第157回 CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」
 「歌を聴く」ことと「詞を読む」ことは別の楽しみだったりもする。もちろん、世の作詞家は聴いてこそ映えるコトバを綴っているのだが、本コラムとしては、後者に力を入れたいところである。

で、最近もっともその歓びを感じた作品のひとつがCUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」だった(作詞は早川博隆さん)。

ちなみに、歌のタイトルであるこのフレーズは耳にしたことあるけど、歌詞の全貌は知りませ~ん、という日本国民はたくさん居ることだろう(実は僕も三日前までそうだった)。なので改めて、今からじっくり味わっていくことにする。

photo_01です。 2024年11月13日発売
この“かわいい”の出所は……。

 タイトルだけ耳に入っていた段階だと、歌の主人公は自分の可愛さには自信があるが、他の部分に関してはそうではなく、“かわいい”を一点張りアピールをしてるようにも思える。しかも、その可愛さは努力というより天性のもの、という推測も。でも冒頭で覆される。

[あと10分で家を出なくちゃ遅刻]という、切羽詰まった状況からスタートするからだ。主人公は仕方なく、タクシー代を奮発し、車内でメイクをする羽目になるのである(その様子が具体的に書かれているわけじゃないのだが)。

この段階で伝わってくるのは、この“かわいい”は努力の結晶でもある、というニュアンスだ。

「かわいい」と「Kawaii」

 このあと、実にポジティブな表現が多くなる。まずは[私のでっかい夢]であり、その少しあとに[可愛さで世界征服!]というフレーズも登場する。この圧倒的な自己肯定が小気味よいし、昨今の若者に欠けていると指摘されがちな野心も伝わってくる。

ところで多くのヒトは、こう想うのではなかろうか。ここで歌われている「かわいい」は、世界共通語の「Kawaii」へ重なるのかもしれない。そう意識して聴き進むと、歌が違ったスケール感で届いてくる。

世界三大美女の新解釈について

 なかなか油断できない展開の歌詞である。実は途中で、何度か場所と時間がワープして、美の分野の先輩達が、続々登場するのである。

まずは日本代表の小野小町。[愛を取り合う戦い]に、彼女も本気を出していたんじゃないか? 彼女が存在した平安前期へと、と想いを馳せることになる。そのあと出てくるのはクレオパトラである。彼女もこの件に関しては[ガチで本気出してた]と続いていく。

で、二人が出てきたということは…、最後は楊貴妃だろうなと思ったが、なんと三人目はマリリン・モンローだったのだ。このヒトも[愛を取り合う戦い]については[多分本気出してた]と紹介されている。た、多分ってさぁ(笑)。このアバウトさもいい味出している。

でも、なぜ楊貴妃じゃなくモンローだったのか? その理由は不明だが、結果として親中よりも日米同盟を優先した形となった。

とても鮮やかな誇張表現について

 歌全体を見渡してみて、もっとも優れたキラー・フレーズを選べと言われたら、個人的に印象深かったのは、最後のほうに出てくる[地球の形変わっちゃうくらい]に尽きる。ここ、非常に歌詞映えしている。

でもそれは[ラブでラブして!][愛で愛して!]という、ここにならぶ積極性の結果だ。やがて目の前に浮かぶのは、さしずめハート型になっちゃった“地球の形”かもしれない(歌詞にそう書いてあるのではなく、あくまで想像だけど)。

ギュギュっと抱き締めたら、そんな形になっちまったくらいのスペクタクルも、この濃(こ)ゆい感情吐露に支えられ、さほど違和感なく耳に届く。

そして本作は、“原宿賛歌”としても聴ける

 歌の舞台設定として、ずばり、[ここは原宿]と断定的に歌っている。そしてこの街は、[かわいいものが集まる]イコール[日本の中心!]と力強く宣言。このあたり、まったく異論なーし。

歴史的にみても、そもそも縫製関係などで働く若い女性が多かった地域であり、彼女たちが安全に過ごせるような努力を、街ぐるみで築き上げてきた場所なのである。その歴史の上に今があり、世界中から流行に敏感な人々が集い、毎分毎秒、「Kawaii」がアップデイトされているのだ。

そして最後に、「かわいいだけじゃだめですか?」というアーティスト側からの問いかけに答えることにしよう。「いやいやダメじゃないですよ。しばらくは“かわいい”だけで突き進んでみてください!」。以上。

FRUITS ZIPPERの歌も聴いてみることにした

 CUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」だけじゃなく、FRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」も聴いてみることにした(作詞はヤマモトショウさん)。

二曲とも可愛さがテーマなのだが、どちらかというとCUTIE STREETの楽曲は、自己啓発自己発信することで未来を切り拓いていく。FRUITS ZIPPERのほうは、周囲がきっかけで己の“かわいい”に気付いた主人公が、どんどん無敵になっていくという、ワンクッションある展開として聴けるだろう。なので周囲に対しても、つまり、[わたしの一番、かわいいところ]を認識(指摘)してくれた相手に対する賛辞も惜しまない。

もしラブ・ソングとカテゴライズするならば、「かわいいだけ…」より「…かわいいところ」のほうがソレっぽいのかもしれない。特定の相手の影というのは、こちらのほうが色濃いのだ。

ただ現実は(相手のほうに)厳しくて、主人公は[付き合ったりは無理ごめん]と釘を刺すことも忘れないのである(笑)。ま、へんに思わせぶりより、こっちのほうがいいかも。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

SpotifyとFM COCOLO「SUPER J-HITS RADIO」の連動企画「ArtistCHRONICLE(アーティストクロニクル)」の小田和正さん特集に、監修とトーク・ゲストということで参加させていただいた。この偉大なアーティストのこれまでをダイジェストでお届けする内容。特にSpotifyのほうは、何時でもどなたでもお聞きいただけるので、ぜひぜひ。