前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、タイトルでおやっ?と思わせるユニークなタイトルの、いわゆる“タイトル勝ち”の人気曲TOP15を分析した。
 約5年間、こうして歌詞サイトの人気ランキングを見ていると、「あれっ、また“サヨナラ”?」や「また“Believe”?」と、まるでデジャブのように同じタイトルに何度も遭遇するのだ。勿論、それはいつの世にも別れの場面や、人を信じたい時があるという普遍的な感情を歌ったものという証拠でもあるのだけれど、何が歌われているのか大方の予想がつくので、正直さほど食指が動かない(ただし、メロディーやアレンジ、ミュージックビデオなど別の側面で魅力があれば、また話は別だ)。これとは対照的に、タイトルがユニークだったりすると、たとえ知らないアーティストであっても、ちょっと聴いてみようかなという気になるものだ。そこで、そんな“タイトル勝ち”の楽曲にはどんな傾向があるのか調べてみた。(なお、それがユニークなタイトルであるかどうかは、私の独断であることをご了承願いたい。)

第51回:“タイトル勝ち”人気曲TOP15 (2013年10月:2013年9月のデータより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス指数 楽曲名 アーティスト名 発売日
1位 4 100 恋音と雨空 AAA 2013.9.4
2位 12 48.1 高嶺の花子さん back number 2013.6.26
3位 18 38.7 夜咄ディセイブ じん 2013.5.29
4位 20 36.5 僕が死のうと思ったのは 中島美嘉 2013.8.28
5位 33 29.1 Greed Greed Greed Acid Black Cherry 2013.8.7
6位 37 28 地元に帰ろう GMT 2013.8.27
7位 41 27.5 憂、燦々 クリープハイプ 2013.5.1
8位 49 25.4 ラブホテル クリープハイプ 2013.7.24
9位 61 22.4 Wizard CLUB UVERworld 2013.8.14
10位 64 22.2 君と羊と青 RADWIMPS 2011.3.9
11位 72 20.6 にんじゃりばんばん きゃりーぱみゅぱみゅ 2013.3.20
12位 74 20.1 Tacata' MAX 2013.8.7
13位 77 19.8 オツキミリサイタル じん 2013.5.29
14位 91 18.1 アンサイズニア ONE OK ROCK 2011.2.16
15位 98 17.2 完全感覚Dreamer ONE OK ROCK 2010.2.3
※過去の邦楽にほぼなかったと思われるタイトルを、筆者の独断で上位からピックアップした。

 1位は男女混成グループAAAの最新シングル。ミディアム・バラードのラブソングにおいて、「恋」の「音」をテーマにするなんて、なんともロマンティック。その効果もあってか、パッケージのような購入特典無しでのダウンロードやレンタル、さらに「歌ネット」でもロングヒット中で、彼らの近年の作品の中では最大ヒットとなっている。とかくグループのアーティストは、人海戦術でCDシングルの上位入りに躍起になっている傾向があるが(AAAもCDの高初動にその影響もあること自体は否定できないが)、このようにCD以外の複数の部門でロングヒットになっていれば、それは本当のヒットと見て間違いないだろう

 TOP15を見てみると、AAAを除く14曲中なんと10曲までも男性アーティスト、しかもクリープハイプやUVERworld、RADWIMIPS、ONE OK ROCKと歌ネット上位常連のロックバンドが多数挙がっている。彼らのファンからは、「歌詞が良い」「衝動的なサウンドと歌詞の相性が抜群」ということをよく聞くけれど、その導入口となっているタイトルも非常に重要なようだ。また、音楽のみならず、小説でも大人気となっているクリエイターのじんの楽曲も3位、13位にランクイン。動画サイトでいかにインパクトのあるタイトルを付けるかしのぎを削っただけあって、タイトルの付け方からしてセンスが光っているのだとあらためて思った。

 女性アーティストを見てみると、4位の中島美嘉「僕が死のうと思ったのは」がトップ。同作は、提供者であるamazarashiの秋田ひろむがそのまま歌っても全く自然な楽曲で、最終的には生きることの喜びを綴っているのだが、一部だけ聞いても、その感動が伝わらないので是非ともどこかでフルコーラスを聞いていただきたい。他は、ドラマ『あまちゃん』挿入歌の「地元に帰ろう」や、きゃりーぱみゅぱみゅ、そして世界的に中毒者続出(笑)の「Tacata’」以外、女性だけのボーカル曲が見られず。要は、女性アーティストが“タイトル勝ち市場”でガラ空きになっている。きゃりーぱみゅぱみゅの各楽曲が歌詞および動画サイトやダウンロードでいずれもインパクト抜群で好調なように、女性ソロは、歌詞でもタイトルでももっともっとリスナーを惹きつける必要性やチャンスがまだまだ残されているかもしれない。

 以上のように、“タイトル勝ち”の重要性を垣間見ることが出来た。楽曲以外の魅力で売上数字がいとも簡単に作りやすい世の中だからこそ、真なるヒット曲の創作に向けて、歌詞全体の内容のみならず、そのタイトルや場面設定などのディテールまでこだわった歌詞に出逢いたいものだ。




恋音と雨空/AAA

高嶺の花子さん/back number

夜咄ディセイブ/ じん

 MAXの33thシングル。8月7日発売ながら、バラエティー番組等で披露される度に、おもにダウンロードチャートで上昇し、歌詞サイトでも地味にロングヒット中(いえ、地味でもロングヒットする曲は、1週間で急落してしまう楽曲よりもチカラがあるのです!)。もともとは、イタリアのDJグループがヨーロッパ全土にヒットさせたもののカバーだが、そのミュージックビデオの意図的な安っぽさ(微笑)や、ジャケットのマニッシュなテイスト(おそらくゲイたちを狙い撃ち(笑))、そして何より「えっ?いま、なんて言った??」と聞きなおしたくなる歌詞の連続で、既にカバーを超えて十二分に彼女たちのオリジナルになっている(詳しくは、歌ネットにて歌詞をつぶさに読み込んでいただきたい)。特に、「魅せたげよっか?Tacata」「ポジティブThinking,Takaca」など何でもありだとリスナーに思わせつつ、後半で「デタラメ並べてるんじゃなくて/これが肝心要!」とそれに反論するような歌詞が準備されているのが見事!
 ちなみに、カップリングの「Summer Dream」も合わせて、作詞はMOMO"mocha"N.(読み「モモ・モカ・エヌ」)が担当していて、英語と日本語のゴチャ混ぜ具合が絶妙。今後もチェックし続けたい作家の一人だ。


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。

 今月は、7位にランクインした女性シンガーGILLEに注目。彼女は、2012年春頃、ヒルクライムの「春夏秋冬」や斉藤和義「やさしくなりたい」などの楽曲を英語カバーしたシルエット姿での動画が、YouTubeで膨大なアクセス数となり、レコード会社でのメジャーデビューが決まったという“ストーリー”を持つ。(しかし、GReeeeNやJulietのように覆面でデビューするのも、カバーの話題性でデビューするというのもユニバーサルミュージックのお家芸だから、随分前から彼女の同社デビューは決まっていたはず(微笑)。)そして、その後、AKB48の初の公式カバーとなる「フライングゲット」の英語バージョンの配信ヒットで一気に人気が爆発、その後にリリースされたカバー・アルバム『I AM GILLE.』はオリコン最高位7位、累計約10万枚にもなるヒットとなった。
その後、本人が正体を現したらバイリンガル独特のキレの良い英語ボーカルと、南九州出身者独特の人懐っこい訛りのギャップも、シルエットに負けぬ程のインパクトがあったのだが、オリジナル作ではやや苦戦中(オリコンでオリジナルアルバムは最高位82位)。このキャラのポジションはAIがずっと居続けていることもあった為、差別化が難しかったのかもしれない。そして、苦肉の策なのか(?)、今年9月には早々と2ndカバーアルバムも発売された。現在は、歌詞の人気曲TOP10中9曲までがカバー曲で、今後の人気継続にはオリジナル・ヒットの量産であることは自明。ボーカリストとしては抜群の歌唱力を発揮し、LIVEのトークなどを聞いても性格の良さとても分かるので、ここはデビューまでの波乱万丈ストーリーや地道な地域プロモーションを駆使して、更なるオリジナル・ヒットを期待したい

順位 占有率 曲名 初収録作品
発売日
1 34.5 フライングゲット(English Ver.) 1st Cover AL『I AM GILLE.』 2012.7.18
2 6.2 HIKARI 3rd Sg 2013.8.21
3 5.4 行くぜっ!怪盗少女 2nd Cover AL『I AM GILLE. 2』 2013.9.4
4 4.7 女々しくて 2nd Cover AL『I AM GILLE. 2』 2013.9.4
5 4.3 春夏秋冬(English Ver.) 1st Cover AL『I AM GILLE.』 2012.7.18
6 3.9 100万回の「I love you」 3rd Sg c/w 2013.8.21
7 2.8 じょいふる 2nd Cover AL『I AM GILLE. 2』 2013.9.4
8 2.5 やさしくなりたい(English Ver.) 1st Cover AL『I AM GILLE.』 2012.7.18
9 2.3 恋文〜ラブレター〜(English Ver.) 1st Cover AL『I AM GILLE.』 2012.7.18
10 2.3 Live While We're Young 2nd Cover AL『I AM GILLE. 2』 2013.9.4



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
9月18日に発売された企画CD『大切な人と聴きたい15のラブソング』(詳しくはこちらの特集ページをご覧下さいませ。)のジャケットについて。実はこれ、私は全く関わっておらず、橋本佳美さんというとても優秀な女性ディレクターさんのアイデアで、アニメ作画監督さんに描いてもらったのですが、「うわぁ〜、ちょっとイメージ強すぎかも。。。」くらいに心配していました。しかし、いざ発売してみたら近年のDJ MIX以外のコンピでは珍しくオリコンTOP100級のセールスで、しかもネットの口コミを見てみたら「ジャケットが良くて買った」という類の書き込みがちらほら。やっぱり自分の感覚だけで突っ走ってはいけないなと良い意味で痛感しました。今、会社で上司やクライアントから苦言されている方も、どうぞ相手をあまり敵対視せず自分を成長させる為のアドバイスだと捉えて日々邁進していってくださいね♪