前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。ゴルフの石川遼に始まり、卓球、アイススケート、そして今年はスキージャンプの高梨沙羅とスポーツ界では10代から活躍する選手が次々と輩出されている。また、日本テレビの高校生クイズが年々難問化したり、カードゲームの会社を経営する小学生が現れたりと、頭脳面でも才能を発揮する10代は今日珍しくない。では、音楽の世界、とりわけ歌詞の世界では10代アーティストはどれだけの支持を得ているのだろうか。(アーティストがグループの場合は、大多数が10代であるかどうかで判断した。)
第44回:10代限定人気曲ランキングTOP15 (2013年3月:2013年2月のデータより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数%
楽曲名 アーティスト 発売日 生年月日
(グループは
代表者)
1位 100 30 ANIMAL GENERATIONS 2013.1.30 1993.8.4
(白濱)
2位 93.8 35 つけまつける きゃりーぱみゅぱみゅ 2012.1.11 1993.1.29
3位 58.7 72 制服のマネキン 乃木坂46 2012.12.19 1995.12.29
(生駒)
4位 56.9 77 大好きなのに Kylee 2013.2.13 1994.5.25
5位 50.7 95 サラバ、愛しき悲しみたちよ ももいろクローバーZ 2012.11.21 1994.7.12
(百田)
6位 50.3 98 強くなる人 山崎あおい 2013.2.20 1993.8.28
7位 47.3 102 Shine 家入レオ 2012.5.16 1994.12.13
8位 46.3 107 Follow Me E-girls 2012.10.3 16人中
14人が10代
9位 45.8 110 THE NEVER ENDING STORY
〜君に秘密を教えよう〜
E-girls 2013.2.20 28人中
22人が10代
10位 41.8 124 CANDY CANDY きゃりーぱみゅぱみゅ 2012.4.4 1993.1.29
11位 34.6 172 ファッションモンスター きゃりーぱみゅぱみゅ 2012.10.17 1993.1.29
12位 34.4 178 猛烈宇宙交響曲・第七楽章
「無限の愛」
ももいろクローバーZ 2012.3.7 1994.7.12
(百田)
13位 33.5 190 行くぜっ!怪盗少女 ももいろクローバー 2010.5.5 1994.7.12
(百田)
※発売日時点で10代のアーティストの人気曲をピックアップ。
 グループの場合は、その大多数が10代の場合カウントした。

 全体を見てみると、人気曲総合TOP200のうち、10代アーティストの楽曲は、たったの13曲と思った以上に少ない。20歳になったばかりのきゃりーぱみゅぱみゅは総合6位の「ふりそでーしょん」と20位の「キミに100パーセント」(共に20歳の誕生日翌日に発売)にあるのだが、これを入れても合計15作。つまり、かつて90年代後半、SPEED、安室奈美恵、宇多田ヒカル、椎名林檎、浜崎あゆみ、MISIAがいずれも20歳以下にして歌詞からも絶大な人気を得ていた状況とは大きく異なっている。思うに、今はアイドルブームで10代の活躍は多いものの、楽曲の魅力がしっかりと伝わっている10代アーティストはかなり少ないのではないだろうか。前述の20世紀末に若くしてブレイクしたアーティストが当時の記録のみならず今でも記憶にも残る楽曲を多数生み出していることを考えると、この若手"アーティスト"が育っていない現象は大いに検討すべきかもしれない。

 ともあれその中で健闘した10代部門1位は、EXILEの弟分として現場でパフォーマンスを磨き上げた7人組の2ndシングル。メンバーの恋愛スキャンダルによりプロモーションが一部制限されたが、それでも上位をキープしているので、次回作ではもっと飛躍しそうだ。激しいダンスチューンなのに、ピッチを崩さず歌い続ける様子に歌詞全体がどうなっているのかと気になって検索した人も多いのではないだろうか。
2位以下を見ると、きゃりーぱみゅぱみゅ(10代作品)、Kylee、山崎あおい、家入レオと女性ソロはそれなりに見られるのに対し、男性ソロは皆無だ。この10代男性アーティスト枠はジャニーズ系で占められているという状況は、90年代からずっと変わらない。(今回のランキングには現れていないが、ジャニーズ楽曲は歌詞検索でも上位になることが多いことを付け加えておく。)その中で、6位の女性シンガーソングライター・山崎あおいは、まだCDではTOP50に入っていないが、歌詞ランキングでは着実に人気を伸ばしているので今後大きく伸びる可能性がある。既に大ブレイクを果たしている家入レオとは対照的に、素朴さが逆に新鮮に映る。

 アイドル・グループでは、EXILEの妹分となるE-girlsが2曲、ももいろクローバーがZ以前も含め3曲ランクインしたのに対し、AKB48、SKE48、NMB48はいずれもゼロ、辛うじてスマートフォンCM曲としてダウンロードでもヒットしている乃木坂46「制服のマネキン」のみが上位入りした。秋元康が、セールス面で日本一の作詞家になったと言うが、歌詞としての人気はCDセールスとは大きく乖離しているようだ。AKB48の楽曲人気は決して低くないのだが(むしろアイドルの中では上位)、それでも歌詞やメロディーといった音楽的要素から多くの支持を得る楽曲を増やすことが、AKBバッシングを減らすのに一番の近道ではないだろうか。
 以上のように、歌詞が支持される10代アーティストは一昔前に比べ激減していることが分かった。しかし、本当は他分野のように、音楽的才能のある10代もきっと多いことだろう。アイドルブームに胡座をかくことなく、確実に楽曲ヒットを生み出すことが、ここ数年の日本の音楽業界が生き残るための大きな課題かもしれない。




ANIMAL/GENERATIONS


つけまつける
きゃりーぱみゅぱみゅ


制服のマネキン /乃木坂46

 EXILEと同じ事務所に所属するガールズ・グループDream、Happiness、FLOWER、bunny、EGDの5組からなるビッグ・プロジェクト。2011年12月28日に発売された1stシングル「Celebration!」や続く「One Two Three」の時点では、イベントで触れ合えるメンバーの数を増やすことによる、いわば"人海戦術"(笑)的なイメージが強かったが、現在でも歌詞検索やダウンロードでロングヒットしている3rdシングル「Floow Me」では、♪フォロミー/フォロミー/フォロミー〜部分の中毒性の高さや大人数ならではのゴージャスかつパワフルなパフォーマンスでセールスが急増し、他のアイドル・グループと一気に差別化できた。特に、イベントで女性ファンが急増したのも、彼女たちの大きな強みだろう。
最新作は、1985年のリマールの大ヒット曲の日本語カバー(別歌詞であるが、過去に羽賀研二もカバーしていた)で、煌びやかなアレンジが、彼女たちをより華やかに見せている。後半のフェイク部分など歌唱面の成長も見て取れる。それにしても、Dreamの4人は10年前にグループがキュートなアイドルとして方向転換した時に動員された時に加入したメンバーで、その後長らく低迷し、一時はTOP100にも入らないほどだったのに、ここで苦節10年にしてオリコン2位にまで上り詰めるとはまさに天晴だ。人生何が起こるか分からないと彼女達から説教されたいほど(微笑)。あと、日本語詞を手がけた藤林聖子のJ-POPからアニメ・特撮まで手がける多才さにも注目すべきだろう。


※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
 今月は、ルーキー部門第4位にランクインしたMAN WITH A MISSIONに注目。昨年発売した2ndフルアルバムがオリコン週間ランキング最高4位、夏フェスでは全バンドで最多の14本に出場するほどの有名バンドなので、ここで語るまでもないが、2月末に出演した『ミュージックステーション』で歌詞検索もCDセールスも急増したことから、まだ知らない方の為にあらためておさらいしたい。
 彼らは、頭はオオカミ、身体は人間という生命体5匹のロック・バンドで、2011年6月に1stフルアルバム『MAN WITH A MISSION』でメジャー・デビュー、その後もLIVEを重ねてはそのアグレッシブな演奏やお茶目なトークが口コミで広がり、また1stアルバムがミュージックジャケット大賞やCDショップ大賞で入賞したこともあり、全国津々浦々のお店まで長く売れるようになり、翌年にはシングル、アルバムともに週間TOP10入りを果たした。彼らは、ミクスチャー系とは言いつつも、「Emotions」のようにサビ頭だったり、他の楽曲でもディスコ調があったりとキャッチーなものが大半で、英語詞が多いとはいえ、サビの部分は日本語だったり、繰り返しのフレーズが多かったりと、LIVEで皆で盛り上がることが想定された作りとなっており、J-POPファン〜洋楽ロックファンまで幅広く楽しめる。また、表のように最新シングル以外で人気が突出しておらず、どの時期の楽曲にもファンがついているのも注目ポイント。これはRADWIMPSやONE OK ROCK同様、息の長いアーティストに成長している証拠なので、今後ますますファンが広がることだろう。ちなみに、筆者が感心したのは、彼らの中では今回11位だった「アカツキ」。全曲日本語詞で、X JAPANのような刹那を感じさせるメロディーやボーカルが意外でこういったのも上手い。なお、CDでは英語詞に対応した日本語訳も掲載。なかなか面白いです♪
 
2
順位 占有率 曲名 初収録作品
(メジャーデビュー以降)
発売日
1 19.2 Emotions 2nd Sg「Emotions」 2013.2.20
2 7.1 FLY AGAIN 1st AL『MAN WITH A MISSION』 2011.6.8
3 5.8 distance 1st Sg「distance」 2012.4.4
4 5.0 Get Off of My Way 2nd AL『MASH UP THE WORLD』 2012.7.18
5 4.9 DON'T LOSE YOURSELF 1st AL『MAN WITH A MISSION』 2011.6.8
6 4.3 Take What U Want 2nd Sg「Emotions」 2013.2.20
7 4.1 FROM YOUTH TO DEATH 2nd AL『MASH UP THE WORLD』 2012.7.18
8 4.0 DANCE EVERYBODY 1st AL『MAN WITH A MISSION』 2011.6.8
9 3.8 Feel and Think ミニAL『Trick or Treat e.p.』 2011.10.5
10 3.4 Mash UP the DJ! 2nd AL『MASH UP THE WORLD』 2012.7.18




つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 最近、日本コロムビアの逆襲ぶりにちょっと期待している。氷川きよしと木村カエラはもう一段落ついた気がするが、聴覚のない作曲者・佐村河内守のクラシック作品が突如TOP10入りしたり、冨田勲×初音ミクなんて斬新な作品が冨田作品として数十年ぶりにヒットしたり、はたまた合唱コンクールの上位常連高の千葉県立幕張総合高校合唱団にJ-POPの桜ソングを歌わせて生協の通販でヒットしたり、80年代アイドル・河合奈保子のシングル"B面"コレクションを出して意外と売れたり・・・。こういうオールジャンルの「音楽」で、業界をかき回すレコード会社、大好きです♪ 音楽自体でこの業界を面白くしない限り、市場は衰退しちゃうと危惧しています。