前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は過去5年内にレコード会社を移籍したアーティスト限定で人気曲を分析してみた。
 アーティストがレコード会社を移籍するというのは、契約満了後に更新しなかったということから、何らかの負の要因が考えられるだろう。その中で最も多いのが、セールス不振による移籍。これは、レコード会社側がアーティストに満足いかなかった場合もあれば、アーティスト側が「もっと売れるはず」と満足いかなった場合もある。また、今春の木村カエラのように、アーティストが別のレコード会社で、独自のレーベルを立ち上げるケースや、昨年のPerfumeのように世界進出を目標として外資系レーベルに移籍するというケースも少なくない。この場合は、不満というより前向きな理由が大きいと言えそうだ。また、the pillowsのように、レコード会社の信頼しているスタッフが別メーカーに転職したので、アーティストも一緒に移籍したという例もある。逆に、アーティストの移籍に伴い、レコード会社のスタッフも転職するというパターンもある。
 しかし、移籍した直後は話題性でセールスアップもあるものの、そこから継続的にヒットし続けるケースというのは実は少ない。それだけに、今回出てくるアーティストは、制作や宣伝面で様々な工夫をした希少な勝ち残り組と言えるだろう。ちなみに、槇原敬之は、ワーナー→ソニー→ワーナー→EMI→エイベックス→自主レーベルと、計5回の移籍をくり返すもずっとTOP10入りを継続しているが、こんなアーティストは本当に珍しい。
第46回:過去5年内移籍アーティスト人気曲TOP15 (2013年5月:2013年4月のデータより分析)
テーマ
順位
総合順位 アクセス指数 楽曲名 アーティスト名 移籍前
移籍後
発売日
1位 16 100 Neo STARGATE ももいろクローバーZ UM
キング
2013.4.10
2位 17 99.9 365日のラブストーリー。 ソナーポケット UM
徳間
2011.10.19
3位 23 85.8 好きだよ。〜100回の後悔〜 ソナーポケット UM
徳間
2011.1.26
4位 36 72.7 VOICE AI UM
EMI
2013.2.13
5位 47 61.7 失恋〜君は今、幸せですか?〜 ソナーポケット UM
徳間
2013.2.6
6位 55 58 月と太陽 ケツメイシ トイズ
AVX
2013.5.22
7位 66 51 オボロナアゲハ ORANGE RANGE SR
ビクター
2013.4.17
8位 79 43.5 もしも ORANGE RANGE SR
ビクター
2013.4.17
9位 86 41.8 スタートライン! ソナーポケット UM
徳間
2013.5.15
10位 88 41.2 サラバ、愛しき悲しみたちよ ももいろクローバーZ UM
キング
2012.11.21
11位 95 39.4 猛烈宇宙交響曲・第七楽章
「無限の愛」
ももいろクローバーZ UM
キング
2012.3.7
12位 97 38.1 ソナーポケット UM
徳間
2013.2.6
13位 101 37.5 FANTASTIC BABY BIGBANG UM
YGEX
2012.3.28
14位 104 36.8 キミ記念日
〜生まれて来てくれてアリガトウ。〜
ソナーポケット UM
徳間
2012.11.7
15位 109 35.8 月火水木金土日。〜君に贈る歌〜 ソナーポケット UM
徳間
2012.4.25
過去5年内にメジャーレコード会社間で移籍したアーティストの移籍後の楽曲を対象とした。一部メーカーは以下の略号で表記。UM:ユニバーサル、SR:ソニーレコーズ、AVX:エイベックス、EMI(現:UM)、YGEX→(AVX+EX)

 さて、今回の人気曲TOP15を見てみると、1位はももいろクローバーZとなった。しかも、この「Neo STARGATE」は、最新アルバムのリード曲であって、シングルではない。アイドルでアルバム曲が高く評価されるのは非常に珍しく、この結果は、これまで1曲1曲話題性の高い楽曲を制作し、宣伝面も含め常に話題を振りまいてきた彼女たちやスタッフの努力の賜物と言えよう。

 ももクロも3曲ランクインと健闘しているが、TOP15中最も健闘しているのは、7曲ランクインさせたソナーポケット。移籍後は、“ラブソングマスター”と銘打って、インパクトのあるタイトルや直球型のメッセージで、とりわけ歌詞サイトやダウンロードで高い評価を得てきた。同じ3人組のFUNKY MONKEY BABYSの解散が決まった今年、ファンモンが得意としてきた人生ソングやエールソングまで、彼らが押さえていくのか、それともこれまで以上にラブソングを極めていくのか、興味深いところ。他にも、複数ランクインさせているのが7位と8位のORANGE RANGE。同社のスピードスターレーベルは、10年以上前では斉藤和義、近年では清木場俊介やスガシカオなども移籍させ、それぞれヒット曲を出しているだけに、ORANGE RANGEもまたV字復活が期待される。

 表を見てみると、ももクロやソナポケをはじめ、ユニバーサルミュージックのアーティストが非常に多いことに気付く。ユニバーサルと言えば、徳永英明やDREAMS COME TUREなど移籍後に大ヒットを飛ばしたベテランが多く、またメジャーに復活したナオト・インティライミがTOPアーティストになるなど、復活のイメージがあるが、意外と若手の移籍(そしてその後他社での成功)も多いようだ。ももクロが移籍したのは、2010年で折しも同社がKARAや少女時代などK-POPアーティストを次々と大ヒットさせていった時期で、アイドルブームはまだ本格化していなかった。また、ソナポケも同社で「Promise」を2008年に配信ヒットさせていたが、00年後半は青山テルマ、GReeeeN、ヒルクライムなど同社ではメガトン級の配信ヒットが続出した為、彼らは今ひとつ脚光を浴びなかったのかもしれない。BMG(当時)からユニバーサルに移籍して「Story」など代表曲をヒットさせた後、EMIに移籍して「ハピネス」などよりメッセージ性を際立たせ再ブレイクしたAIが、会社の合併でユニバーサルの出戻り(微笑)となったが、今後、最初の移籍時のようなヒットを飛ばすのかにも注目したい。

 以上のように、移籍後の楽曲を見てみると、音楽的に際立たせることで成功している例が多い。これは、手っ取り早くイベント参加券をくっつけて一人に大量に買わせることよりも、音楽を広めようと努力するという点で、むしろ健全な行為とも言えるだろう。つまり、移籍は後がなくピンチではあるものの、大きなチャンスでもあるわけだ。




Neo STARGATE
ももいろクローバーZ


365日のラブストーリー。
ソナーポケット


好きだよ。〜100回の後悔〜
ソナーポケット

 昨年、デビュー10周年を機にレコード会社を移った彼らの約4年ぶりとなるシングルの収録曲。「オボロナアゲハ」の方は、4分間の中に大量の奇天烈な言葉やサウンドを詰め込んだミクスチャーロック、「もしも」の方は、最大ヒット作「花」にも通じるような純愛バラードと、どちらも彼らの原点回帰と呼べるような作風となっている。なお、シングルのカップリングである「となりのジョセフィーン」は、同窓会的な飲み会をコミカルに描いていて、漫画のような状況をJ-POPにしてしまえるのも彼ららしい。その一方で、シングル初回盤には前アルバム『NEO POP STANDARD』からの3曲がライブバージョンで追加収録され(それでいて、お値段は通常盤1200円と同じとは太っ腹!)、エレクトロポップを一歩進めたサウンドとなっている。アルバム『musiQ』がバカ売れしていた時はバッシングも大きかったが、今落ち着いて聞くと色んな切り口でヒット路線が書ける多彩なバンドだと分かる。今回の移籍を機に、音楽的な再評価が高まることを期待したい。


※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
 今月は、5位にランクインした女性シンガーソングライター新山詩織に注目。彼女は1996年埼玉県出身で、高校2年生の時、ビーイングのオーディション『Treasure Hunt』にてグランプリを受賞、その後デビューに向けストリートやLIVEハウスで活動をスタート、2012年12月12日には0thシングルとして、「だからさ〜acoustic version〜」を無料プレゼントするなど、レコード会社側の期待の大きさもうかがえる。
 そして、今年4月17日に満を持してシングル「ゆれるユレル」でデビュー。10代特有の飢餓感は、YUIや家入レオにも通じるところはあるが、彼女たちよりもメロディアスな印象を受けるのは、プロデューサーがスピッツやプリンセス・プリンセスを育ててきた笹路正徳ゆえだろうか。また、やや硬直気味の表情や随所にドスを効かせた歌声は、平成世代の若者よりも昭和世代に好感を持たれそう。現状は、歌ネットで特集記事が展開された「ゆれるユレル」に人気が集中していて、カップリング曲「現在地」にまで人気が及んでいないが、こちらは1993年のTHE GROOVERSのカバーを本人たちとセッションした意欲作で、こうしたバンドサウンドも
聴かせる。また、個人的には、彼女がラブソングを作るとどうなるのかにも興味津々。とにかく、今後さまざまな可能性を感じさせる存在だ。
 
2
順位 占有率 曲名 初収録作品
発売日
1 99.5 ゆれるユレル 1stシングル 2013.4.17
2 0.5 現在地 1stシングル c/w 2013.4.17




つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
地方のロードサイド型のCD&書籍の複合店に行くと、ノン・ストップ・ミックスのCDが大量に置いてあるのですが、その多くが有名曲を全く無名のアーティストがカバーしているという、いわばパチモンCDでビックリ。原価を下げたいとか、車で聞けば騒音に紛れてオリジナルかどうか分からんだろうとか、作り手側の意図は分からんでもないが、せめてオリジナル・アーティストにリスペクトされる作りにして欲しいなぁと思います。そんな中で、DJ和のミックスCD『A GIRL↑↑』 は、ちゃんとオリジナルの歌い手ばかりで、それでいて曲順もスムーズで聞きやすいし、橋本江莉果やMIREIなど新人の才能にも気づくことが出来て良い作品です。発売元の関係でソニー・グループのアーティストが過半数を占めるけれど、それでもleccaとかMAY’SとかMINMIとか他社の実力派もちゃんと収録しているのも良心的。“安かろう悪かろう”ではなく、多少高くても良質な作品を送り手側も選びたいものですね♪