第76回:"ヒット不確定"人気曲TOP20
大型タイアップがない場合の歌詞ヒットパターンとは?
前月の歌詞検索ランキングから、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、"ヒット不確定"な中での人気曲を分析した。これまでの連載で、ドラマや映画、清涼飲料水や通信系のCMなどの大型タイアップ曲は確実に歌詞検索数が伸び、その音楽配信ヒットとの親和性について、耳にタコができるほど(汗)論じてきた。では逆に、そういった要素なしで人気がある楽曲やアーティストを調べるのが今回のテーマだ。なお、5年前の第15回にて、"ノンタイアップ曲TOP15"について分析したが、今回はそれに加えて、深夜や地方局のテレビ番組タイアップなども大きく期待されていないという点からランキングの対象とした。(※決して、番組の優劣という意味ではありません。)
第76回"ヒット不確定"人気曲TOP20(2015年11月:2015年10月データより分析)
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※ドラマ、映画や大型商品のCMのタイアップ曲を対象外とした。
(レコード会社によるCMのみの場合やノンタイアップ曲はOK。)
(レコード会社によるCMのみの場合やノンタイアップ曲はOK。)
ハジ→やMACO、井上苑子など共感されるアーティストが大きく浮上
back numberや嵐など、アーティストパワーがノンタイアップ曲にも波及
まず、1位はmiwaの自身初のコラボレーション・シングルとなった通算18作目のシングル。通常、男性ファンの多い女性歌手が、男性歌手とコラボするとセールスが下がることが大半だが(おそらく男性ファンが、同性アーティストに嫉妬?)、本作の場合は「ヒカリヘ」に次ぐmiwa2番目の配信ヒットとなった。つまり、この切ないバラードでこれまでと異なるファンを大いに獲得できたという事だろう。しかも、「ヒカリヘ」は、フジ月9ドラマ主題歌として2012年後半の間ずっと話題だったが、本作はノンタイアップという点もポイントが高い。back numberや嵐など、アーティストパワーがノンタイアップ曲にも波及
それにしても、表全体では、1位、7位、16位、19位、そして次点とハジ→が5作も登場。カップル専用アプリの会員170万人が選ぶ"好きな男性ソロアーティスト"で彼が1位になったというニュースを見た時、「いやいや、それはいくらなんでも・・・」と勘繰った人もいそうだが、この表を見れば当然の結果だと納得できるはずだ。
他にも、男性ではback numberと嵐(及び彼らのソロ曲)の人気が目立っている。back numberは、今年は発売されるシングル4作すべてが大型タイアップ(ゆえに本ランキングでは対象外)となり、新作が気になって旧作を歌詞サイトで復習する傾向がますます顕著になっている。特に、最新作「クリスマスソング」はフジ月9ドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』の主題歌なので、ここで更なる大ブレイクとなりそう。また、嵐は10月21日に発売されたアルバム『Japonism』の影響によるランクインだが、わずか10日間での集計なので、11月度はさらに顕著となりそう。それだけ、彼らはオリジナルアルバムの収録曲でも浸透しているという証で、この点は、他の男女アイドルと大きく差異化している。ちなみに、その中でトップの「MUSIC」を歌う二宮和也のソロ曲では2007年の「虹」が発売以来ずっと歌詞サイトで人気が継続中。女性陣が悩殺されそうな歌詞ゆえか。
これに対し、女性では井上苑子とMACOの好調ぶりが目立つ。どちらも、この2年内にデビューしたシンガーソングライターだが、井上苑子は"動画サイトで人気の現役女子高生"、MACOは"テイラー・スウィフトなど外国曲のカバーが人気"という触れ込みの大きさの方が目立っていた。今後は、もっと彼女たちの言葉や歌のチカラに注目してみるのも良さそうだ。
以上、ヒット確実なタイアップ曲を除いてみると、嵐のようにヒット常連のアーティストパワーが分かる一方で、TV画面からはおよそ想像できない意外なアーティストの歌詞の人気も浮き彫りになった。その意味では、今後もノンタイアップゆえに人気の歌詞にどのような魅力があるのか、考えてみるのも素敵な楽曲との出逢いを増やすことだろう。
第7位:ハジ→「記念日。feat.miwa」
本作はハジ→のインディーズ・デビューからの約5年間をまとめた『ハジベスト。』のリード曲で、アルバムセールスはオリコン週間4位と自己ベストを大きく更新。これまでの配信ヒット曲「君と。」や「foy YOU。」(←既にお気づきだと思いますが、彼のタイトルにはすべて「。」が付くのです。)も当然収録されているが、これらラブソング以外にも人生を素直に考えた「人生は素晴らしい物語。」や、熱い友情を歌った「おまえに。」など実はバラエティーに富んでいるのも人気の理由だろう。それにしても、どの曲も平均60行を超える歌詞の長さや熱さに感心する。これを"行間がない"と批判する人もいるかもしれないが、言葉が多い分、すぐに実体験と照合出来るのも一つの強みだろう。HAN-KUN(湘南乃風)や九州男のように高音をハスキーに張りながら、親しみやすそうな歌声も現代のSNS向き。今後、時代から更に後押しされるのか注目したい。
ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
ルーキー部門第9位:キュウソネコカミ
2014年のメジャーデビュー後の2枚のミニアルバムも同様のハイテンションで、特にメジャー1枚目の『チェンジ ザ ワールド』収録の「ビビった」は、「オリコンチャートは今日もたくさんの愛で溢れて壊れている」という秀逸なフレーズで多売商法をシニカルに言及し、歌詞検索も急上昇、歯に衣着せぬ歌詞と、情報番組やニュースサイトなどメジャーレコード会社ならではのプロモーション戦略で更に人気が加速した。
そして、2015年は初の両A面シングル「MEGA SHAKE IT!/ハッピーポンコツ」をリリース。「MEGA SHAKE IT!」では、『ミュージックステーション』にて、歌謡ポップス調になる曲の下りで突如アイドル風の衣装に変身するというプロ根性を見せ、さらにアルバムのリード曲となった「泣くな親父」(小さな娘を持つ男達は号泣必至!)をダウンタウンが司会を務める音楽特番で披露する際、浜ちゃんのシバキの洗礼を受けるなど各メンバーのキャラ浸透にも成功しSNSでも人気爆発。そうして迎えた3rdフルアルバム『人生はまだまだ続く』は、初動でいきなり約1.5万枚という高初動となった。
まだ人気曲TOP10にはアルバム収録曲がシングルの2曲を含めても3曲しかないが、LIVEで大いに盛り上がりそうな"人生と嘘"をテーマにした「記憶にございません」や、医師免許取得制度に疑問を投げかける問題作(これ、物凄く聴いてほしい迷曲!)「ヤブ医者」の人気も急上昇中。しかも、彼らの人気曲は既に大きく分散しており、これは世界観全体が支持されている証拠。 歌詞以外にも、J-POPのヒット論を研究(そして我流に消化)したようなキャッチーなイントロ、ジャケットやブックレットなど作りこんだビジュアル、そしてメディアで見せる本音トークなど、魅力は満載。個人的には、この規模で売れているバンドの中で、歌声でのカリスマ性が弱いようにも感じるが、逆にその飾り気のなさも人気の秘訣だろうし、この部分が今後どのように変化していくかにも注目したい。スケベ心を出して、次回作から、石井竜也や河村隆一のようなフェロモン放出系の歌声になることも微かに期待(?)しつつ。。。
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臼井孝の「キラ☆歌発掘隊」
プロフィール:臼井孝
うすい・たかし。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、それまでのヒットチャートデータと理系的センスを織り交ぜた音楽市場分析が評判となり、05年にT2U音楽研究所を設立し独立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングなどでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic。20世紀のJ-POPや歌謡曲ファンにオススメしたいのがロバート、秋山竜次によるCD『オモクリ名曲全集 第二集 秋山竜次(ロバート)編』。これはTV番組発のいい加減なCDと誤解することなかれ!もともと芸達者なロバート秋山だが、ここでは、90年代ダンスポップス風、虎舞竜「ロード」風、尾崎豊風、キモい男の子風と縦横無尽に不思議なポップスを次々と披露していて、しかも、どれも歌唱力バツグン!トドメに9曲も聴けてたったの税込1500円!!モラルや手段を選ばなければなんでもタダで手に入る時代ですが、彼の功績を労って出費してもバチは当たらないと思います。LIVEイベントとかあれば是非行ってみたいな〜♪