2017年6月7日、俳優・菅田将暉が歌手としてソロデビュー!彼の歌声の魅力は、すでに多くの方がご存知でしょう。昨年『しゃべくり007』に出演した際、突然のリクエストに応えて、さだまさし「関白宣言」をギターで弾き語り。今年1月にはGReeeeNの軌跡を描いた映画『キセキ ーあの日のソビトー』で主演を務め、劇中グループ“グリーンボーイズ”としてCDデビュー&Mステ出演!いずれもSNSで視聴者から大反響を呼びました。じわじわとその歌声への評価と期待が高まっていったからこそ、満を持して、歌手・菅田将暉が誕生したのです。
 さて、最近こうして“役者”として活躍しながら音楽界へ進んだり、“歌手”として活躍しながら俳優業へ挑戦したりといった、いわば<二刀流>のアーティストが目立っております。しかしそれはファンの方にとって、嬉しいと同時に、多少の不安も伴うようです。新たな一面は楽しみだけれど、本業がおろそかになってしまうのではないか、リスクが高いのではないか…。そのような賛否両論も理解した上で、アーティストたちはそれぞれ、どのような理由で未知の道へ踏み出してきたのでしょうか。今回の特集では、大きく3つのタイプに分けて注目してみました!
特徴 ① “役者としての音楽”を“自分自身の音楽”に!
特徴 ② もともと音楽の道を目指していた方も多数。
特徴 ③ 歌手デビュー前から期待度は大!
「海の声」は“浦島太郎”名義で、THEイナズマ戦隊さんとの曲は“河野勇作”名義で、その曲たちは
“役者としての歌手”の延長上にあったと思います。(中略) でも自分で音楽を0から1にしてみたかったんです。
 昨年9月に歌手としてアルバムをリリースした俳優・桐谷健太。彼は、ヒット曲「海の声」を歌う“浦島太郎”をはじめ、映画『ソラニン』や『BECK』、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』、ドラマ『Y・O・U やまびこ音楽同好会』などで数多くの“ミュージシャン役”を演じてきました。そのなかで徐々に、役としてじゃなく音楽をやってみたいという思いが芽生えてきたのでしょう。それは、菅田将暉にも通じそうですね。歌手デビューによって、役者としての延長上にあった音楽が“自分自身の音楽”に変わるのです。さらに、上白石萌音、高畑充希、山田孝之なども作品内で役として歌声を披露するシーンがあり、美声が多くの方に知られるきっかけとなりました。
好きだからやりはじめて、それが全て仕事に繋がったんです。    (桐谷健太 歌ネット・インタビューより)
 福山雅治、藤木直人、ディーン・フジオカ、西内まりやといったアーティストは、役者デビューの方が早かったものの、もともと音楽の道も目指していたのだそう。まさに桐谷健太と同じく「好きだからやりはじめて、それが全て仕事に繋がった」ということですね。【役者】→【歌手】のアーティストは今も昔も数多く存在しますが、それは純粋に“音楽が好き”だという思いは生まれやすいものだからでしょう。幼い頃から音楽が身近な存在であったり、カラオケで歌声を称賛されたり、学生時代にバンドをやっていたり…。また、“歌唱力”とは比較的わかりやすいものであり、デビュー前からポテンシャルの高さが把握できます。そのため失敗のリスクより、新しい面を魅せられる期待度の方が大きいと言えるのではないでしょうか。
特徴 ① 女性シンガーソングライターが抜擢!
特徴 ② 新人アーティストは【歌手役】が
     きっかけでブレイク!
特徴 ③ 役者経験が歌手としてのプラスに!
YUI
2005年にメジャーデビュー。2006年、映画『タイヨウのうた』で主演。色素性乾皮症(XP)という病を抱えているため、夜しか活動できないミュージシャンの女性“雨音薫”を演じました。
同じ唄を 口ずさむ時 そばにいて I wish
かっこよくない優しさに会えてよかったよ
「Good-bye days」/YUI for 雨音薫
miwa
2010年にメジャーデビュー。2017年、映画『君と100回目の恋』で坂口健太郎とダブル主演。バンド活動をしており、ある日交通事故に遭ってしまう女性“葵海”を演じました。
さよなら 大きな君の手 さよなら 2人見た夕日
さよなら 名前呼ぶ愛しい声
さよなら さよなら 巡り会えてよかった
100回繰り返しても叫んでもそれでも足りない
「君と100回目の恋(movie ver.)」/葵海 starring miwa
藤原さくら
2015年にメジャーデビュー。2016年、福山雅治が主演の月9ドラマ『ラヴソング』に出演。吃音症を抱えながらも、歌うことで変化してゆくヒロイン“佐野さくら”を演じました。
年を取っても 皴になっても 一緒にいて
恋のSoupを ふたりで味わいつくしましょう
「Soup」/藤原さくら

「ラヴソング」 も歌を歌う女の子の役じゃなかったら、
オーディションは受けなかったと思います。    (藤原さくら「Soup」ナタリーインタビューより)
 女性アーティストが役者に挑戦する場合、ほとんどが【歌手役】としての抜擢です。演技は初挑戦でも、ヒロインとの間に“音楽”という共通項があるため、役に入り込みやすいのではないでしょうか。実際に歌手として生きているからこその説得力やリアリティーも生まれますよね。また、上記の3作とも彼女たちは、物語の中で生死に関する大きな問題に直面するんです。「それでも、歌いたい。」そんなヒロインの切実さや強さは、観る側にノンフィクション性を持って迫り、歌声は役を越えて心を震わせます。とくに新人アーティストは、その【歌手役】として与えた感動がきっかけになり【歌手】としてのさらなるブレイクに繋がってゆくのでしょう。

 また、歌手と役者のデビューが同時の場合もあります。中島美嘉は2001年にドラマ『傷だらけのラブソング』で、大原櫻子は2013年に映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』で、どちらも天性の歌声を持つヒロインとして、一躍その名を広めました。ただ、新人であるほど、演じた役がそのままアーティスト本人に投影されすぎてしまうのではないかとも思いますよね。しかし現在、どのアーティストも役ではなく【歌手】としての地位を確立しております。むしろ、役者の経験をしたことで歌唱時やMVの表現力が豊かになったり、その後の物語をイメージした楽曲が生まれたり、リスクより得るものの方が圧倒的に多いように思われます。
 特徴 ① 男性シンガーソングライターに多い。
 特徴 ② 本人の放つ存在感・個性による起用!
 特徴 ③ 音楽活動を長年続けてきたからこその挑戦。
 そして最近、とくに増えてきているのがこの【歌手】→【役者】型の男性シンガーソングライター。女性シンガーソングライターは多くが【歌手役】としての起用でしたが、男性の場合はまったく音楽とは関係のない役を演じることが多いのです。歌唱力と違い、演技力はなかなかそのポテンシャルがわからないため、リスクが高そう…。ただし、起用理由となるのは、演技の上手い下手ではなく、そのアーティストが放つ存在感やキャラクター、音楽で伝えてきた“人間性”なのでしょう。
竹原ピストル
2016年、西川美和監督作品『永い言い訳』に出演。バスの転落事故で妻を事故で失くし、二人の子どもを抱えたトラック運転手“大宮陽一”を演じた。
野田洋次郎(RADWIMPS)
2015年、映画『トイレのピエタ』主演を務め俳優デビュー。美大卒業後、フリーターとして毎日を過ごしていたが、ある日突然、胃がんで余命3か月であることを告げられる青年“園田宏”を演じた。
2017年、ドラマ『100万円の女たち』で主演。素性の知れない5人の美女たちと1つ屋根の下で暮らすことになる、売れない小説家“道間慎”を演じる。
山村隆太(flumpool)
2017年1月、月9ドラマ『突然ですが、明日結婚します』で、主演の西内まりやの相手役として俳優デビュー。結婚願望がまったく無いイケメンアナウンサー“名波竜”を演じる 。
 また、宮本浩次(エレファントカシマシ)は2016年にドラマ『俺のセンセイ』で主演を務め、10年のスランプに苦しみ続ける中年漫画家を演じました。スガシカオは2017年夏に放送されるドラマ『プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス』に出演し、頬から首筋に火傷痕があり、何か暗い闇を抱えている男を演じます。さらに、浜野謙太(在日ファンク)、池田貴史(レキシ)、峯田和伸(銀杏BOYZ)といったアーティストは色んな作品で役者として目にする機会が多いですね!やはりいずれも、インパクトが強い個性派揃い。
お芝居の技術以上に、その人が持っている圧倒的な存在感や身体性を求めていたんです。
                       (竹原ピストル出演『永い言い訳』西川美和監督インタビューより)
 尚、出演に関してのインタビューに注目してみると、「ドラマ出演のオファーは今まで全部お断りしていましたが、今年デビュー20周年を迎えて、みんながビックリするようなことをやってみたいと思いました(スガシカオ)」、「これまでもお話は何度かあったんです。でも、絶対やらないと思ってた。というか、出来ないと思ってたんです。それが、10周年を前にやってみたいに変わったんですよ(山村隆太)」、「いまだからこそ、というのは確実にあったでしょうね。もう少し若い頃なら、お話をいただいても考えるまでもなく、もしかしたらお会いすることさえなく断っていたと思います(野田洋次郎)」と、今だからこそ、音楽活動を長年続けてきたからこその新たな挑戦だというところで、通ずるものがあるようです!
お芝居の時は不自由を楽しんで、音楽をやっているときは自由を楽しむ。
 【役者】も【歌手】も表現者という点では同じですが、峯田和伸(銀杏BOYZ)の言うように“楽しみ方”が異なるものなのでしょう。物語を作りあげるいろんな登場人物のうちの“誰か”として伝えるか、音楽を通じて“素の自分”で表現するかの違いなのです。これは余談ですが、世の中は今「副業ではなく、複業の時代」と言われているんだとか。つまりどちらが“主”か“副”かではなく、同じくらい力を入れる仕事を使い分けるのだということ。もしかしたら、二刀流アーティストにも同じことが言えるのかもしれません。挑戦した上で、どちらも「楽しい!」と感じたアーティストは、【役者】も【歌手】も本業として全力で取り組み続けるのでしょう。だからこそ、本業がおろそかになってしまうのでは…?なんて心配はご無用なのです…!