前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は本連載で定義する“ルーキー”、すなわちメジャーデビュー2年内のアーティストの人気曲を分析してみた。
 2013年も半分が過ぎた今日この頃、音楽業界内外を問わず仲間うちで「今年上半期、何のヒットがあったっけ??」と会話に出ることがある。ある人は、AKB関連作がシングルCD上位を寡占する状況から「なんにもないよ。もう日本の音楽は終わった」と答えたり、またある人は「『あまちゃん』のテーマソングこそ今年最大のヒット曲だよ」と答えたり、とにかくまともに取り合わない人が多い。しまいには、「今の若い子は、(握手やLIVEにカネを使っても)音源には使わないんじゃね??」とか「新人にろくなのがいないから、ヒットのない原因じゃね??」とか、お決まりの若いリスナーやアーティストを犯人扱いして会話を終わらせる嫌いすら感じられる。
 しかし、日本レコード協会の「音楽メディアユーザー実態調査」の30pを見れば、有料聴取層が減っているのはむしろ10代よりも30代や40代で(今、注目されている団塊世代を含む60代も減少の一途)、相変わらず若い世代は音楽にお金を出していると分かるし、また以下に示すように、(それがCDシングルチャート単体では見えづらいだけで)若手アーティストによる音楽が支持されている例はいくらでもあるのだ。今回はそれを証明したくてテーマを決めてみた。

第48回:ルーキー候補人気曲TOP15 (2013年7月:2013年6月のデータより分析)
テーマ
順位
総合順位 アクセス指数 楽曲名 アーティスト名 発売日
1位 1 100 スターラブレイション ケラケラ 2013.5.15
2位 2 85.5 Last Love Rihwa 2013.6.5
3位 4 80.8 RPG SEKAI NO OWARI 2013.5.1
4位 11 24.1 Love You More GENERATIONS
from EXILE TRIBE
2013.5.15
5位 18 16.4 眠り姫 SEKAI NO OWARI 2012.5.30
6位 23 14.5 チルドレンレコード じん 2012.8.15
7位 26 14.2 独り言花 LUHICA 2013.6.12
8位 27 13.9 憂、燦々 クリープハイプ 2013.5.1
9位 28 13.6 スターライトパレード SEKAI NO OWARI 2011.11.23
10位 36 11.8 にんじゃりばんばん きゃりーぱみゅぱみゅ 2013.3.20
11位 39 11.2 ラブホテル クリープハイプ 2013.7.24
12位 44 10.1 不死鳥 SEKAI NO OWARI 2011.8.17
13位 46 10 幸せの鍵 Noa 2013.7.17
14位 53 9.3 虹色の戦争 SEKAI NO OWARI 2010.4.7
15位 55 9.2 インベーダーインベーダー きゃりーぱみゅぱみゅ 2013.5.15
※メジャーデビュー2年以内のアーティストの楽曲を対象とした。

 1位、2位は4月クールのドラマ『ラスト・シンデレラ』の主題歌&挿入歌が独占。ドラマ自体は篠原涼子のエロオヤジ発言や、三浦春馬の過剰なヌード露出から30代以上の女性に大人気だったが、楽曲自体はそれを飛び越えて若い層にまで人気が広がっている。確かに、どちらの曲もサビのメロディーだけでも口ずさめる人が多いような気がしたし、実際にどちらも配信チャートでロングヒットとなった。
そして、3位、5位、9位、12位、14位にSEKAI NO OWARIの楽曲がランクイン。この1年間で確実にどの楽曲の人気も伸びており、前年7月にリリースされたアルバム『ENTERTAINMENT』もTOP100内を推移するロングセラーぶり、次のアルバムでは20万枚を突破するのも確実だろう。

 男女別で見ると、男性ボーカルが別格のSEKAI NO OWARIに加え、GENERATIONS、じん、クリープハイプの4組、女性ボーカルのアーティストがケラケラ、Rihwa、LUHICA、きゃりーぱみゅぱみゅ、Noaの5組と男女どちらも若手が育っていることが分かる。しかも、男性ボーカルだけ見ても、ダンスパフォーマーのGENERATIONS、ニコニコ動画発で小説も手がけるじん、ファンも本人達もちょっとイカれた加減が話題のクリープハイプ(最新人気曲は「ラブホテル」!)とタイプは様々で、それぞれに魅力的。女性ソロが4組とやや偏っているようだが、こちらも、シンガーソングライターのRihwa、声だけで強烈な個性を放つLUHICA、ファッションも音楽も世界照準で発信し続けるきゃりーぱみゅぱみゅ、そしてヒップホップ系アーティストとも相性の良い甘く切ない声のNoaと非常に多彩だ。というか、どのメディアも女性アイドルグループばかりを大きく取り上げているが(そのビジュアルやトークでの華やかさを見聞きすれば、それも納得するが)、音楽の魅力で勝負した場合には、このように女性ソロも非常に頑張っている、ということをもっともっと各メディアもリスナーも認識していただければと強く願う。

 以上の結果を見れば、「新人は何も育っていない」という認識は誤りだということが分かっていただけるだろう。とはいえ、最近の曲に対して「これ、いいよね〜」という会話をしない人が多くなったのは、私も感じている。リスナーの皆さんも、SNSの読み書きで忙しいなか恐縮だが、その合間に見つけた若手の最近の楽曲からも自分のお気に入りを拡散して欲しい。それが、新人をひいては音楽業界を助けることに確実に繋がっている気がするので。




スターラブレイション
ケラケラ


Last Love
Rihwa


RPG
SEKAI NO OWARI


 秋元康プロデュースにより、資生堂TSUBAKIのCMソングに抜擢されデビューした女性の初シングル。何でも情報が錯綜してしまうこの時代に、プロフィールも本名も、映像での顔立ちさえもすべて謎ということを逆手にとって、クチコミを起こさせようとする戦略もプロデュースありきかどうかは知らないが、確かに宇多田ヒカルやJUJU、MISIAなど声だけでハッとさせられる声質やブレスが独特。ただ、歌詞を部分的に見ると、どこを切り取ってもコピー文に出来そうなくらいキャッチーなのに対し、全体を読んでみると、なんだか形式張っていて女性の業のようなものは感じられない。その意味で、今後、彼女自身にファンがつくのか、単にデビュー作だけの話題人になってしまわないのか、と勝手に心配してしまう。ただ、本CDのカップリング「愛の讃歌」のような情熱的な歌詞や「独り言花」の別バージョンである英語歌唱は実に様になっているので、今後ボーカリストとして精力的に作品を発表していってほしい存在であるのは確かだ。


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。

 今月は、2位にランクインした女性ボーカル+演奏の男性2人による3人組のケラケラに注目。もともと、ベースの“ふるっぺ”とドラムの“森さん”は、高校時代にヤマハ主催のコンテストでグランプリを受賞し、森さんは音楽のほかに、俳優や小説家としても活動していたらしい。その後、2010年にバンドを結成し、ボーカルMEMEの明るい笑顔からケラケラというバンド名で始動し、動画サイトで発表した楽曲の評判もあり、2013年2月27日に「さよなら大好きだったよ」でデビューを果たした。

同作は『CDTV』のエンディングテーマに起用され、オリコン最高位57位と、新人としても、同タイアップとしても一定の実績を残した。
 そして、続く2ndシングル「スターラブレイション」が、ドラマ『ラスト・シンデレラ』の主題歌となり、前作の切ないバラードから一転、明るく弾けたボーカルやサウンドが好評で、フル音源の配信チャートでは、最高位2位、6週連続のTOP10入り(7/1現在継続中)と上半期TOP10レベルの大ヒットとなる。また、アイドル以外の新人ゆえにCDがなかなか売れない昨今だが、それでも週間シングル・チャートは30位→57位→82位→54位→34位→31位と近年にないロングセラーぶりを発揮(もし、Rihwaのように、CDを早めに出し、配信を遅めに出していたら、TOP20入りしていたはず)。
9月に予定されている3rdシングル「友達のフリ」は2年前から動画サイトで100万回近い再生回数となっていて、実際に歌詞検索でも既にじわじわ来ている勝負作のバラード。(それにしても、アレンジに島田昌典を起用するとは、「帰りたくなったよ」や「茜色の約束」風の名曲感まで、いきものがかりとちょっと近すぎな気もする(汗)。)ともあれ、10月には1stアルバムも予定されていて、こちらにはより弾けたナンバーも収録されるようなので、今後は一気にアーティスト人気も高まりそうだ。

順位 占有率 曲名 初収録作品
発売日
1 89.4% スターラブレイション 2nd Sg 2013.5.15
2 3.7% さよなら大好きだったよ 1st Sg 2013.2.27
3 2.2% 友達のフリ 3rd Sg 2013.9.18
4 1.6% 虹色ハートビート 2nd Sg c/w 2013.5.15
5 1.2% 奏(かなで) 2nd Sg c/w 2013.5.15
6 1.2% ゆらり花火 2nd Sg c/w 2013.5.15
7 0.7% ナミダフレンズ 1st Sg c/w 2013.2.27


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
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