2010年の代表曲に挙げられる坂本冬美の「また君に恋してる」も、西野カナ「会いたくて 会いたくて」「if」も、更には2008年の発売以来、歌ネットではずっと検索上位にあるGReeeeN「キセキ」も、歌詞中の二人称は「君(キミ)」なのだ。90年代以前の二人称は、J-POPの大半が「あなた」、激しいロックや任侠もの演歌、近年でもB-BOY系のヒップホップやレゲエなら「お前」が主流で、「君(キミ)」が出てくるのは、どうも青くさいイメージが先行しすぎたのか、さほど多くなかったように思われる。しかし現代は、男女平等の影響なのか、草食系男子の人気からか、とにかく目立つのが「キミ」うたばかり。そんな中で、かつてメジャーだった「あなた」うたではどんな楽曲が人気なのだろうか。
ランキング表を見てみると、総合TOP30のうち「あなた」うたは、わずか11曲。やはり主流ではないものの、意外に健闘してるようにも思える。その中で1位はJUJUの「この夜を止めてよ」。同様に、EXILE「もっと強く」、中島美嘉「一番綺麗な私を」など、曲調がメロウな場合は、「キミ」よりも「あなた」の方が心にぐっとくるという効能をあらためて感じさせる。他にも、10位の嵐の「Dear Snow」なども「あなた」が登場することで、ロマンティックな雰囲気が助長されているのが分かる。
そして、2位、3位には韓国の女性グループKARAの2ndと1stシングルがランクイン。彼女たちは、平均年齢が19.6歳で、少女時代(平均年齢20.4歳)とほぼ同じ若さだが、それ以上に"妹キャラ"が目立つのは、バラエティー番組でもいじられるほど人懐こいトークの人気もあろうが、歌詞中で相手を「あなた」と呼ぶことで、彼氏が年上だという楽曲の世界観も自ずとアピールできていることが意外とポイントなのではないだろうか。
なお、いきものがかりが「ありがとう」や「YELL」など"「あなた」うた"で上位入りしているが、彼らは「じょいふる」や「キミがいる」など"「キミ」うた"の方でも人気なのが興味深い。つまり、より大きなメッセージ性を前面に出したいときは「あなた」うたで、より楽しい世界を演出したいときは「キミ」うたで、と使い分けているように思える。そういった自然な気配りが、彼らの幅広い世代への大ブレイクに一役買っていることは間違いない。
以上のように、"「あなた」うた"は、意外にも絶滅していない(笑)だけでなく、それぞれの"「あなた」うた"には"「キミ」うた"にない重要な演出効果があることも分かった。以前、TVで80年代のポップスを聞いた若い方が、「"あなた"って重くね??」とコメントしていて、その感想に現代における恋愛のカジュアル感覚や照れを垣間見たような気がしたが、"重い"からこそ"想い"の一途さや普遍性が相手に伝わって、それがメリットになることも大いになるのだなと、今回の結果を見て、実践していただければ幸いである(微笑)。