作詞家の卵たちへ
~職業作家って本当に最初は“謙虚”って植えつけられるんですよ~

―― 今、お三方は30代の職業作家ですが、さらに若い世代からも新しい作詞家が出てきているような感覚はありますか?

hotaru もちろん出てきているし、才能ある方も活躍してる方もいるんですが、確実に少なくなってきているというのは感じますね。

RUCCA そもそもなりたい人が減ってきている気がする。ライバルが多いのは困るけど、まったく下が出てこなかったら、それもそれで困るもんね。僕らも中盤よりちょっと上ぐらいの年齢になって、さすがに下の子を可愛がる余裕も少しずつ出てきたわけじゃないですか。そうするとやっぱり「いないのか…」って寂しく思っちゃうんですよね。

渡辺翔 これ、記事を読んだ僕らの知らない若い世代の作詞家の子たちが「いるわ!」って怒ってくれるくらいがいいな。

hotaru まぁ僕ら含め、今って作詞家の存在自体が正直あまり面白がられてないというか、興味を持たれてないから、語られなさ過ぎていることは間違いないですよね。分析も深堀もされない。

RUCCA たしかに。だから僕たちは「作詞家に興味を持たれるような時代に持っていけないのかい?君たちは?」ってことを問われているのかもしれないですね。

渡辺翔 職業作家って本当に最初は“謙虚”って植えつけられるんですよ。事務所に対しても、告知や歌詞に対しても。本当はもっと深いメッセージがあるけど、僕らはアーティストじゃないから、あんまり多くは語らないように、とか。そのアーティストのものだし、とか。作った人が主張するのはかっこ悪いんだよっていう“イメージ”ですね。たしかに言い過ぎちゃダメなのもわかる。ただ、それが作詞家の謙虚さに拍車をかける状態になっていたんだと思います。

hotaru 自分が謙虚でいるだけじゃ守れないものってありますよね。そうすると舐められてしまうこともある。

渡辺翔 そうそう。でも主張しようとしても“謙虚”が植えつけられている分、なかなか…ね。告知のツイートするときも毎回「ちょっと深く書きすぎたかな?」って思うし。で、アーティストがリツイートしてくれると「あぁよかった、ダメじゃなかったんだ」って(笑)。ただ、少しずつ“謙虚じゃなきゃダメ”みたいな風潮は、薄まりつつあるのかな。それなら、もっと作詞家側から発信してもいいのかなって僕自身も最近よく思います。

―― では、作詞家になりたいと思ったら、まず何をすべきなのでしょうか。

RUCCA 正規ルートがあるとしたら、音楽作家事務所に入ることだと思います。事務所にコンタクトを取って、入って、そこでコンペを受けるのが一番普通のやり方ですかね。でも、事務所の探し方がわからないって人も多いよね。

渡辺翔 僕はMusicman-netで、音楽出版社って書いてある欄のHPを片っ端から当たっていって、作詞家や作曲家を募集しているところをピックアップしていきました。さらに、その事務所にちゃんと活躍している作家がいるかどうかも調べて。当時は、絞っても50社くらいあったので、50社全部に応募しましたね。そして1社からも返事はきませんでした。

一同 えぇ!?

渡辺翔 それを2年やって。2回ともどこからも返ってこなくて。3年目は本当に行きたい数社に絞って出して、それでやっと3社くらいから返信が来て、今に至ります。うちの事務所の場合だと、当時ですけど、詩集を評価されて入った方とかもいるみたいです。詩集を送って、その言葉が良かったから「入りませんか?」って。ただ、相当なクオリティーじゃない限り難しいとは思うんですけど。詩だけでは言葉をハメるのが上手いかどうかはわからないから。でも、ルートはゼロではないですね。

~“一生ギャンブル状態”にならないためには?~

渡辺翔 たとえば今さ、送られてきた詩集を事務所の人間が読んだとして、すげえ尖っている個性的な歌詞を書いている人と、すごく普遍的なテーマなんだけどなんか良いよねって人と、どっちが評価されるんだろう。昔は普遍的に良い歌詞を書ける人が求められていたじゃん。でも今はどっちがコンペに通りやすいとかあるのかな。

photo_01です。

hotaru 僕も今日それを話せたら良いなって思っていました。いわゆる指南本とかに書かれているのは、普遍的な良い歌詞ですよね。情景描写があって、感情の描写があって、シチュエーションを構築していって、ドラマの主人公を作る、みたいな。でも普遍的な歌詞でも、多分そこからプロの作詞家ってひと工夫していて。それはRUCCAさんとも前に話したことがあるんですけど“密度”なんですよね。詰めなくちゃいけない。今、4行で書いていることをプロだったら2行で書くよってことに気づかないといけないというか。

RUCCA 自分で歌詞を書きたいって言っているアーティストも、大体2行で書けることを4行で書いていますよね。長いな、と。作文になっているんです。それで作詞家は呼ばれて教えに行くわけですけど。

hotaru こないだ自分の事務所で作詞家の募集をしたときの応募作品を見ても、やっぱり密度が低いものが多かったです。でも、今の時代って曲の入れ替わりも激しいし、聴かれる時間も短いじゃないですか。だから、歌詞を最後まで読まなきゃ「良い」と思ってもらえないものは、絶対に伝わらない。となると「このワンフレーズだけでこれを伝えたい」っていう情報をギュッと詰め込まないといけないんですよね。たとえ、Aメロだけ切り取られたとしても、ちゃんとそこだけで魅力的な言葉になるように、詰めて詰めて考えなきゃなって。

RUCCA だからこそ普遍的な良い歌詞だと、すぐに流れていく可能性も高いよね。僕も作詞家を目指している子に「どうやったら上手くいきますか?」と訊かれたりするんですよ。要するに「どうすればコンペに通りますか?」とか「どうすれば作詞で食べていけますか?」とか。僕は、長い目で見て作詞で食べていけるようになることが一番大切だと思っていて。そうすると「コンペに通る」ということは前提にして、さらにそのコンペでどうアプローチするかを考えていかなきゃならないんだと思います。

コンペのときは、ディレクターが歌詞の発注書を書くわけですよ。ザックリしている人もいれば、めっちゃ細かい人もいるけど、その多くは普遍的なフレーズを求めているようなもので。そして、作詞家の8~9割がとりあえずその注文どおりに書くというやり方でやっていると思います。でも、もしその歌詞が通ったとしても多分、作詞家の名前は印象に残りません。だから、このコンペは通ったけど、次回のコンペに落ちる。次もまた落ちる。その次は通ったとしても、また次は落ちる。言われた通りに作るだけだと、2個もコンペが決まった実績があるのに、その人はずっとコンペばっかりなんですよ。

渡辺翔 あ~なるほど。一生ギャンブル状態ってことか。

RUCCA そう。だから僕は昔から、めちゃくちゃ変化球を投げるようにしています。オーダーを無視はしないけど、発注書って「ここのど真ん中にすごい速いボールで投げてください」みたいなものが多いと思うんですよ。でも、ストライクゾーンの説明が下手な可能性もあるし…って考えて、ストライクゾーンの大枠の中に全然ドストレートじゃないボールを投げる。そうすると、これまで集まったものはつまらないものばかりだったけど、注文と的外れすぎるわけでもない歌詞として印象づくわけですよ。もしこれが通れば「こいつすげー変な歌詞を書く奴だな」って、名前も一発で覚えてもらえる。

渡辺翔 同じ歌詞が集まっているなかで、良い意味で浮くしね。

RUCCA そういう自分のブランディングもしたほうが良いよって伝えたいですね。またその人を使う理由になるから。

~どうして主人公を“女々しく”するの?
作詞モードへのスイッチの入れ方は?~

渡辺翔 あとさ、作詞家の卵の子たちが歌詞を書くときに、どこで時間を取られるかって言ったら【二番をどう乗り切るか問題】が大きくない?

RUCCA たしかにね(笑)。そうだ、さっき翔君は「主人公がよく女々しいって言われる」って話をしていたじゃないですか。それで、僕の主人公ってどうなんだろうって考えてみると、やっぱりわりと女々しくて弱い主人公が多いことに気がついて。じゃあなんで女々しくしているかというと、もちろんそういう歌詞が好きなのもあるんですけど、女々しく1Aが始まると1サビでは絶対に完結しないからなんですよね。そうすると2Aから主人公の成長が描けて、2番に困らない。

hotaru あ~!そうか。自分も無意識のうちにそうしています。今RUCCAさんに言われて、言語化するとそういうことなのかと気づきました。なんか、女々しさもそうだけど、何かしらネガティブな要素を持たせたほうが展開しやすいですよね。冒頭からポジティブで行っちゃうと、ポジティブの列挙にしかならない。同じことを言葉を変えて書いているだけの歌詞になるから。

RUCCA うん、最初から最後まで強さに引っ張られるみたいな、ポジティブなイメージで書き切るのは僕もやってないな。カッコいい曲で、男が主人公だとしても、大体ダメなところを書く。やっぱり抑揚が出るよね。

hotaru ちなみに、スイッチの入れ方ってありますか?こうすると仕事モードに入れるみたいな。

渡辺翔 暗い曲を作るときには、スイッチを入れるために好きな曲のMVを見ますね。例えばLyu:Lyuの「メシア」って曲なんですけど。MVがちょっとしたショートムービーになっているから、簡単に気持ちを現実から引き離してくれるんですよ。それを観るとすぐ作詞モードになりますね。不幸なストーリーを観て、自分もそうなったかのように暗い気持ちを作ると、神経のスイッチが入ります。

RUCCA 僕はないなぁ。書くスイッチ入れるその動画を観るためのスイッチが欲しいもん(笑)。

hotaru 僕もいつもそれで苦しむんですよ。パソコンの前に座って、曲を聴いて気持ちを高めようってYouTubeを開くじゃないですか。いろんな曲に飛んでいくじゃないですか。「…あれ?気づいたら夜だ」みたいなことがちょいちょいある(笑)。

渡辺翔 そうねぇ(笑)。あとは「楽しもう!」じゃないけど、やるべきことの付箋をパソコンに貼りまくったりしてる。まぁこれは先月くらいからやり始めて、剥がしても次の締め切りが来るから一向に減らないんですけど。でも「あれをなくすんだ!剥がしたい!剥がしたい!」って気持ちがスイッチにもなる。その欲求で頑張ると少しだけスピードが上がります!

―― ありがとうございました!最後にこれから作詞家になりたいという方たちにメッセージをお願いします。

photo_01です。

hotaru 新しいものを作りましょう、ってことですかね。下の世代がなかなかいないって話をしましたけど、僕らより10歳も若い、20代前半の子たちの感性で書かれたものって、僕らには絶対にマネできないし、技術じゃないところだと思うので、そういう人たちにもっと出てきてほしいです。どんどんおもしろい音楽が生まれていったら良いなと思います。

RUCCA プロになりかけの早い段階だからこそもらえる仕事をどんどん世の中にだして、フィードバックをもらって、自分は何者になりたいのか、どう書き続ければ自分は食べていけるのかということを想像しながら行動していく。そういう人はいつかきっと、食べてゆける職業作家になれると思います。とにかく作詞家は自分で育つしかない。リリースしたら、エゴサしたり、ライブを観に行ったり。リアクションには悪口も賞賛もあるけど、そういうコメントをちゃんと受け止めて、成長し続けていくことが大切だと思いますね。

渡辺翔 動くことを忘れないように、ということですね。作詞家も作曲家も、モノを作ることにはみんな前傾姿勢だけど、動くことには億劫というか、腰の重い人が本当に多いから。だから、プロになる前の人も、この業界に入ったばかりの人も、書くことだけに前傾するんじゃなくて、常に動いてほしいです。周りに知り合いを作ることもそうだし、業界内にファンを作るってこともそうだし、人との繋がりを大切に、ガンガン動いていってほしいなと思います。


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