―― やはり、歌詞を書くときには“手話で伝わりやすいように”ということは意識されますか?
SHINGO とくに意識はしていないんですけど、もう無意識のうちに僕らはそういうものを書くようになっていると思います。あまり比喩表現みたいなものはないというか。というのも、いろんなアーティストの曲をカバーして手話で表現しようとしたときに、手話監修をお願いしている聴覚障害の方に「めちゃくちゃ難しいよ」って言われることも多かったので。だから、聞いている人や観ているひとに「どういう意味だろう?」って考えさせるような歌詞は少ないですね。
TATSU あと、今までずっと、聞こえない人のことを歌詞にしちゃいけないのかなって思っていたんですよね。やっぱり…言われたんですよ。初めてダンスに手話を入れてテレビに出始めた頃なんですけど。活動して5~6年目の頃かな。「手話を道具にしている」って。そういうふうに思われるのもすごく嫌で、歌詞では一切触れずにやってきたんです。でも去年、活動12年目のとき、これだけ活動してきたからこそ、逆にちゃんと実話を歌にしていったほうがいいんじゃないかなって。たとえば、聞こえないことをバカにされたりした経験とかも。
僕らは活動のなかで、いろんな聞こえない人と話して、喧嘩もしたし、呑みにも行ったし、何より、聞こえる人たちとの架け橋になるようにという想いでやってきたので。だから今は「自分たちはこういう気持ちでこういう活動をやっています」って胸を張って言えると思います。やっとこういうふうに踏み切れたのかなって思いますね。
―― いろんなアーティストの曲のカバーもしてきたとおっしゃっていましたが、手話で表現するのにとくに難しかった曲はありますか?
TATSU RADWIMPSさんの「なんでもないや」ですね。今まで、僕らの手話を監修してくれている方と何百曲も相談してきたんですよ。だけど初めて「ごめん『なんでもないや』は手話では作れないわ』って言われました。だから改めて、RADさんの歌詞って難しいんだなぁと思いました。手話で日本語の繊細な表現を伝えるのは難しいところはありますね。
―― 歌詞を書くときに一番大切にしていることはなんでしょうか。
SHINGO 手書きで書くことにはこだわっていますかね。パソコンで打ち込んだとしても、必ず一度は歌詞ノートに写します。それがどんどん溜まっていくと、あとでまた新しいアイデアになったりもするので。
TATSU 僕も完全に手書きですね。今はぐでたまのノートを使っています(笑)。あと基本的には外じゃないと書けないんですよ。だからスタバで外の景色が動くのを見ながら書くとか。山手線で3周しながらとか。とくに電車に乗っていると、なんかすごく良いんですよね。だから「僕が君の耳になる」なんてまさに山手線3周で出来上がった曲なんですよ。電車いいよね!
SHINGO たしかにたしかに(笑)。あとはランニングとかウォーキングとかしながらっていうのはありますね。まぁ…僕の場合は家の中に篭もり派です。そこはTATSUと逆ですね。
―― ちなみに「僕が君の耳になる」のMVのなかで【マジ ヤバい!】という手話がありましたが、あれって最近の手話なんですか?
TATSU あ~!そうですね。造語というか、遊び手話というか。【マジ】は【本当】という手話なんですけど、【ヤバい】は、指文字の【や】を二つ重ねて倍にする。【や】が“倍”なので【ヤバい】なんです。あと【スカイツリー】とかも、昔はなかったんですけど、比較的最近できた手話ですね。
―― では【マジ卍】とかもあるのでしょうか…?
TATSU マジ卍ね(笑)!それは多分、手話にはないんですけど、卍の形を身体で表現するんですよ。だから聞こえない人にも全然通じる。ただ、それが手話かって言われると微妙なところですね。本当に手話って奥深いですし。
SHINGO 結構、仲間内だけで使っている手話とかもあるみたいですよ。他には通じない。あと地方によっても全然違ったりするし。方言みたいなもので、本当に“言語”と一緒ですね。新しい手話を研究している日本手話研究所とかもあって、どんどん増えています。LINEとか、Twitterとか…。(※インタビューの最後で、いくつかご紹介頂きました!)
―― 歌詞に登場するワードが時代によって変化していくように、手話も変化していくんですね。知れば知るほど面白いです。
TATSU そう。だから学校公演で手話の企画として、ちょっとおもしろい動画でみんなに手話クイズっていうのを見せたりすると、かなり覚えてくれます。より広がるきっかけになるんですよ。そういうふうに手話の可能性を広げていきたいですね。エンターテインメントの一つとして【ボーカル×ダンス×手話パフォーマンス】というものを確立していきたいんです。
―― 最後に、HANDSIGNはこれからどんな音楽を届けていきたいですか?
TATSU 今回「僕が君の耳になる」や「この手で奏でるありがとう」を作って思ったんですけど、これからも実話をもとに音楽を届けていきたいと思っています。聞こえない人とか聞こえる人とかに関わらず。作っているほうも、受け取ってくださるみなさんも、「こういう世界があるのか」って心に響くものを作っていきたいですね。
SHINGO 今、TATSUが言ったような、心に響く音楽。そして手話ダンスをめちゃくちゃかっこいいなって思ってもらえるような魅せる音楽。もうひとつは、やっぱりみんなと一緒に手話とダンスを踊って楽しめるような音楽。この3拍子を高めて届けていけたらなと思います。