例えばリアルな自分の生活や性格などを歌詞にするのも良いとは思うのですが、それだと僕の場合はたぶん2曲も書いたら終わってしまうと思う(笑)。ハッピーな自分と悲しい自分の2パターンくらいなので。それよりももっと先の“創造物”を生み出すことがクリエーターの役割と思っています。だから曲によってはストーリーの主人公の性格や悩みも異なってくるし、当然、気分だってまちまち。でもそれで良いんだと思っています。その中で聴いてくれた方がふと何かを感じてくれたり、1mmでも元気になれたり、救われたりしたら。それをいつもイメージしています。
また、ある意味、いつも自分を捨ててるというか。こんなことを書いたらこんな人だと思われてしまうかな? ということは考えないようにしています。映画監督が、「こんなストーリーの映画を作ったら、僕は人に嫌われるかな」なんて思っていたら、面白い映画は作れないですよね? そんな感じです。あと、映画音楽を作曲する学科に通っていたのもあるかもしれませんが、映像が見えるような歌詞、曲、というのは、自然にイメージすることが多いです。一番大切にしていることは、自分のために書かないこと。まだ見ぬ誰かの何かになればと祈ること。
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Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。
もともと作編曲家として楽曲提供などの活動をしていたので、作詞家としてはやってなかったんです。それが30歳を過ぎて3ピース・ヴォーカル・バンド「doa」として活動を始めたことで、そのタイミングで自分の曲に歌詞を書いて歌うようになったのがきっかけです。
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Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?
映画やドラマ、ニュースはもちろん、スーパーなどで見かけた人や知人から聞いた話などの日常からインスピレーションが湧いてくることが多いです。YouTubeを観ていてもあります。
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Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?
これは〇〇の歌、みたいに一言で言えるテーマを決めて取り掛かることが多いですね。タイトルを先に決めることもあります。なるべく1曲1テーマを心がけています。
そして、そのストーリーの主人公の年齢、性別、職業、家族構成、趣味、悩み、性格、、、などを妄想で考えてプロットを作っていきます。映画を作るような感じで。そしてその全部を書くんじゃなくて、その中のほんのワンシーンだけを3~4分の歌に抜き出す、みたいに作っています。 -
Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。
iPhoneのメモアプリ。Mac Book。環境はわりとどこでも。カフェや自然に行くのも好き。よく使うのは映画やCMなどの動画(無音で流してその画像のイメージから自分の言葉を出してみたり)。あとは自分で焙煎したコーヒー。
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Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?
doaのデビュー曲「火ノ鳥のように」は、最初「イカロスのように」というタイトルでしたが、何歳になっても誰でも不死鳥のように何かを始められるはず、という歌にしたくなり「火ノ鳥」に変更しました。結果、熱く燃え盛るイメージが、以降のdoaの音楽性に指針を持たせたと思っています。
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Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?
人が人に言えないようなことを言ってくれている歌詞。
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Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。
オフコース「Yes-No」。
サビの<君を抱いていいの 好きになってもいいの>という部分にやられました。当時、小学生だった徳永少年には衝撃的で、それまでアニメソングなどを楽しく聴いていただけの僕が、初めて歌詞・ラブソングというものに意識を向けた瞬間でした。心の中を歌ったラブソング。こんなふうに大人も迷っているんだ、悩んでいるんだ、答えのない中で生きているんだ、と感じて、自分自身も大人になることへの勇気をもらったような不思議な感覚でした。 -
Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
または、使わないように意識している言葉はありますか?自然と使うことが少ない言葉としては、「歌」、「メロディー」、「旋律」などの音楽に関する言葉ですかね。僕は作曲もアレンジもするので、なんとなくそういう言葉を使うとオムライスの上にさらに卵を乗せるような気がしてしまって、入れないことが多いです。
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Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?
ダメ人間の味方であって欲しいですね。完璧な人などどこにもいなくて、きっと誰もが音楽に何かしらの救いを求めていると思うので。
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Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。
僕がアドバイスなど出来るほどのクリエーターかどうかはわかりませんが、歌詞を書くなら、ただ自分のことを自分のために書くのではなく、誰かのため、誰かの救いになる良質なフィクションを創って欲しいです。僕もみなさんの作った物語を楽しみにしています。
楽曲ごとにメインヴォーカルが変わるというスタイルを持ち、3声のコーラスワークを繰り広げている3ピース・ヴォーカル・バンド、doa。West Coast Rockに影響を受け、インディーズ時代にはCSN&Y等のカバーを収録したアルバム『deadstock』をリリースし、2004年7月14日に1st Single『火ノ鳥のように』でメジャーデビュー。
徳永暁人(Vo&Ba)は、東京音楽大学在学中より作編曲家、ベーシストとして活動をスタート。以来、B'z・ZARD・倉木麻衣・大黒摩季等、数々のアーティストへ楽曲提供・編曲、ライブサポートに参加。また、ドラゴンボール・スラムダンク等のサウンドトラックまで幅広い領域の音楽を制作・発表。
doaではVocal&Bassのみならず、プログラミング、ピアノ、オルガン、ギター、マンドリン、パーカッション等、数多くのセクションを担当している。