Ｑ）作曲はされますけど、歌詞は、ほとんど書かれていませんが、どうしてですか？
もう、本当にダメなのよ。詞を書く能力が全くないんだろうな。頭が悪いんだろうな。ストーリーを頭の中で構築するってのがダメなんだろうね。メロディが先だから、そこにはめようとすると、選べる言葉が限定されるからね。「詞がない作曲家」って言ってるよ（笑）。
それと、やっぱりね、最初に岩谷時子さんに出会ったってことも大きいね。まかせておけば、どんどんいい詞ができてくるからね。だから、自分で書くのは英語の歌詞だけだね。サウンド的に作ることができるからね。

＜岩谷時子作詞の主な作品＞
「君といつまでも」「夜空の星」「恋は紅いバラ」「海 その愛」「蒼い星くず」「お嫁においで」「旅人よ」など

Ｑ）歌詞は、やはりサウンド的に捉えられてるんですね。
そういうことだね。やっぱり、もともと洋楽から入ってるから、最初は意味なんて考えないで、ボーカルも楽器のひとつとして、サウンドや響きで捉えていたね。だから、当時、洋楽の曲に日本語の言葉を乗せると、ものすごい違和感を感じていてね。それを、最初に、克服したのは桑田佳祐じゃないかな。彼の歌い方、日本語の発音が、ロックっぽくメロディに乗ってて、アイツはすごいなぁって思ったね。

Ｑ）岩谷時子さんの歌詞は、いつもイメージ通りでしたか？
イメージ通りじゃなかった曲もあったけど、オレは何も考えないで渡すことの方が多いから、「ああ、そういう風に出来たのか。じゃ、それでいいや」って無責任な感じだったね。

Ｑ）そんなに歌詞にこだわりはないんですか？
いや、ある時もある。このメロディには、やっぱりこういう詞を付けてほしいって思うこともあって、そういう風にお願いすると、岩谷さんからは、だいたいイメージ通りに出来て来るね。たとえば、「海 その愛」なんかは、そうだね。「壮大な海のイメージがあったらいいなぁ」ってお願いしたら、その通りの詞が出来てきたもんね。まず、タイトルからして驚いたし、内容も人生の機微が歌い込まれていてね、素晴らしいよね。

Ｑ）「海 その愛」は、加山さんの人生を歌った、テーマソングのような歌ですね。
そうだね。でも、一度は捨てたメロディだったんだよ。アルバムを作る時に曲が足らなくなって、その時に、捨て曲の中から出してきた５曲のうちの１曲で、最終的に、「海 その愛」がアルバムに収録されたんだよね。それが、だんだん人気になっちゃって、今では、コンサートのエンディングに欠かせない曲になっちゃったね。

Ｑ）加山さんがこれまで聴いてこられた曲の中で、「この人はすごい」と思われる作詞家は誰ですか？
う〜ん、いい詞だなぁ〜と思うことはあっても、それを誰が書いたのかってことまでは、あんまり意識していないからなぁ。

Ｑ）それでは、加山さんがこれまで聴いてこられた曲の中で、印象に残っている歌詞のフレーズはありますか？
やっぱり演歌の歌詞だよね〜。演歌にはいっぱいあるよな。たとえば、「さざんかの宿」の「ぬいた指輪の罪のあと かんでください思いきり…」なんて、すごいよなぁ。よくそういうのを思いついて書けるよなあって思うね。オレにはそういうの書けないからね。

Ｑ）カラオケを歌われることはありますか？
よく歌うよ。船の中にもカラオケセットがあってね。みんなが集まった時なんかによく歌うよ。夜になると宴会になるじゃない。オレは酒は飲まないけど、みんなが飲む中で、オレがカラオケで前座を務めるんだよ。それから、みんなが歌いたい曲のカラオケ番号を書いた紙を集めて、オレが機械に入れてるよ（笑）。

Ｑ）どんな歌を歌われるんですか？
演歌ばっかなんだよ。前川清の「そして神戸」「東京砂漠」、吉幾三の「雪國」「酒よ」、大川栄策の「さざんかの宿」、河島英五の「酒と涙と男と女」、森進一の「襟裳岬」とかよく歌うよ。昭和30年代、40年代は、いい曲が多いんだよ。好きな歌もいっぱいあるよ。

Ｑ）その加山さんの演歌、聴いてみたいですね。
だから、そういう聴いてみたいっていう要望があれば、またカバーアルバム作るよ。実は、オレがよく歌う曲のリストをすでに作ってあるんだよ。相当たくさんあるよ。古いのは「上海帰りのリル」とか「星屑の町」とかあるからね。そのリストを公開して、リクエストが多かった曲からアルバムにしていこうかなって思ってるけどね（笑）。

Ｑ）ところで、インターネットは使われますか？
使ってるよ。やっぱり、調べものをしたり、情報を得るためにだね。あと、YouTubeを見るのがすごい好きでさ、スーザン・ボイルとかも、有名になる前から見てたんだよ。あと、動物の笑っちゃう映像ね。アレ見てると癒しになるよね。だけど、メールはやらない。

Ｑ）仲の良い歌手のお友達はどなたですか？
親父もプライベートで芸能界の人間と一緒にいるのを好まなかったけど、オレも、付き合ってるのは、結構、普通の人が多いね。でも、音楽仲間ってのは、また別でね、さだ君にしても、谷村君にしても南こうせつ君にしても、プライベートでも仲いいよ、メシ作って食わしたりしてるよ。さだ君なんか、エビが食べられないのに、知らないで出しちゃってさ、かわいそうに食べてたよ。悪いことしちゃったなぁってね。
あと、桑田君は、地元、茅ヶ崎の良き後輩だね。実は、ものすごく縁が深くて、彼の親父さんがウチの親父と仲良しで、よく麻雀やったり、温泉行ったりもしてたし、彼のお母さんも、ウチの関係のホテルで働いてたもんね。だから、サザンの「HOTEL PACIFIC」って曲も出来たんだよ。

Ｑ）加山さんは、嫌いな食べ物はあるんですか？
最近、エビ、カニが食べられなくなっちゃったんだよ。大好きなんだけどね。アレルギーで顔が腫れたり、蕁麻疹が出てきたりするんだよね。ずいぶん昔に、１回アレルギーがでて、その時は克服したんだけど、なんかの拍子に、また出てきちゃっただろうね。それほどヒドイ反応は出ないんだけど、やっぱりダメだね。サンドイッチとかのフレイバーでもダメなんだよ。うまいから悔しいんだけどね。だから、今はあきらめてるけど、今度、しばらく仕事がないって時には、毎日、食ってやろうかと思ってるよ（笑）。

Ｑ）お酒は飲まれないんですか？
もう６年くらい前、６７歳の時にやめましたね。

Ｑ）どうしてお酒をやめられたのですか？
テレビで、あるお医者さんが「人間が消費しようとするエネルギーを消費させないようにするのがアルコールの作用なんです」って言っててね。それを聞いて「あぁ、だから太るのか！」って思ってね。それが、ちょうど、太っちゃって体重が８５キロまでいってた時で、腹も出ちゃって、かと言って食べるのを我慢できなし、「どうしようかなぁ〜」って思ってる時でね。それで、酒やめたら、一気に１０日間で５キロやせたよ。

Ｑ）体重の管理には気を使われているんですね？
そう。くだらないけど、大事なことなんだよね。健康上も大事だし、見栄えもあるしね。酒をやめてから、もっと体重を減らす為に、今度は「食べ方」も気をつけるようにしたね。朝たくさん食べて、昼は普通に食べて、夜は少なめにしているよ。それでまた減って、結局、１０キロくらいは落としたね。でも、この間、ヨーロッパに３週間くらい行って、カロリーの高いもの食べてたら、４キロ戻っちゃったけどね（笑）。だから、今また厳しい状況に入ってるよ（笑）。７２キロに戻したいんだよね。

Ｑ）尊敬している人はいますか？
黒澤明。「七人の侍」が好きだね。あと、オレも出てる「赤ひげ」だね。あと、面白いと思うのは「椿三十郎」だね。あれは痛快だよ。やっぱり、映画ってのは、痛快な部分があるのがいいね。

Ｑ）最近、気に入った映画やドラマはありますか？
最近、見ていて一番面白いなって思うのは、アメリカのドラマシリーズで、「CSI:」だろ、「コールドケース」だろ、「霊能捜査官アリソン・デュボア」だろ、あと「クリミナル・マインド」、それらは、みんな必ず録画して見てる。「24-TWENTY FOUR 」なんか最高だよね。テンポがいいよね。あれ以上のものはないね。あれ見ちゃうと、他のはみんなかったるくなっちゃうもんね。それほどすごい。息つく暇がないし、終わったら、すぐに続きがみたくなっちゃうもん。２０時間ぐらい時間がある時に、まとめて見たいね。DVDのボックスセットがウチにたくさんあるよ。もうタイヘンだよ。

Ｑ）これまで召し上がられたものの中で、とくにおいしかったものは何ですか？
新しいものを食べるたびに感動しているね。それで、食べて感動したものは、必ず自分で作っちゃうからね。アレンジして、もっとおいしくしてやろうって思うんだよ。最近も、アワビに使うボンゴレソースを工夫して作ったんだけど、それが絶品でね！ あと、モッツアレラチーズを使った洋風茶碗蒸しね。上にはコンソメのゼリーと、トリュフペーストを乗せて。もう香りと味とで最高だよ！

Ｑ）これまで、もらって嬉しかった贈り物は何ですか？
そりゃまあ、いろいろあるけどね。強いて言えば、お米だね。お米送ってもらえると嬉しいね。南魚沼とか富山のコシヒカリがうまいんだよ。そろそろお米がなくなってきたなぁ〜って思ってたら、昨日、ちょうど送られてきてね。それを、ザーッって米びつに入れるのが嬉しくてね。
あとね、「バイオハザード４」のね、「無限ハンドキャノン」のメモリーカードをプレゼントで貰ったのが嬉しかったね。自分では、いくらやっても、あの２０面をクリアできなくて、どうしても取れなかったんだよ。それを、この前、倅がプレゼントしてくれてね、「やったぁ！」って思ったね（笑）。

Ｑ）ゲームでは、「鬼武者１」を５７分でクリアしたという記録を持っていますが、今でもやられているんですね。
やってる、やってる！ 今は、「バイオハザード５」をやってて、ＰＳ３をどこでも持ち歩いてるよ。いやぁ、本当に好きだね。あと、最近、面白いなぁって思っているのが、「アフリカ」ってゲームでね。カメラマンが動物の写真を撮って歩くっていう単純な内容なんだけど、面白いよ。べつにゲームの宣伝しているわけじゃないんだけどね。でも、カプコンとかから、新しいゲームが次から次へと来ちゃうんだよ。そんなに時間がないから、まだ開けてないのもたくさんあるよ。

Ｑ）なんでも出来る加山さんですが、苦手なことってありますか？
まずは一番困っているのは体重、減量だよね。メシの量を減らさなきゃいけないってのが、ものすごく苦しいよね。食べることがこれほど好きな人間なのにな。そのジレンマで戦ってるってのがイヤだね。減量が苦手だよ。あと、漢字を書くのが苦手だね。昔から国語がダメでね。形で覚えてるから、読むのは全く困らないし、パソコンの変換間違いとかも全部わかるんだけど、どうも書くのだけが苦手でね。

Ｑ）なんでも持っていらっしゃる加山さんですが、今、ほしいものってありますか？
また新しい船を造りたくてしょうがないんだよね。今度は、エコ・シップを考えてるんだよ。化石燃料を一切使わないで、エネルギーを自分で作って走る船。それには、お金がいるんだよ。今ある水素エンジンだと、船の場合トルクが足らないから、エンジンの開発からやらなきゃいけないわけ。それには何十億もかかるからね。でも、「念ずれば花開く」っていう言葉もあるから、毎日、念じてるよ。

Ｑ）今、悩みや困っていることはありますか？
そりゃあるよ。今、現実的に、困ってることもいっぱいあるしね。悩みのない人生なんてあり得ないよ。

Ｑ）もし歌手になっていなかったら、何になっていたと思われますか？
まあ、「たられば」ってのはないけれども、もともとは、普通の会社に就職しようと思っていたから、アサヒビールとか三菱商事とかに入ってたかもね。入っていたら、もうとっくに定年退職して、やることもなくてゴルフ三昧だったろうね。でも、そういう人生にはならなかったろうと思うよ。やっぱり、船の船長、あるいは、船の設計をしたりデザイナーだったりとか、船関係の仕事をしていたんじゃないかな。それ以外には考えられないね。

Ｑ）最近、一番楽しいと感じる時は、何をしている時ですか？
いっぱいあるけどね…。そうだね〜、船に乗ってる時もそうだし、あと、やっぱり、気のあった連中とメシ食ってる時が一番楽しいね。それと、カラオケやってる時も楽しいしね。みんなに「歌え、歌え」って言っておきながら、オレが一番たくさん歌ってて、みんなから非難を浴びたりもするけどね（笑）。みんな歌わないから、間が持たないからしょうがなく歌ってるんだって言ってるけどね（笑）。

Ｑ）夢はありますか？
エコ・シップで世界一周をしたいってのも夢だけど、やっぱり、もっとたくさん、いろんないい曲を、いろんな形で残していきたいって思うよ。今回のアルバムもそうなんだけど、「これが始まり」って感じにオレは捉えてるんだよ。それと、「アバター」とかじゃないけど、CGを使ったSF映画も作ってみたいね。

（2010/09/28、取材・文：西山 寧）