前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、CMタイアップ曲を分析してみた。
 かつて、90年代には、ポカリスエットやカメリアダイアモンドなど、「このCMに使われれば必ずヒットする、あるいは若手がブレイクする」と言われていたCMが存在していた。「フジ月9」などのドラマ主題歌もそうだが、そういったヒットの方程式が確立していたことがメガヒットの量産に繋がっていたのだろう。メディアや人々の嗜好も多様化し、音楽業界のみならずエンタメ系すべてにおいてヒットが見えにくくなった現代、果たしてCMタイアップから何かが見えるだろうか、と気になったのが今回このテーマにしたキッカケである。

第42回:CMタイアップTOP10 (2013年1月:2012年12月のデータより分析)
テーマ
順位
歌詞順位 アクセス
指数%
楽曲名 アーティスト 発売日 企業名「ブランド」
1位 1 100 雪の音 GReeeeN 2012.12.19 JR東日本「SKI SKI」
2位 2 59.5 Always 西野カナ 2012.11.7 ソニー「MDR-1」
3位 4 44.5 Marshmallow day Mr.Children 2012.11.28 資生堂「マキアージュ」
4位 16 29.1 ハピネス AI 2011.12.14 日本コカ・コーラ
5位 22 23 GO FOR IT !! 西野カナ 2012.7.25 山崎製パン「ランチパック」
6位 23 21.4 MELROSE
〜愛さない約束〜
EXILE ATSUSHI 2012.12.5 ジャパンゲートウェイ
「Reveur」
7位 27 20.4 Happy Song 西野カナ 2012.11.7 ソニー「ウォークマン」
8位 32 18 私たち 西野カナ 2012.5.23 ニッセン「2012夏」
9位 33 17.4 家族になろうよ 福山雅治 2011.8.31 リクルート「ゼクシィ」
10位 37 17 つけまつける きゃりーぱみゅぱみゅ 2012.1.11 インテリジェンス「an」
次点 38 16.9 制服のマネキン 乃木坂46 2012.12.19 HTC「J Butterfly」
次次点 42 16.1 Be Strong 西野カナ 2012.9.5 本田技研工業「Honds meets Music」
※音楽配信サイトで注目作としてCM内で紹介されている楽曲は除く。

 今回のテーマにおける1位はGReeeeNの「雪の音(ゆきのね)」。切ない楽曲と力強い歌唱という組み合わせは90年代の同タイアップであるglobeの「DEPARTURES」やGLAY「Winter,again」と共通しており、クライアント側のそういった制約があるのだろうか。その真偽はさておき、厳しい寒さの中で人間の感情が浮き彫りになるのがこのCMの特長。月間総合でも1位でGReeeeNの楽曲の中でもかなり上位の歌詞人気となっている。

 2位、5位、8位、12位に西野カナがランクイン。もともと歌詞人気の高い西野だが、タイアップがつくと一層効果が出るというのは、彼女が時代に求められたアイコンということを示しているのだろう。その意味で、10位(年間では1位)のきゃりーぱみゅぱみゅ「つけまつける」も同じ現象が現れている。また、11位の乃木坂46は、本人たちが出演するCMソングで、CDセールスは既に20万枚を突破しているので、歌詞人気はまだまだ伸びしろのある順位だが、それでもAKB48、Perfume、ももいろクローバーZ以外の女性アイドル・グループが、歌詞検索の上位に入ってくるのはかなり珍しい。その意味では、女性アイドルのCMタイアップこそ、楽曲が認知されるし、クライアント側も華やかになって好感度が高まるし、win-winな関係が築けるのではないだろうか。

 他にも4位のAI「ハピネス」、9位の福山雅治「家族になろうよ」など、印象的なCMに使われているものがランクイン。少し流れただけでも、歌詞人気が高いというのは、やはりその15秒や30秒といった限られた時間に音楽、映像ともにクリエイターたちによる絶大な熱量が注がれている世界だからだろう。実際に、これらの楽曲はリリースから1年以上経過しながらも、歌詞検索、ダウンロード共に常にTOP50レベルのヒットとなっており、実際に知っている人も多いだろうし、"ヒット曲"と言っても全く差し支えない。要は、多種類販売や発売週のイベントによってめまぐるしく変化するCDの上位からヒット曲が見えなくても、大衆に浸透するヒット曲はきちんと存在しており、そこにCMの役割はきちんと果たされているということだ。

 以上のように、CMタイアップの人気曲を並べてみると、印象的なCMや更には大衆人気のアーティスト、そして大衆的なヒット曲が見えることが分かった。なお、紅白歌合戦で披露された美輪明宏の「ヨイトマケの唄」がたった1時間で月間総合の36位にランクイン。今後、どのように推移するのか"歌の力""歌詞の力"に注目したい。




雪の音/GReeeeN


Always/西野カナ

Marshmallow day
Mr.Children

 通算18作目となるシングル。「愛唄」「キセキ」「遥か」あたりの3年連続ロングヒットから、ややご無沙汰となった感があるが、その間も実はほとんどの作品でCDセールスのTOP10入りを果たしている。これは、TVなりネットなりでレギュラー的な露出がなければすぐに忘れられてしまう現在の音楽マーケットの中では極めて奇特な存在と言えるだろう。その楽曲の魅力をしっかり伝えている要素の一つが彼らのプロモーションビデオだと思われる。本人たちが一切出演しない代わりに、楽曲とセリフを交えたドラマ性の高い演出で、数分見ているだけでも一気に引き込まれてしまう。本作でも、スピード感のある切ない曲想と、その中で強い想いを伝える熱いボーカルのコントラストが鮮やかで胸を打つ。今回の歌詞サイトの人気も、そんな映像を見た後で、つい読み直してみたいと思うファンが多いからではないだろうか。この先もイベント参加券に頼らずとも、楽曲先行でヒットが大いに期待できるアーティストだ。


※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
 今月はルーキー部門8位のアーティストEGOISTに注目。EGOISTは、アニメ『ギルティクラウン』内に登場する架空のアーティストで、楽曲のプロデュースは、supercellのryoが手がけ、ボーカルは2000人の応募から選ばれた10代女性chellyが担当している。2011年11月30日に同アニメのエンディングテーマ「Departures 〜あなたにおくるアイの歌〜」でデビュー、アニメ人気もあって新人ながらオリコン初登場8位、その後5ヶ月にわたってTOP200にチャートインし、続く2ndシングル「The Everlasting Guilty Crown」も同アニメのオープニングテーマとなり最高位7位と幸先良いスタートを切った。その後は、『ギルティクラウン』から離れた作品を発表しているが、同アニメタイアップ曲以外も多数収録された1stアルバム『Extra terrestrial Biological Entities』は9位、アニメ『サイコパス』のエンディングテーマとなっている最新シングル「名前のない怪物」も6位と連続ヒットを果たしている。chellyのボーカルが、強く儚い世界をきちんと描けていることと、ryoがsupercellのように楽曲に適切なボーカルを当てはめるのではなく、ハードなエレクトロニカからアコースティックのバラードまでchellyの声質を存分に活かした制作をしていることが、人気を定着させた要因ではないだろうか。アニメファンのみならず、マイナー調の激しい楽曲が好きな女性ボーカルファンにもオススメ。

順位 占有率 曲名 初収録作品 発売日
1 41.6 名前のない怪物 3rd Sg 2012.12.5
2 9.4 The Everlasting Guilty Crown 2nd Sg 2012.3.7
3 6.8 Departures 〜あなたにおくるアイの歌〜 1st Sg 2011.11.30
4 6.3 カナデナル 3rd Sg c/w 2012.12.5
5 5.2 Planetes 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
6 3.6 Extra terrestrial Biological Entities 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
7 3.6 雨、キミを連れて 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
8 3.4 LoveStruck 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
9 3.2 Lovely Icecream Princess Sweetie 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
10 2.9 エウテルペ 1st Sg c/w 2011.11.30
11 2.9 原罪の灯 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
12 2.7 この世界で見つけたもの 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
13 2.6 キミソラキセキ 2nd Sg c/w 2012.3.7
14 2.2 想いを巡らす100の事象 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
15 1.9 Ce que j'aime 〜inori no kyuuzitu〜 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19
16 1.8 手遅れ 1st AL『Extra terrestrial Biological Entities』 2012.9.19


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 歳を取ると途端に「最近の音楽はつまらない」とボヤき出す中高年がいらっしゃいますが(笑)、私は毎年面白い楽曲が出ていると思います。ちなみに、2012年の独断と偏見に満ちた私の年間ベスト50はこちら。簡単に言えば、ベタなバラードか無駄に(笑)詰め込んだアッパーチューンの両極が好きなのですが、全体に魅力的な歌詞が多いので、今後もそんな楽曲を「歌ネット」から見つけられればと思います♪