鳴る窓 おさえてふと見る舗道の向こうに
うずくまっているあれは何 あの真っ黒なものは何
昔の痛みのように うずくまっているあれは何
悪魔にも見えるけど ひょっとしたら守護天使
怖くって 懐かしい あの黒いものは何
訳の判らない 不思議なこの気分
死ぬほど怖いのに 目をそらすことできない

古いカフェの片隅 大病院の白い部屋
裸電球輝く ほこりっぽい楽屋の隅
カビの生えた油絵 大きなだけで陳腐な絵
ルーブル宮のそれらの ありふれた幽霊たち
潰れたトマトじゃない しおれたキャベツでもない
見るたびに形の変わる あの黒いものは何
きっとあれは見果てぬ 夢の幽霊
慣れ切った暮らしの 垢から生まれたもの

そういえば子供の頃 黒い汽車に憧れ
世界の果てまで 行けるのを夢見た
エッフェル塔にのぼる夢 唄だけに生きる夢
別の世界の空 地の果ての海辺を
そして今いくつもの 夜と季節やり過ごし
果たしてない約束を戸棚にいっぱいしまったまま
また出掛けようとしている 約束を破ろうとしている
また負けそになっている さすらいの誘惑に
×