Q)アリスから40周年、ソロ活動を開始して30周年となりますが、今回のアルバム「今 伝えたい」は、200名のお客さんをライブハウスに招待しての公開ライブレコーディングという形で録音されましたが…?
え〜、「ライブレコーディング」ではなくて、「レコーディングライブ」なんです。「ライブレコーディング」はみんなやってますけど、今回、「ライブを録音するのではなく」「レコーディングをライブ状態で」行ったんです。レコーディングをしている空気の中にお客さんがいる、という状態で録りたかったんです。
Q)どうして、そうしようと思われたのですか?
お客さんの空気感ごと、音に乗せたかったんです。普通のレコーディングだと、ブースの中で一人で歌うことが多いんですけど、そうではなくて、みんなの空気の中で歌って、それを録りたかったんです。歌う人って、実は、一人で歌っている時とか、リハーサルで声を出している時と、本番の声とでは、実は全く違うんですよ。聴いている人の想いが声にのっかるからなんです。それを僕らは「声魂(こえだま)」と言ってるんですけど、声魂ごと録音したかったんです。
Q)やりなおしのきかない一発勝負ですから、体調管理とか大変だったのでしゃないですか?
いえいえ、全然、大丈夫ですよ。人それぞれだと思うんですけど、僕は一切ナーバスにはならないですね。お酒も飲む時は、平気でのむしね(笑)。
Q)レコーディングは、アルバムに収録されている曲順どおりに録音されたそうですが、録り直しとかされたりしたのですか?
1曲だけ、イントロで止めて、「もう1回やろう!」って最初から録り直した曲がありましたけど、あとは全曲、1回で録ってます。3時間半で13曲、録りました。
Q)すごいですね。ミュージシャンの方々も、「ミスしちゃいけない」とプレッシャーがかかったでしょうね?
そう。とくに録り直した曲なんかは、余計にプレッシャーがかかりますよね(笑)。でも、そのプレッシャーの中で一番いい音を出せるのがプロの世界ですからね。レコーディングでいい音を出せるっていうのは、実は当たり前のことで、ライブの本番の空気の中で、いかにクオリティの高い音を出せるかっていうのが、ミュージシャンたちにとっては一番プレッシャーでしょうね。とくに、今回は、誰かが1音まちがえただけで、止まっちゃいますからね(笑)。
Q)たしかに、全ての音が太くて立っていて、あたたか味があり、奥行き感もあって、今の時代では新鮮にさえ聴こえる、とてもいい音で録音されている気がしました。
音は、かなりアナログに近いんです。デジタルで録っているんだけど、出てきてる音はアナログの音をしてるんですよね。レコード針を落とした時に、最初にノイズが出て、そのあとに「ボン」と音がでてくる、その空気感に近いんですよ。
Q)いや、本当に、黙って聴かされたら、誰も1回で録っているなんて思わないですよ。
そうだと思います。でも、みんなプロだから、プロとしていい演奏だけを聴かせるのではなくて、テンションの高まりとか、そういうのも取り込みたいと思ってたんです。
Q)そうですね、11曲目の「浪漫鉄道 <蹉跌篇>」などは、まさに、コンサートの終盤に聴きたいような曲で、谷村さんのボーカルも、まさにコンサート終盤の高まりのようなものもあって、感動的な感じになっています。
そうだと思いますよ。だから、コンサートで後半にヒートアップしてゆくという流れ、そのままに録りたかったんです。今のスタジオレコーディングでは出ない感じで録れていると思いますよ。
Q)本当に、あとからスタジオでなおしたり、楽器を差し替えたり、オーバーダビングで足したりとかはしていないのですか?
一切、していないですよ。ミックスダウンでの処理はしていますが、まさに正真正銘の一発録りですよ。だから、ライブも、このクオリティでやってることになるんです。
Q)普段からも、レコーディングでボーカルを直したりはしないんですか?
僕は、そういうことは、一切やりませんね。今は、ボーカルのピッチ(音程)も、機械的に直せますけど、ピッチをさわりすぎたり、ブレスを削ってしまったりして不自然になったりしますよね。最近は、レコーディングではよくても、ライブでは、あまり歌えないって人もいますからね(笑)。もう、延々とピッチをあげたり下げたりしている人もいて、「歌いなおした方が早いでしょ!」って思いますね。
Q)そうですね。音程もリズムも、必ずしも全てジャストで正確なのが気持ちいいとは限らないですね。
そうなんです。人間は、微妙なところというのが、実はすごく気持ちよかったりするんですよ。だから、ジャストピッチより上めに入ると気持悪いんですけど、ちょっと下めは大丈夫なんです。むしろ、その方が聴いていて心地いいこともあるんです。
Q)CD付属のドキュメントDVDを見ていると、1曲やったあとにプレイバックをして聴きなおしたりはしていないようですが、そのテイクがOKかどうかのジャッジは、ご自身でされなくて大丈夫だったのですか?
イヤモニ(※)で聴いているので、自分の歌は、歌っている最中にOKかどうかはわかっているので、大丈夫なんです。自分の中で「さっきのところのピッチどうかなぁ」と思うことがあっても、微妙な音程とかって、演奏の中に入っていって混じってしまうと、マスキングされて問題なくつながるんですよね。僕の方は、ピッチをしっかりとれるように、どちらかと言うと、イヤモニでは演奏と混じらないようにしているので、1曲演奏が終わるごとに、ミックスされた音を聴いているディレクターに「今のどう?」って目で聞いて、OKって出されれば、それでOKなんです。ディレクターも、僕がどこの箇所を聞いているのかもわかっていますからね。
(※筆者注)イヤーモニター、コンサートでのモニター用イヤフォーンのこと。
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