前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラーチューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、冬うたの人気曲に着目した。
CDチャートでは、ワム!の「ラスト・クリスマス」とマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」が収録されたコンピレーションCD(2010年は『クリスマス・エブリデイ』)や山下達郎「クリスマス・イブ」など、毎年12月下旬に必ず急上昇する作品が見られる。前者は毎年、数曲のマイナーチェンジをした"新作"でもヒット、後者に至っては初出の83年はEPレコードだったのが、89年に8cmCDとして再チャートイン、2000年以降は12cmシングルと形を変えて、ついに25年連続オリコンTOP100入りを果たすなど、(勿論良い意味で)"驚異のワンパターン" だ。これに対して、歌詞検索はどうだろうか。

第18回:冬うたTOP10 (2011年1月:前月データより分析)
テーマ順位
総合順位
アクセス指数
タイトル
アーティスト
発売日
1位
7
100
流星 コブクロ
2010/11/17
2位
20
64.7
A winter fairy is melting a snowman 木村カエラ
2010/12/8
3位
28
56.3
ユキラブ Juliet
201012/15
4位
32
51.8
Can't Wait 'Til Christmas 宇多田ヒカル
2010/11/24
5位
40
45.0
Rain YUI
2010/11/24
6位
64
31.7
予約したクリスマス AKB48
2010/12/8
7位
74
30.0
Christmas Love 西野カナ
2010/11/3
8位
84
28.0
真冬のオリオン INFINITY 16 welcomez MINMI & 西野カナ
2010/12/4
9位
100
24.1
闘え!サラリーマン ケツメイシ
2010/11/17
10位
136
20.0
Dear Snow
2010/10/6

 ランキングを見てみると、意外にも総合TOP10入りの "冬うた"はコブクロの「流星」のみ。これは"冬うた"というよりも、ドラマとの相乗効果が強いだろう。他を探そうと総合TOP50まで見ても"冬うた"は5曲で、これは11曲が総合TOP50入りした「桜&卒業ソング」(第9回参照)と比べると圧倒的に少ない。

しかも"冬うた"は、2010年ものばかりで"桜&卒業ソング"におけるレミオロメン「3月9日」のようなロングヒットが歌詞検索では見当たらないのだ。この理由を、温暖化による影響で真冬を感じにくくなったからでは?と社会科学的に論じる人もいそうだが、何十年も前から、雪が降らなくても雪にまつわるヒットソングが大量に出ていたので、そんな小難しい理由ではないだろう。私自身は、ここ数年の音楽市場が、花鳥風月などを表わした実際の風景ではなく、ケータイや恋人との距離など心象風景に大きくシフトした楽曲を前面に押し出した結果ではないかと推測する。

 しかし別の視点から見れば、00年代前半の"桜ソングブーム"のような現象が起こっていない分、今後、例えば"クリスマス・ソングブーム"、"スキー&スノボーソングブーム"などが起これば状況が変わるのかもしれない。(そういえば、真冬の一大イベント、バレンタイン・ソングの定番は、辛うじてPerfumeの「チョコレイト・ディスコ」がある程度で、それ以外だと1986年の国生さゆり「バレンタイン・キッス」まで遡ることに。やはり、この市場はガラ空きなのかも??)

 また、"冬うた"TOP10の上位は、2位の木村カエラ、3位のJuliet、4位の宇多田ヒカルなど、女性の喜怒哀楽が歌われた楽曲が圧倒的に多く、これは寒空を描いた時、華奢な女性の方がより感情豊かに聞こえるということもあるのかもしれない。だからこそ、9位のケツメイシのように体育会系さながらの宴会ソングは、男性ならではの力強さがひと際目立つ。夏の鉄板ソングとなった湘南乃風「睡蓮花」のように、この路線から今後スタンダードが出ることも期待したい。




A winter fairy is melting a snowman
木村カエラ


  木村カエラの結婚・出産後初となるCDで、通算16作目となるシングル。前作「Ring a Ding Dong」同様に、NTTドコモCMソングとなっており、また、♪A winter fairy is melting a snowman〜というサビの部分が楽しいのも前作同様だ。そのせいか、着うた(30秒)のダウンロード数は絶大なのに、着うたフルの方はそこそこの人気、更にはCDは更に控え目なセールスとなっている。この{着うた(30秒)}>>{着うたフル}>{CD}という傾向も前作同様なのだが、これは着信音としては非常にインパクトはあるのだが、楽曲全体では今ひとつ魅力が伝わっていないという現われではないだろうか。特に、前CDではLIVE音源が9曲入っていたことからパッケージとしての訴求力が非常に大きかったので、それとのギャップがより大きいのかもしれない。しかし、本シングルのタイトル曲は少女が聖夜に夢見る気持ちがよく出ていて、楽しげな中にもちゃんと温かみがあるし、カップリング曲の映画『チェブラーシカ』主題歌「orange」も、デビュー当時のアッパーな曲調ながら、近年の私生活での充実ぶりを想起させる「一人じゃない〜」という歌詞が印象的で、心と心の確かなつながりを感じさる。さらに、カラフルなCDケースやチェック柄のCDレーベルも可愛い。つまり、実際に手にとって見ると、その良さが分かるシングルなのだ。

 


ここではデビュー1年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


 今月は、昨年7月21日にメジャー・デビューした男性シンガーソングライターのTEEに注目。彼は、1982年広島県生まれの28歳で、10代の頃プロボクサーを目指すも怪我のため断念、その後、地元広島のクラブ等で様々なアーティストの前座をつとめ、09年ミニアルバムを経て、翌年のデビュー・シングル「3度のメシより君が好き」のリリースに至った。この作品では、ラテンのリズムに乗せてややコミカルタッチでまくし立てるように愛を能天気に告白しているのに対し、2ndシングル「ベイビー・アイラヴユー」ではスロウなサーフ・ミュージックに乗せて真摯に愛を告げるという表現の幅広さが興味深い。後者は、着うたフルで30万件を超えるヒットとなった。他にも、文字通り、友への元気なエールソングの「がんばれよ」や、年老いてもパートナーを愛そうと不器用に歌う「Wedding Eve」などアルバム『Kido I Raku』の楽曲も多様だが、どの楽曲もスポーツマンらしくストレートでパワフルな想いが一貫しているので、好感を持つ人も多いはず。ちなみに、7ヶ月前、歌ネットルーキーだったナオト・インティライミも、一度挫折を経験し、世界中を旅した後、ブレイクを果たしている。やはり、今の時代は、紆余曲折を経て自分の器を磨いた方が、より共感を得やすいということだろうか。(余談だが、どちらもユニバーサルミュージック所属。)。




TEE
順位
占有率
楽曲
初収録作品
発売日
1
79.5%
ベイビー・アイラブユー 2ndシングル
2010/10/27
2
2.9%
がんばれよ 2ndシングル c/w
2010/10/27
3
2.5%
3度のメシより君が好き デビューシングル
2010/7/21
4
2.4%
散歩道 1stアルバム『Kido I Raku』
2010/11/17
5
2.1%
Wedding Eve 1stアルバム『Kido I Raku』
2010/11/17




つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。2010年は嵐とAKB48のチャート上位独占、EXILEの日本レコード大賞3年連続受賞など圧倒的な強さが見えたせいか、インターネット上ではこれまで以上に音楽面でのアンチ意見が急増したような気がします。2011年は、そんな熱気が新たなヒットにつながればいいなと願います。悪口ばかりで後ろを向いているのも嫌になりますよね♪