空蝉

名も知らぬ駅の待合室で
僕の前には年老いた夫婦
足元に力無く寝そべった
仔犬だけを現世の道連れに
小さな肩寄せ合って
古新聞からおむすび
灰の中の埋火おこすように
頼りない互いのぬくもり抱いて
昔ずっと昔熱い恋があって
守り通したふたり

いくつもの物語を過ごして
生きて来た今日迄歩いて来た
二人はやがて来るはずの汽車を
息を凝らしじっと待ちつづけている
都会へ行った息子がもう
迎えに来るはずだから
けれど急行が駆け抜けたあと
すまなそうに駅員がこう告げる

もう汽車は来ません とりあえず今日は来ません
今日の予定は終わりました

もう汽車は来ません とりあえず今日は来ません
今日の予定は終わりました
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