第74回:夏うた人気曲TOP15
夏の名曲は10年以上出ていない??
前月の歌詞検索ランキングから、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、夏うたの人気曲を分析してみた。少し前の6月下旬、『ミュージックステーション』にて、「夏うたランキングTOP40」というのを放送していたのだが、それを見て愕然とした。1位が1998年のゆず「夏色」、2位が1990年のTUBE「あー夏休み」、そして3位が2000年のWhiteberry「夏祭り」(1990年のジッタリン・ジンのカバー)と3作すべてが前世紀の楽曲だったのだ。TOP10まで見ても、最も新しいのがケツメイシ「夏の思い出」の2003年。日本の選挙(って、AKBじゃないですよ、あれは選挙というよりも、"お金持ちパトロン対抗戦"に近い)同様に、若者の人口割合が少ないが為に、中高年の意向ばかりが反映されてしまう嫌いがあるとはいえ、『Mステ』と言えば、今でも新曲を歌えば歌詞検索やダウンロードに大いに影響のある番組で、若い世代が大いにチェックしている番組だ。そんなヒット曲が生まれる上で欠かせない番組内で懐メロばかりがフィーチャーされた結果となり、若い世代がないがしろにされているようで寂しくなった。だからこそ、あらためて近年の"夏うた"人気曲を分析したいと思ったのだ。もうすっかり秋めいて涼しくなった今日この頃だが、どうかお付き合い願いたい(苦笑)。
第74回夏うた人気曲TOP15(2015年9月:2015年8月データより分析)
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※タイトルに夏の季語を含むものや“夏の勝負ソング”といった打ち出し方をした楽曲を
なるべく多めにピックアップした。
なるべく多めにピックアップした。
1位は家入レオ、2位は大原櫻子、3位にはmiwaと女性ボーカルが豊作、
この時期に尋ねれば、"夏うたランキング"の結果も変わったのかも
1位は、家入レオの10thシングルがダントツに。たった2日間で、レコチョクランキングの週間1位に登場し、CDも過去最高レベルの初動(約2万枚)、セールス、ラジオ、YouTube、twitterなどの総合チャートであるビルボード・ジャパンでも初の週間1位を獲得するなど、およそ全ランキングで絶好調の結果となっている。本作は、フジテレビ月9ドラマ『恋仲』のタイアップで、同枠としては久々の王道恋愛ドラマということも影響しているが、何より彼女の成長が大きいだろう。これまでは10代の自我の目覚めや葛藤をテーマとしたハードな楽曲が多かったが、本作では切なさをしっかりと表現できているのだ。本作のヒットをキッカケに、より幅広い世代からも支持されることを期待したい。この時期に尋ねれば、"夏うたランキング"の結果も変わったのかも
2位は、大原櫻子名義では3作目となるシングルで、こちらはまさに夏の太陽を想起させる明るいポップス。同世代の女子に圧倒的な支持を集めてきた大原だが、本作のヒットで、同年代の男子にもファンを広げているようだ。3位は、miwaの18thシングル。これまでポップロック調の多かった彼女には珍しく、夏の別れを切なく歌ったバラード。初の男女コラボ作品で、サビから始まるというのもコラボでは鉄板な曲想。彼女もまた、これまでの殻を破ろうとしているようだ。
これら3曲の女性ボーカル曲や、6位の「長く短い祭」、11位の「PLAYBACK」はいずれも"楽曲"が支持されて歌詞が検索されていることから、もし今の時期に「あなたの好きな夏うたは?」というアンケートを取れば、これらもランクインしたのかもしれない。ただ、少し残念なのは、テレビや新聞といった媒体が、(必ずしも楽曲が支持されてはいない)CDシングルヒットばかりに注目し、こうした人気曲をさほど紹介しない、それゆえこのヒット感がイマイチ広がりを見せていない事だ。これも、近年の"夏うた"が20世紀のそれらほど強烈に印象づいていない一因ではないだろうか。やはり今の時代は、CDのみならず、ダウンロードや動画や歌詞サイトの視聴など、様々な方法で音楽を楽しむことができる為、ヒットは複眼的、総合的に判断しなければ見えないのだ。
とはいえ、三代目J Soul Brothersの新旧のヒットがTOP10に3作ランクインし、次点ではあるがテレビのカラオケ番組で歌われる度に各種チャートで大きく再浮上する秦基博の「ひまわりの約束」も見られるなど、ロングヒットの夏うたも確かに存在している。欲を言えば、TUBEやサザンオールスターズのようにギラギラな男性曲はEXILE TRIBEの独壇場になっていそうなので、来年以降は夏フェスの勢いに乗って、そんな灼熱の太陽に負けないような名曲をリリースするバンドにも期待したいし、筆者自身も注目したい。アーティストや関係者の皆様は、今から来夏の準備しておけば間に合うはず!(微笑)
第6位:椎名林檎「長く短い祭」
それにしても、17年のキャリアで15作しかシングルCDを出しておらず、東京事変の7作を含めても、1年につき1作とちょっと、という程に寡作。それでいて、毎回ジャケットも楽曲も話題となるほどに1作に対する熱量はハンパない。昨年5月に発売となった他アーティストへの提供作のセルフカバー集『逆輸入〜港湾局〜』も、ミュージック・ジャケット大賞2015を受賞しているが、本シングルも紙ジャケットで、その図柄も6面にわたって大胆に表現されているという贅沢な仕様。よかったら今夏の想い出に1枚どうぞ。
ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
ルーキー部門第8位:WANIMA
そして、今年8月には4曲入りEP「Think That...」を発売、こちらも4週間累計で同レベルの売上げに達した。ノンタイアップのシングルでいきなり1万枚を超える新人バンドとはいうのは珍しく、この点からも、彼らの支持の熱さが読み取れるだろう。本作のリード曲は、大切な人と別れた記憶を胸に歩き出す「TRACE」だが、最も歌詞が人気なのは夏の勢いで刹那的関係を求める「いいから」というのも興味深い。どちらの曲も一歩間違えば暑苦しかったり、エロティックだったりリスナーを限定しがちだが、クールな演奏やハイトーンのボーカルとコーラスの掛け合いなど、揺るぎないスキルが上質のロック・チューンに昇華している。今後、CD等でTOP10入りする日も遠くはないはず。
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つのはず誠の「キラ☆歌発掘隊」
プロフィール:つのはず誠
つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、それまでのヒットチャートデータと理系的センスを織り交ぜた音楽市場分析が評判となり、05年にT2U音楽研究所を設立し独立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングなどでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic。2015年8月26日に発売された米倉利紀の邦楽カバーアルバム『うたびと』は邦楽オールジャンルを聴きたい人にオススメです。「見上げてごらん夜の星を」(坂本九)や「喝采」(ちあきなおみ)、「カサブランカ・ダンディ」(沢田研二)など昭和の歌謡曲から「好きで、好きで、好きで。」(倖田來未)のような21世紀のJ-POPまで、幅広い年代で、男唄/女唄問わずカバー。「浪漫飛行」(米米CLUB)では大らかに歌いつつ、「誰より好きなのに」(古内東子)ではスムージーにしっとり歌うというバリエーション。こうした"歌手"然とした人が、新人でも沢山現れるといいな〜と思います♪