前月の歌詞検索ランキングから、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、オリコンにTOP10していない楽曲の中から歌詞人気曲を探ってみた。

  80年代半ば(おそらく「夕やけニャンニャン」で、おニャン子クラブのメンバーの1位が毎週紹介された頃)から、世間ではオリコンでの上位入りが注目されてきたように思うが、音楽業界では70年代から「左ページに入る(TOP50内に入る)こと」新人の第一目標とされるように、長い間重視されてきた。
  その後、より効率よく上位入りする為、集計期間をフルに活用できるよう発売日を水曜日にしたり(発売日ベースで集計されていた80年代後半〜90年代は、実際に店着していた前週の金曜日から正味10日間の売上げが加算される月曜日に設定)、購入特典を付けたり、さらには同一タイトルの複数種で発売したりと、徐々にエスカレートしていった。
  そして、ここ2〜3年、各アイドルグループが、イベントやLIVEをCD発売の数か月前から行い、前払いでファンからの予約を募り、CD発売週に一気に売上げを加算するということが常態化するようになった。
  その結果、1週間だけオリコンTOP10入りするも翌週にはTOP50どころかTOP200圏外の(要はイベントでしか売れていない)シングルが急増し、大衆に広まることで上昇するシングルは急減、「ヒットチャート」はもぬけの殻寸前に変貌した。(具体例は拙ブログもご参考いただきたい。)
そのような状況から「邦楽は終わった」と嘆く人もいるが、そうではなく、オリコンTOP10にこだわらなくてもヒット曲は見えるのでは、というのが今回の分析を始めた経緯である。
第66回:「オリコンTOP10ヒット」 以外の人気曲TOP15(2015年1月:2014年12月のデータより分析)
テーマ
順位
今月
順位
アクセス
指数
タイトル
アーティスト
収録種別
+最高位
発売日
1位 1 100.0 Happiness シェネル SG 25位 2014.11.19
2位 2 33.6 Silly 家入レオ SG 12位 2014.11.19
3位 6 18.8 花束 back number SG 18位 2011.6.22
4位 10 12.4 Story (English Version) AI 配信限定 2014.10.22
5位 11 10.9 奏(かなで) スキマスイッチ SG 22位 2004.3.10
6位 13 10.4 日々 吉田山田 SG 21位 2013.12.18
7位 14 10.0 あなたへ贈る歌 erica AL 85位 2014.5.21
8位 32 6.9 私は貴方がいいのです 阿部真央 SG c/w12位 2010.1.13
9位 33 6.9 高嶺の花子さん back number SG 11位 2013.6.26
10位 36 6.5 ハピネス AI SG 14位 2011.12.14
11位 38 6.5 あなたを想う風 HY AL 12位 2014.12.3
12位 43 6.3 シルエット KANA-BOON SG 11位 2014.11.26
13位 44 6.2 星のうつわ スキマスイッチ SG 16位 2014.12.3
14位 46 6.0 #ヤッチャイタイ MINMI SG c/w45位 2014.7.23
15位 47 6.0 貴方の恋人になりたいのです 阿部真央 SG 19位 2009.8.5
次点 51 5.7 ソレデモシタイ 平井堅 SG 13位 2014.12.10
※初収録されたSG(シングル)またはAL(アルバム)のオリコン最高位を示した。

 1位、2位は、ともに前年10月クールのドラマ主題歌となった楽曲。どちらもオリコンではTOP10入りしていないが、歌詞サイトでは総合でも月間1位、2位という高さ、ダウンロードでも週間1位を獲得、FMでもヒット、カラオケでも上昇中で、むしろオリコンだけがガラパゴス化しているようにも思える。

 3位と5位は、back numberとスキマスイッチの本格ブレイク前の代表曲で、こうした長い支持が顕著なのも歌詞サイトの特長だろう(back numberは、15年1月21日発売の新曲「ヒロイン」で更に化けそう。レミオロメン「粉雪」をスローにしたような名曲感のあるナンバーだなと思っていたら、小林武史プロデュースで納得!)。6位の吉田山田「日々」や12位のKANA-BOON「シルエット」もTV番組等で歌唱される度に、如実に歌詞サイトやダウンロードサイトで急浮上する、れっきとした「ヒット曲」だ。

 本テーマのTOP10内に6作もの女性アーティストの楽曲、しかもすべて女性ソロであることも大きなポイントだろう。シングルを出そうにも、多種類販売で稼ぐとしてもメンバー別個別特典が出来るわけでもないし、現状のシングルチャートでは、まさに多勢に無勢だ。しかし、だからと言って、女性ソロの楽曲がヒット曲かどうかはシングルチャートの最高位では測れないというのが今回の分析でも明らかだ。

 このような中でも、aiko、コブクロ、ゆず、DREAMS COME TRUEらは、オリコンTOP10入りをほぼ継続させているが、今年あたり、冒頭の“予約入金集団”によりTOP10入りが阻まれる可能性も十分にある。そういった場合でも、他のヒットチャートも複眼的に見ることで、本当のヒット曲を見出し、その中から自分の心の支えを見つけていただければ、とても嬉しく思うし、いい加減、音楽業界の人達も、そういった見識を持ってほしいと心から願うばかりだ。本当に支持されるヒット曲を大衆により多く楽しんでもらうこと。これが、音楽業界が必要とされ続ける唯一の方向だと信じている。




Happiness / シェネル

Silly / 家入レオ

花束 / back number

 2011年「ベイビー・アイラブユー」の英語バージョン、12年に「ビリーヴ」を共にダウンロードで大ヒットさせてきたオーストラリア出身の女性歌手、シェネルの2ndシングル。本作は、フジテレビ系ドラマ『ディア・シスター』の主題歌になった事がヒットのキッカケではあるが、これだけの大ヒットとなったのは、艶やか(女性リスナーにとってはとても大事!)かつ、説得力のある歌声で英語も日本語も歌いこなせるシェネルの歌唱力によるところが大きいだろう。また、安室奈美恵、西野カナ、EXILE TRIBEなど今旬のアーティストの楽曲を多数手がけているFAST LANEが本作の作曲を手がけていることもポイント。
  それにしても、彼女やクリス・ハートなど異国のボーカリストが、こんなに綺麗に日本語を伝えていることを考えると、日本人は、笑顔を振りまき、口をパクパクするのを重視するあまり、歌唱表現をおろそかにしているのではないか、とやきもきしてしまう。アニメ・タイアップ無しでも、ギターを抱えなくても、真摯に言葉を伝えられるボーカリストが日本人からも多数出てくることを期待したい。


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。

  今月は、8位の大森靖子(せいこ)に注目。彼女は、87年愛媛県出身のシンガーソングライターで、00年代より東京を中心にLIVE活動を行い、12年4月にシングル「PINK」にてインディーズ・デビュー。その後、インディーズにて2枚のアルバムを発表。時にキュートに時にワイルドに歌う点や、一筋縄ではいかない歌詞の世界観は、YUKIや椎名林檎など中堅〜ベテラン級の器を感じさせ、それに加えネット世代ならではの言葉使いもユニークで、まさに唯一無二の存在だ。それゆえ、メジャー・デビュー前にして、CDジャーナルやMUSIC MAGAZINEなどコアな音楽誌から注目されており、14年9月、シングル「きゅるきゅる」にて満を持してメジャー・デビュー、12月には1stアルバム『洗脳』を発表し、共に週間TOP20入りを果たした。
  ただし、どちらも発売1週目(の数日)のみ爆発的に売れるものの、その後急落するほど、まだ“知る人ぞ知る奇才”という存在。『アナ雪』や『妖怪ウォッチ』、EXILE TRIBEなど数多くのロングヒットを生む出しているエイベックス所属だからこそ、今後より多くのリスナーに広めていく戦略が今年実行されるかどうか期待したい。

順位 アクセス
比率
タイトル 本人CDでの初収録作品
発売日
1 10.9% ミッドナイト清純異性交遊 2nd indies AL『絶対少女』 2013.12.11
2 8.3% 絶対彼女 2nd indies AL『絶対少女』 2013.12.11
3 6.9% 絶対絶望絶好調 1st AL『洗脳』 2014.12.3
4 4.6% エンドレスダンス 2nd indies AL『絶対少女』 2013.12.11
5 4.4% イミテーションガール 1st AL『洗脳』 2014.12.3
6 4.3% あまい 2nd indies AL『絶対少女』 2013.12.11
7 4.3% きゅるきゅる 1st SG 2014.9.18
8 4.2% 君と映画 2nd indies AL『絶対少女』 2013.12.11
9 4.2% 私は面白い絶対面白いたぶん 1st SG c/w 2014.9.18
10 3.9% ノスタルジックJ-pop 1st AL『洗脳』 2014.12.3
 


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、それまでのヒットチャートデータと理系的センスを織り交ぜた音楽市場分析が評判となり、05年にT2U音楽研究所を設立し独立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 最近は、藤井隆、レイザーラモンRG、椿鬼奴による音楽ユニット「Like a Record round! round! round!」によるシングル「kappo!」をややヘビロ中。椿鬼奴は決して上手くないんだけれどハスキーで安っぽさが良く出ているし、藤井隆が書き下ろした似非ディスコ路線のメロディーや、あえて意味希薄な歌詞が、どこまでもパチモンっぽいのが面白い。カップリングの「Dining Tarot」も80年代の伝説(?)アイドル、セイントフォーっぽいし、90年代のプチ・ヒット曲「ナウ・ロマンティック」のカバー&tofubeats MIXも良い感じ。3曲+リミックスやアカペラで1080円は悩むところだが(スミマセン)、気分が晴れるのでお賽銭気分で是非どうぞ♪