―― 8曲目の「365」は“手帳の高橋”イメージソングです。最近はアプリのみの方も増えてきていますが、絢香さんも手帳愛用派ですか?
はい!アプリも便利ですけど(笑)、その時の自分の文字を残せる人肌の温かみは“手帳”ならではだと思います。この曲を書きながら、改めて素敵なアイテムだなぁと実感しました。一年前の今日のページを読み返すと「あの時はこれで大変だったなぁ…」って思い出したり。でも今はもうその気持ちが抜けていたり。たった一年でこんなに変わることもあれば、逆に変わらない部分もあるということがわかって、自分を知るきっかけになりますよね。あと「こうなりたい」という目標を書き留めることで、発揮される文字のパワーもあるんじゃないですかね。書くと本当にそれが叶ってゆくというか。手帳は、そんな想いも軌跡も未来に残していけるんですよね。
―― この曲の<振り向けばほら 私の願う未来>というフレーズがとくにグッときました。普通なら振り向くと“過去”がありそうですが、ここでは“未来”があるんですね。
あ、たしかに。ここでは、手帳を開いて<泣いたり笑ったり>していた過去を見ているわけですよ。365日の中には、「ついてないな」って凹んだり頭を抱えたりする日もたくさんあります。でも、だからこそ「なんて幸せなんだ」という日もくる。<振り向けば>こっち側には“未来が待っている”ということ。その365日の積み重ねで“未来”が作られていくんだというメッセージをこの曲には込めました。
―― 10曲目の「あいことば」は、11月16日から公開の映画『人魚の眠る家』の主題歌です。取材の前に東野圭吾さんの原作を読んだのですが、とにかく…凄い作品ですね。
※あらすじ:離婚寸前の夫婦のもとに、ある日突然、届いた「娘がプールで溺れた」という知らせ。愛するわが子は意識不明のまま、回復の見込みはないという。奇跡を信じる夫婦は、ある決断を下すが、そのことが次第に運命の歯車を狂わせていく…。
本っ当に素晴らしい作品です。まず台本を読ませていただいてから曲を書いたんですけど、文字を読んでいる段階で、もう頭の中に映像が浮かんでいたので、映画を一本観てから作ったような感覚に近かったです。映画の中の母と娘は究極の状況下にあるじゃないですか。それでも信じ続ける母の想いは決して一方通行じゃないだろうし、その想いがなんとか届きますようにということを短い言葉で表現したかった。合言葉って本来なら目と目を合わせて交わすもの。でも交わせない状況でどんな言葉なら二人のつながりを表現できるだろうかと思った時に浮かんだのが、冒頭とラストの<透明な愛言葉>というフレーズです。フィルターがかかっているだけで、本当は絶対に届いているし、声も聞こえているし、お互いの想いをわかり合っている。愛し合っている二人が作り出す愛言葉です。
―― エンドロールでこの<透明な愛言葉>という言葉が響くだけで、きっといろんなひとの救いになると思います。
人生のなかで、大事なひととの別れは避けられないものですし。だからこそ「あいことば」は、深く愛するひとと別れたあとの世界にも、未来に希望を感じられる曲にしたいと思いました。この作品の主題歌を書かせていただいて、今生きていることとか、大事なひとたちがそばにいることが、いかに当たり前ではないことか痛感しましたし、深く考えさせられました。何より、こんなに素晴らしい映画の一部になれたことが嬉しいですね。
―― 絢香さんも<透明な愛言葉>を娘さんとの間で感じる瞬間が日常にありますか?
ありますねぇ…。目では見えないものだけど、心で触れる…そんな繋がりを感じる、かけがえのない瞬間ですね。具体的な「こういうとき」というより、本当にふとしたときに感じます。それこそ「透明な愛言葉」だと思います。そんなふうに思わせてくれるって、すごいことだなぁと感じますね。
―― そして、11曲目の「ハートアップ」は三浦大知さんと、12曲目の「Glory」はKREVAさんとのコラボ曲ですが、今後コラボしてみたいなぁと思うアーティストはいらっしゃいますか?
います!今回、久々にコラボでしっかり作品を作ってみて、とても楽しかったんですね。学ぶことが多かったり、刺激にもなったし、モチベーションも上がるし、良いことしかない!という感じで。だからコラボレーションにはすごく前向きで、機会があればどんどんやらせていただきたいという気持ちです。
―― 絢香さんが、歌詞が良いなぁと思うアーティストを教えてください。
たくさんいますが…。DREAMS COME TUREさんは昔から大好きで聴いていました。吉田美和さんにしか創り出せない世界観があるし、ずっと等身大でいられるって本当に素晴らしいことだなと思うんです。
―― 絢香さんが歌詞を書くときに、よく使う言葉ってありますか?
よく使う言葉かぁ…。意識はしたことはなかったんですけど【空】に関するキーワードが多いかもしれない。希望を感じたいときには空を見上げるし、悲しいときには空が泣いているし、昔から自然とよく使ってきました。そういえば、今回のアルバムでも「センチメント」の<曇り空をかきわけ>とか、「365」の<雨のち晴れのち 曇り空でも>とか、書いていますね。感情を空模様で表すことが好きなんだと思います。
―― ありがとうございました!では最後に、絢香さんが歌詞を書くとき、一番大切にしていることを教えてください。
自分に正直に歌詞にしていく。そのときの想いと向き合っていく。それがあとで振り返ったとき、一番気持ちよいですからね。なるべく背伸びをせずに、今の私の等身大で伝え続けていきたいなと思っています。そんな曲たちが、結果的に聴く人の希望や力になったら、それほど嬉しいことはないです。