第106回 緑黄色社会「sabotage」
photo_01です。 2019年11月6日発売
 歌詞を取り上げる前に、初登場ということもあるし、まずは彼らの魅力について。最初にグループ名だ。他とは似てない独特なものでありつつ、持続可能な社会を目指す、これからの時代にも合っている。なので緑黄色社会というのは、実にいい名前だと思うのだ。

そしてもちろん楽曲だ。まさにポップ・ミュージックと呼べる、聴きやすい構成の作品が多い。それでいて、心に刻まれるテーマ性、オリジナリティ溢れる工夫がなされた作品も多いのだ。

メンバーはどんな人達なのだろう。ボーカル・ギターの長屋晴子、ギターの小林壱誓、キーボードのpeppe、ベースの穴見真吾の4人は、全員がソングライターであり、それが彼らの音楽性を、ひとつに凝り固まらない風通しのよいものにしている。

ちなみに人気曲「Mela!」は、作詞を長屋と小林,作曲をpeppeと穴見が担当しているのだ。この歌のテーマといえば、心に巻き起こる“衝動”そのものだったりもするが、この形のないものを、彼らは力を合わせ、見事、数分間の形あるものとして描き切っている。他にも競作関係は様々で、作曲クレジットがバンド名になってるものもある。

全員がソングライターであるということは、グループに好循環をもたらしている。演奏するにも、全員が楽器でよく“歌って”いる。それはライブにおける最大の武器にもなるだろう。僕はまだ生で聴いたことがないけれど、ツアー映像を観る限り、緑黄色どころか何十色ものイメージが降り注ぐかのようなステージだ。

カラフルな世界観がある一方で、アッパーなエモい曲では全員一丸となり、ひとつの強い色へと結束することも出来る人達だ。

長屋晴子のシャウトは“虹が架かる”かのようだ

 声がよく伸びてる、とか、ヒップホップ的なかつぜつが見事、とか、生まれながらにいい声だ、とか、感情移入がハンパない、とか、歌を聴くと様々なことを感じるものである。ひとつでもズバ抜けたものがあれば、武器になるだろう。そして長屋晴子というボーカリストには、他の誰にもない個性がある。

この人がシャウトすると、そこに大きな虹が架かるかのような、そんな景色が広がることだ。「リトルシンガー」など、本当にそんな気分になる。到達距離の長い声がこの曲では活きる。しかも空中で、様々な模様を描きつつ架けていくのが彼女の歌声なのだ。

中間色から原色の自分をみつけだす「sabotage」という曲

 ここからは、歌詞のことを具体的に書く。彼らの作品から、今回、歌詞に注目して取り上げたいのは「sabotage」だ。2019年11月6日にリリースされた初のシングル曲である。

哲学的なテーマの作品といえる。哲学とは、生きることを考える学問のこと。この歌の主人公は、ふとした瞬間に、自分は自分の人生をサボっている(=sabotage)のでは?と感じる。

そして、取り残されような感覚に苛まれる。とはいえ、けして自分の人生を蔑ろにしてきたタイプではない。[集めてきた 好きなモノやヒト]ならある。むしろ好奇心旺盛に、積極的に世の中と交わってきたのではないだろうか。

[なんだか今なら]のサビの部分から、急速に進展していく。それまでは[YESとNOの間でなんとなく]というふうに、中間色だった気分が、ここから一気に原色のものとして動き出す。[愛されるより愛したいとさえ]の“さえ”が効いている。受動は能動へ変わる。

とはいえこの歌に、押しつけのメッセージはない。「ああしなさいこうしなさい」はない。しかも1番を聴く限り、大切なことを敢えて省略しつつ歌詞を綴っているところがある。

2番になると、ぐっと世界観が具体的になる。自分は“サボっている”と感じたのは、[いつもは似たもの同士]の相手との関係においてだったことも判明する。

歌の登場人物をふたりだけに限定するなら、ラブ・ソングとしても聴けるかもしれない。恋愛相手への大切な意思表示を“サボっている”、というように…。ただ、あくまでそのようにも聴ける、というだけで、これ以上、このことにはこだわらず先に進もう。

2番の特徴は、自分自身に言い聞かすような語調に変化することだ。[奮い立てよ][集めていけ]。そしてこの2番のサビにおいて、この歌が伝えたい、もっとも大切なことが示されていく。

そう。[見つけたのは自分らしさの欠片]という、この部分だ。主人公は、なにを契機にそれを発見出来たのだろうか。ずばり、まさにこの歌の2番のサビの歌い出しの[追い越されながら]というのがポイントだ。

この場合の“追い越される”は、レースに負けて置いてきぼりなることではなく、むしろそのことで、まわりを冷静に眺めるきっかけを得たということだ。歌を聴き終わったとき、ちょっとだけ自分は成長した実感を得るのは、1番から2番への歌詞の進展が、巧みな構成になっているからだ。

他にもわんさか、リョクシャカの名曲

 「sabotage」と関連して思い浮かぶのが「アウトサイダー」かもしれない。自分の中のもうひとりの自分(=アウトサイダー)との対話を描く。歌詞の内容だけでなく、“♪アウトサイダぁ~”“♪僕はただぁ~”の語尾のトーンの合わせ方もいい。

他にも印象的な作品が多い。「あのころ見た光」も秀逸であり、この場合の“光”とは、時空を越え進むべき路を指し示す道標のような存在だろう。つまり、“あのころ”の光と、ふたたび目の前に現われた光は同じ“光源”だということ。

なお、一番大切なものが[本当はそこらに散らばっている]という感覚は、ポップ・ソングの普遍的なテーマだが、それを今の感覚でいかに描くかが腕の見せ所なのだろうし、この歌は果敢にトライしている。

さらに「Shout Baby」のことも書かせてほしい。歌詞を噛みしめれば噛みしめるほど様々な感情が沸き上がってくる作品だ。楽曲タイトルと詞の内容とのマッチングにも注目すべき。というのも、歌のなかには[内緒][嘘]という言葉が散りばめられていて、主人公は抑圧された気分も抱えている。そのうえで、タイトルは「Shout Baby」だからなのだ。

もっと書く(笑)。他にも「夏を生きる」の冒頭のサイダーが出てくるところの[ベタついたまま]というこの飲み物の糖分にひっかけた表現も、実に新鮮だった。サイダーが出てくる歌はけっこうあるが、この単語を選択した自分のセンスに酔っているだけのものも見受けられるが、この歌は明らかに違うのだ。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

日本語版が出版されてから少し経ってしまったが、『エルトン・ジョン自伝』(ヤマハ)を読んでいる。かなりざっくばらんに楽屋ネタも書かれているのだけど、イギリス人であるエルトンがアメリカで成功したことの悲喜こもごもも含め、濃いめのエピソード満載の内容だ。あの世界的名作「ユア・ソング」を作詞のバーニーと書いた瞬間のエピソードは、拍子抜けするほどあっさりしたものだった。しかし、天才というのはそういうものなんだなぁと納得した。