前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今回は、男性が女性目線で歌った、あるいは女性が男性目線で歌った、名付けて "男女逆転ソング"TOP10を分析してみた。
 先日、あるヒット・アーティストのインタビューを読んでいたら「実際にあったことしか歌わない。そうでないと嘘になるから。」というような言葉があってカチンときた。"実際にあったことじゃないと、ウソになる・・・??" じゃあ、山口百恵は18才の小春日和に結婚したものの、真っ赤なポルシェにガン飛ばしながら、自分を待つ人を探しに日本を旅し、それが昂じてジプシーとなり、挙句の果てにウィドウ(未亡人)になったから、大ヒットしたというのか?
 昭和に数々の名曲を残す阿久悠は、上野発の夜行列車に乗ったり、宇宙人と遭ってデートしたりしたから、人々から絶大な支持を得たのか?・・・なんだか、そのアーティストとやらが、自分の表現力の欠如を責任転嫁しているようで、妙に腹立たしかった。そんな狭い視野で歌詞を書くから、「最近の音楽はつまらない」なんて年寄りに言われてしまうし、客観的に見ても、映画や文学に比べると随分と音楽の地位が下がったようにも感じる。映画や文学はフィクションだらけだが、それでも多くの感動を得ているからだ。
 じゃあ、フィクションでも人気の音楽を・・・しかし、作者でもない限り、それは分からないし・・・そうだ、明らかにフィクションの男女逆転ソングを見よう!というのが、今回のテーマを決めた経緯である。
第28回:男女逆転ソングTOP10 (2011年11月:10月のデータより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数
楽曲名 アーティスト CD発売日
1位
3
100 家族になろうよ 福山雅治 2011/8/31
2位
5
74.6 思い出せなくなるその日まで back number 2011/10/5
3位
21
49.2 フライングゲット AKB48 2011/8/24
4位
29
37 X X X L'Arc〜en〜Ciel 2011/10/12
5位
34
30.3 ピストル Acid Black Cherry 2011/9/21
6位
40
27.6 荒野より 中島みゆき 2011/10/26
7位
55
22.8 progress 浜崎あゆみ 2011/8/31
8位
68
20 ヘビーローテーション AKB48 2010/8/18
9位
87
17.5 Everyday、カチューシャ AKB48 2011/5/25
10位
93
17.1 じゃあ、何故 阿部真央 2011/6/1
次点
111
15.4 ノルニル やくしまるえつこ
メトロオーケストラ
2011/10/5
※歌詞中の一人称や語尾で、男性が女性言葉を、または女性が男性言葉を使っている楽曲を対象とした。
 まず全体のランキングを見てみると、総合TOP100内での逆転ソングは、わずか10曲と、やはりかなりの少数派だと分かる。しかし、1位の「家族になろうよ」は今年を代表する結婚ソング、2位のback numberは本作をリード曲としたメジャー1stアルバムがいきなりアルバムチャートでTOP5入りと、共に男女を逆転させたことが奏功しているようだ。実際、福山雅治は、タイアップ上の制約から結婚ソングの制作を試みたが、男性目線では一向に捗らず、女性目線にしてから一気に創造力が働いて書き上げられたそうだ。

 AKB48は3位、8位、9位にランクイン。そういえば、AKB48が本格的にブレイクしたのは、男性目線の楽曲が増えてから。(勿論、レコード会社の綿密な戦略も多分にあるだろうし、作詞家一人だけの尽力とは思わない。)男性目線によって、ファンを代弁したようなメッセージが増えたり、「可愛い」という歌詞が出てもそれが嫌味に聞こえなかったり、様々なメリットがあるようだ。他のアイドルグループも、握手会や初回盤の数など小手先をまねるだけでなく、肝心の楽曲面での改革もした方が、彼女たちに追いつけるのではないだろうか。

 4位のラルク、5位のAcid Black Cherry(これは、歌詞がかなりエロいです)あたりが揃ってランクインしているのを見ると、逆転ソングを歌うのに有利な容姿条件があるようにも思える。
 6位の中島みゆき、7位の浜崎あゆみは、今回のランクイン曲以外にも、男性目線の楽曲が多数あることに気付く。(中島みゆきは「空と君のあいだに」「銀の龍の背に乗って」など。筆者は「ローリング」もオススメ。浜崎あゆみは「SEASONS」「Voyage」「Moments」「Free&Easy」など。"僕達"と複数形が多いのも浜崎の特徴。)1位の福山雅治然り、性別を超えて歌えるアーティストには息の長いアーティストが多いようだ。その意味では、男性目線の「じゃあ、何故」が最新アルバム中で最も人気の阿部真央にも今後を期待したい。あと、個人的には、男性が女目線で、女性が男目線で歌ったコラボソングなんてあったら凄く面白いと思う(ともすればイロモノになりかねないが)。


家族になろうよ
福山雅治


思い出せなくなるその日まで
back number

フライングゲット
AKB48
 

 キャリア37年目にして通算42作目のシングル(ちなみに倖田來未は10月末現在デビュー11年目にしてシングル51枚で中島の約4倍ペース!)。TBS開局60周年記念番組にもなっているドラマ『南極大陸』の主題歌で、主演の木村拓哉は、初めて聴いた時に感涙し、発売前から自分のiPodに入れていることを無邪気に語っていたほど。歌詞を見れば「君がこの星に居てくれること」と星レベルで相手を見るスケールのデカさに驚き、また「君を想えば立ち直れることだ」という絶対的なポジティブ・シンキングにも感心する。さらに「夜明けの来ない日はない」という歌が圧倒的に多い中で「朝日の昇らぬ日は来ても」と、悲観的な状況を否定せず、その上で「君の声を疑う日はないだろう」と、どこまでも相手を信じる言葉が綴られていて、人と人、人と犬との絆の確かさを想起させる。こんなに強い言葉たちが、(彼女のシングルに多く見られる)力強い歌声の乗せられるのだから、"ゆるふわ"に生きたい人には正直ウザいかも。でも、頑張らなければならない状況が続く今の日本には、これくらいが丁度いいだろう。シングルのカップリング曲「バクです」は、タイトルからコミカルな内容が期待されそうだが、実際は相手の中の"悪"を取り除こうとする献身的なラブソング。こちらは優しい歌い方でリラックスして聞けるので、是非シングル、もしくは11月16日発売のアルバム『荒野より』で、より多面的に楽しんでほしい。


※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


今月は女性シンガー、Kyleeに注目。彼女は、1994年アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれ、現在はアリゾナ在住の女子高生だ。
 2010年3月にシングル「キミがいるから」でデビューしたが、彼女が注目されたキッカケは香里奈出演のニッセンのCMに「IT'S YOU」と「CRAZY FOR YOU」が2年連続で起用されたことだろう。流暢な日本語を使いながら、洋楽のガールポップならではの開放的かつパワフルな声が出せるというのが特長。ちなみに、これまで歌ってきた楽曲の大半は、日本人作家によるものなので、洋楽っぽい雰囲気が出るのは、彼女の声の賜物と言えるだろう。最新曲で歌詞検索の大半を占める「CRAZY FOR YOU」も男性シンガーソングライター磯貝サイモンによる書き下ろし。多くのインストアイベントやメディア露出で、外国人のような明るさと、関西弁での人懐っこさが分かり、より身近に感じた人も多そう。11月23日は1stアルバム『17』がリリース。「全てがit's you〜」と始まる1曲目から、元気な曲が続くというヒット狙いの王道パターンの一方で、ラストの自作曲「Yours Truly」では、寂しさを綴った英語をギターロックに乗せて歌うなど別の一面ものぞかせる。今後、伊藤由奈のようにバラードを聞かせるか、アンジェラ・アキのようにハーフならではの歌唱力を武器とするか。いずれにしても楽しみだ。


Kylee

順位 占有率\ 楽曲 初収録作品 発売日
1 75.1% CRAZY FOR YOU 5thシングル 2011/10/5
2 4.5% 過去を忘れる魔法 5thシングル c/w 2011/10/5
3 4.1% IT'S YOU 2ndシングル 2010/7/7
4 3.3% NEVER GIVE UP! 4thシングル 2011./7/13
5 2.9% キミがいるから 1stシングル 2010/3/.24
         
 


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
最近TVを観ていると、女性アイドルグループの"生歌率"がやけに気になります。AKB一派は、ルックスが崩れないことを第一優先にしてるなとか、ハロプロは初代モーニング娘。からの伝統なのか歌と踊りのバランスで勝負しているなとか、はたまた、ももいろクローバーは生歌ゆえに起こってしまう息切れやハプニングまでもポイントなんだな、とか。しかし、その視点の延長で、アンジェラ・アキや平原綾香を見てしまうと、歌は上手いのにどうしてこんなに苦しそうなんだろう・・・って逆に不自然に思ったり(苦笑)。日本でも"口パク禁止令"が施行されれば面白いな〜と妄想しています(笑)。