そもそも歌のイメージとは旋律との相互作用であり、言葉だけで成立するなら歌詞である必然性もなくなってゆく訳で。補い合って、響かせ合ってこそ音楽です。いくら体裁整えた言葉を並べても、キメどころに伸ばしやすい母音を置けなくては意味がない。創りあげるというよりも、メロディーが何を言っているのか掘り起こす作業としての作詞が理想です。
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Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。
宮川弾アンサンブルとしてのソロアルバムを作ったときにやむにやまれず。それまで作曲と編曲がメインだったので、正直そこまで作詞というものに着目していませんでした。勉強感覚から興味が湧いてきて、今では一番好きな作業かも。
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Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?
新旧の洋楽を勝手に和訳するのが好きなのですが、結局やればやるほど全く違う技術と歴史及び宗教的性格の上に成り立っているものだと感じます。もちろんそれは逆に日本語詞の独自性と、そこに築かれてきた文化を示すことにもなるのですが。日本語は本来、脚韻(うしろ韻)には不向きな性質を持っています。しかしながら最近は韻の踏み方を工夫したものが増え、ともすれば通り一遍な傾向が在った和ポップスに新たな語彙の波を産んでいることは大変興味深いです。
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Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?
作曲も同時に担当している場合はメロディーと一緒に七割がた出来ています。作詞だけご依頼いただいた場合はサビから作ります。サビでなにかを見せられなければ、ポップスとしては足らないものをお渡しすることになってしまう。なにかとは、その曲なりのフィロソフィーなのか、小さなメッセージなのか、或いは世界観のかけらなのか。嘘でもなんでもいいけど少しだけ特別な形の、なにか。デモをもらった直後にAメロからサビまでワンコーラス、するっと自然発生的に歌ってしまうこともたまにあります。ROUND TABLE feat. Danの「Lose Your Way」とかそうですね。
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Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。
デスクトップをいじってみたり新しいコーヒー豆にしてみたり、形から入りたくていろいろやってみるのです。でもボクの実力が振りまわす小手先の付け焼き刃では、歯がたたない。結局のところ泥酔した翌朝に床に落ちた殴り書きを見つけ、そのなかにちょこっとだけヒントがあることが多いです。
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Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?
同じアーティストさんで次のアルバム曲も担当させていただけるときは、わざと同じ言葉を混ぜたり、シンクロする部分を作るようにしています。
さくら学院さんのテニス部では「スコアボードにラブがある」の一年後、「予想以上のスマッシュ」という曲の落ちサビに[離れていても同じコートの中、愛が詰まってる]という歌詞を用意しました。歌詞を補足するような形でファンのみなさんと共有していきたいのかな。特にさくら学院さんは毎年何人かは卒業してしまうシステムなので、自分自身も感傷的になっていた跡がありますね。
また、花澤香菜さんの「スタッカート」収録アルバムの次作では「同心円上のディスタンス」でスタッカートという言葉を使って同じ人物を連想してもらい、最終的に「滞空時間」ではスタッカート「・」とテヌート「-」が歌詞に出揃ったところでモールス信号としてアレンジに組み込んでみました。およそ4年がかりのアイディアということになるのでしょうか。歌詞を書いている間に次の制作に呼んでいただけるかはわかっていない訳で、ある意味賭けの部分もあります。 -
Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?
普段の生活のなかにあるものに違う角度から光をあてた言葉。いやそれが難しいんですけど。
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Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。
幼いころから聴こえてくる音楽にドキドキさせられてチェックすると大抵、康珍化さんの作詞でした。堀ちえみさんの「稲妻パラダイス」にでてくる<消えない陽焼け 残してあげる>という詞は、まさに消えないものをボクの心に残しています。言葉だけ見るとサディスティックなのに、メロディーと合わさるとかわいい。歌詞に於けるこういう感覚って現代ではままあると思うのですけど、1984年のボクはテレビを凝視したまま動けませんでした。今にして思うと、堀ちえみさんの健康的なルックスもイメージとして加味したうえでの作詞なのでしょうね。もうずるいし、脱帽です。改めて読んでみて、がっつり影響を受けていることに自分でも驚いています。
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Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
または、使わないように意識している言葉はありますか?好きなものだけで埋めてしまわないようにしています。苦手な事柄をすべて排除してしまうと自分には綺麗に見えても、エゴで成立した世界があるだけ。少し無理をしてでも嫌いなものや、「理解できない」と思っているものをキーアイテムとして置くよう心掛けています。単純に嫌いなものじゃなくても「逆要素」といいますか、女の子の歌詞では可愛くない局面も見せるようにしているのも同じような類の策かもしれません。
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Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?
クライアントさんからの「修正依頼メール」を直視するメンタル。そして「ここだけは死守しよう」とポイントを見極めるバランス感覚。
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Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。
ともかく結局、切り取り方の問題なのです。感動させることだけが歌詞の目的ではないはず。それでも、聴いている人の心を揺らさないと意味がない。たぶんですけど、一見「歌詞っぽくない」部分にキラーフレーズやパンチラインが眠っているのではないでしょうか。
1971年6月12日生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。 1993年に6人組バンド、ラヴ・タンバリンズのメンバーとしてデビュー。 作曲と編曲、またはプロデューサーという立場で多くのプロジェクトに参加してきたが、2006年のソロアルバム発表をきっかけに、作詞にも力を入れている。
1st Alubm『見る前に飛べ!』
2018年12月19日発売
初回限定盤
VTZL-151 ¥4,320(税込)
通常盤
VTCL-60477 ¥3,240(税込)
M7.半音階のレジスタンス
(作詞・作曲・編曲)