「幻の2サビがある」って書いておいてください!

―― 作詞面で影響を受けているアーティストはいらっしゃいますか?

ユーミンさんかな!完全に。自分で作詞法を模索していたときに、どうしてユーミンさんはこんなに歌詞が良いと言われるんだろうと思って、いろんな曲の歌詞を読んでみたんですよ。そうしたら、主人公はフラれた女の人とか、強くありたい女の人とか、人物像はわりと同じタイプが多かった。でも、物語はものすごくいろんな方向に何パターンもある。これは絶対に一人の感覚や経験ではないと思ったの。それで偶然お会いした、ユーミンさんと一緒に仕事をしたことがあるというディレクターさんに作詞法についての話を聞いたんです。

―― どんな作詞法だったのでしょうか。

ユーミンさんは人の話を聞いて、それをすぐメモするんですって。その人がどう思ったのか、どこで待ち合わせて、どういう思い出があって、彼は何色のクーペに乗っていて、というのを全部メモして、歌詞に落とし込むんですって。自分の経験ではなくて。それを聞いて「そういう書き方もあるんだ!」って、僕も先ほどお話したストーリーテリングの作詞法を覚えたんです。情景がしっかり見えて、ストーリーが伝わってくるというところも、ユーミンさんの歌詞をすごく参考にさせてもらいました。僕の場合はユーミンさんよりも主人公がもっと自分自身に重なっているような感覚ですけど、ビッケブランカを育ててくれた方だなぁと思いますね。

―― ユーミンさんの楽曲で一番好きなフレーズというと?

いろいろあるんですけど…「守ってあげたい」の<遠い夏 息をころし トンボを採った もう一度 あんな気持で 夢をつかまえてね>もう…この歌詞は本当に素晴らしいっ!凄いです。幼い頃トンボを採った感覚を夢をつかまえることに重ねる表現力!普通<あんな気持で>なんて言えませんよ。すぐ“諦めないで~♪”とかなるよ(笑)。そこをそう例えてくるかぁ…って。この歌にはとくにやられましたね。

―― ご自身が作詞をするときに、意識して使わないようにしている言葉ってありますか?

基本的に「うれしい」「かなしい」「たのしい」「さびしい」とかは書かないですね。ただの形容詞ですから。それそのままを言ってしまったら、歌詞である意味がないというか。その気持ちを形容詞を使わずにどう表現するかということが大切だと思っているので、そこは意識しているところですね。

―― 逆に、よく使う言葉はありますか?

photo_01です。

…頻繁に使う言葉は…あまりないかなぁ。結構、自分は語彙が多いほうだと思っていて。というのも、昔からめちゃくちゃお喋りだったんですよ。小学校の頃には、いつも僕のことを「うるさぁい!」ってヒステリックに怒っていた担任から最後の最後の通知表に「あなたは弁が立つから、弁護士になりなさい」ってイヤミを書かれたくらい(笑)。いろんな言葉で笑わせたかったし、伝えたかったから、自然と語彙が多くなっていった感じです。でも今思えば不思議ですね。喋りではそんなに饒舌だったのに、音楽では伝えたいことがまったくなかったんですから。

―― そうですねぇ。何故でしょう。

多分、話すことでもう十分だから、音楽に必要なかったんでしょうね(笑)。伝えられないもどかしさがなかったんだと思います。だけど、そういう昔に得た語彙が歌詞を重視するようになってからも役立って、いろんな言い回しができているんじゃないかなと。そして、その出てきたフレーズがたとえ聴きなじみのない表現であっても自分で削がないようにしようとしていますね。ちょっと助詞が合っていなくても、これでも伝わるだろう、響きは面白いだろうって自分が思ったらそのまま残す。ストーリーや気持ちにちゃんと意味があれば良いだろうと思っていますね。

―― あ、そのお話を聞いていて、ひとつお伺いしたかったことを思い出しました。「WALK」冒頭の<想像の光景が未来と信じた だって泣いてやっと声に出して>というフレーズ。これはどういう意味なんだろうってすごく考えまして…。

あぁもう…着目点が鋭いっすねぇ。ここはですねぇ…。でもここの意味はあえて聴いた方の想像にお任せします。

―― ただ、このフレーズもさっきおっしゃっていたように、文として助詞は繋がらないんですけど、なんとなく主人公の感情というか“やっと声に出せた”主人公の感覚は伝わってきます。

そうそうそう。必死こいてこの<僕>は何かしらを出したんです。いきなり「だって」が来ますからね。ちなみにこの「WALK」の歌詞でもっと気になるフレーズありませんでしたか?これってどういうこと?っていう。

―― もっと気になるところ…。うーん…。

あ、ごめんなさい!このバージョンにはないんだ!シングルに収録されるのは「WALK(movie ver.)」だから、2番のサビがないんですよ!でも、本当のフルバージョンには幻の2サビがあるのです!あ~~~そうか、みんなはまだ2サビは聴けないのかぁ。そこにねぇ、なかなか「ほぉ…!」って立ち止まるような歌詞があるんですよ。

―― そう言われるとめちゃくちゃ気になります!

記事に「幻の2サビがある」って書いておいてください!そんでそのフルバージョンが世に出るときまたインタビューに来てください(笑)。

―― 承知しました(笑)。いろんなお話をありがとうございました。では、最後に歌ネットを見ている方にメッセージをお願いします。

僕は「人にこうしてほしい」っていうのと「自分がこうなっていきたい」っていう二つがすっぽり抜けているんですよね。自分の今しか考えてないところが良くも悪くもあるので…。でも、そんな僕の一瞬一瞬の人間的な変化がこれからも歌詞に色濃く出ていくと思うので、そこを楽しんでもらえたらいいなぁと思いますね!


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