革命のダルカ怯むな。進め。 悪魔に奪われたものを思い出せ。 奴らに【言葉】などは通じない。 悪魔を殺せ……俺たちの手で! 青年[ルドルフ]は途方に暮れた。 またひとり、同志を失ってしまったのだ。 「早く帰ろう……」 そこへ、路地裏で嗤う不気味な老人が現れる―― 「悪魔が憎いかい? 勝利が欲しいのかい?」 怪しげな首輪をルドルフに差し出した。 悪魔に変化[なりすま]し、王宮へ潜入[もぐ]れば、革命の勝機は必ず来る。 夜に溶け込め。 悪魔に復讐を――Feuer 世界に革命を――Feuer 同志に勝利という花を。 その剣が狙うのは、悪魔の王子 「聖義[せいぎ]は、ここにある!」 悪魔の胸に剣を突き立て、灰になるまで滅ぼすのだ! そう、悪魔[こいつ]に【言葉】などは通じない。 月が照らすは小さな姿。天使の素顔で眠っている。 あぁ、なんてこと……王子はまだ子供じゃあないか……。 その王子、マリスはひとりぼっちだった。 気に入られたルドルフは、世話役を任される。 あどけないマリスに 戸惑いながら、 ふたりの奇妙な“友情”がはじまる。 「親友[とも]と呼んだのは、お前が初めてだ」 何も知らないマリスは、この宿敵[ぼく]を喜んだ。 ……どちらが悪魔だ? あぁ、もう何もわからない。 必ず守ると誓いまでして。 偽りの【言葉】で。 愚民に粛清を――Feuer 欺瞞に断罪を――Feuer 醜行に手向けの花を。 側近の男には、すべて見抜かれていた。 「虚犬[こいぬ]が、ここにいる!」 悪魔たる、悍ましい紅い眼。 殺意と、血に飢えた皓[しろ]い牙。 そう、悪魔[わたし]は【言葉】なんて信じない。 対話[はなし]さえ聞いてくれぬままに、殺してしまえと糾弾する。 あぁ、いびつな友情だった。目が覚めたようだ。 戦友[とも]のもとへ還ったルドルフは【言葉】を失った。 そこで見たのは、変わり果てた同志たちの姿だった。 ……夜明けと共に、王宮への奇襲を。 同志に報いる剣を! 「ルドルフ、お前も来てくれるだろ……!」 姿形[すがた]の違う者たちが、信頼[しん]じあうのは難しい。 ルドルフは複雑な【言葉】を秘めたまま、次々と悪魔を散らしていく。 だが、どうしても頭から離れない。 この奥で待っていた……あの王子の笑顔が。 ルドルフは葛藤した。 共に夢みた戦友か。 守ると誓った親友か。 一体どちらが、本当の自分なのだろう。 悪魔の変化[かお]で出遇えた親友[とも]へ。それが、せめてもの償いなら。 ただ、ひとつでいい。お前だけは…… 「……逃げてくれ!」 同志の凱歌が迫る部屋で、「迎えに行く」と約束した。 また、偽りの【言葉】で君を救えるなら。 悪魔の変化[かお]に気付かぬ戦友[とも]が、灰になるまで滅ぼすという。 なら、それでいい。 悪魔はきっと、僕のことだった。 「我が名は“マリス”……悪魔の王子だ」 ひとり生き延びたマリスは、古びた洋館[やかた]に身を隠した。 「迎えに行く」と約束した、あの親友を待ち続けて……。 | DarkestoRy | 奏音69 | 奏音69 | | 怯むな。進め。 悪魔に奪われたものを思い出せ。 奴らに【言葉】などは通じない。 悪魔を殺せ……俺たちの手で! 青年[ルドルフ]は途方に暮れた。 またひとり、同志を失ってしまったのだ。 「早く帰ろう……」 そこへ、路地裏で嗤う不気味な老人が現れる―― 「悪魔が憎いかい? 勝利が欲しいのかい?」 怪しげな首輪をルドルフに差し出した。 悪魔に変化[なりすま]し、王宮へ潜入[もぐ]れば、革命の勝機は必ず来る。 夜に溶け込め。 悪魔に復讐を――Feuer 世界に革命を――Feuer 同志に勝利という花を。 その剣が狙うのは、悪魔の王子 「聖義[せいぎ]は、ここにある!」 悪魔の胸に剣を突き立て、灰になるまで滅ぼすのだ! そう、悪魔[こいつ]に【言葉】などは通じない。 月が照らすは小さな姿。天使の素顔で眠っている。 あぁ、なんてこと……王子はまだ子供じゃあないか……。 その王子、マリスはひとりぼっちだった。 気に入られたルドルフは、世話役を任される。 あどけないマリスに 戸惑いながら、 ふたりの奇妙な“友情”がはじまる。 「親友[とも]と呼んだのは、お前が初めてだ」 何も知らないマリスは、この宿敵[ぼく]を喜んだ。 ……どちらが悪魔だ? あぁ、もう何もわからない。 必ず守ると誓いまでして。 偽りの【言葉】で。 愚民に粛清を――Feuer 欺瞞に断罪を――Feuer 醜行に手向けの花を。 側近の男には、すべて見抜かれていた。 「虚犬[こいぬ]が、ここにいる!」 悪魔たる、悍ましい紅い眼。 殺意と、血に飢えた皓[しろ]い牙。 そう、悪魔[わたし]は【言葉】なんて信じない。 対話[はなし]さえ聞いてくれぬままに、殺してしまえと糾弾する。 あぁ、いびつな友情だった。目が覚めたようだ。 戦友[とも]のもとへ還ったルドルフは【言葉】を失った。 そこで見たのは、変わり果てた同志たちの姿だった。 ……夜明けと共に、王宮への奇襲を。 同志に報いる剣を! 「ルドルフ、お前も来てくれるだろ……!」 姿形[すがた]の違う者たちが、信頼[しん]じあうのは難しい。 ルドルフは複雑な【言葉】を秘めたまま、次々と悪魔を散らしていく。 だが、どうしても頭から離れない。 この奥で待っていた……あの王子の笑顔が。 ルドルフは葛藤した。 共に夢みた戦友か。 守ると誓った親友か。 一体どちらが、本当の自分なのだろう。 悪魔の変化[かお]で出遇えた親友[とも]へ。それが、せめてもの償いなら。 ただ、ひとつでいい。お前だけは…… 「……逃げてくれ!」 同志の凱歌が迫る部屋で、「迎えに行く」と約束した。 また、偽りの【言葉】で君を救えるなら。 悪魔の変化[かお]に気付かぬ戦友[とも]が、灰になるまで滅ぼすという。 なら、それでいい。 悪魔はきっと、僕のことだった。 「我が名は“マリス”……悪魔の王子だ」 ひとり生き延びたマリスは、古びた洋館[やかた]に身を隠した。 「迎えに行く」と約束した、あの親友を待ち続けて……。 |
声を上げても幾千の夜を 一人で過ごしたろう 君に出会うまでずっと 閉ざしてた扉 暖かい その笑顔 溶かしてく心 このままどうか側にいて 遠ざかって行く 影を追いかけもがいても 小さくなってゆくだけ どんなに声を上げても 木霊だけ響いて 言葉は 何故届かないの 叶えたい 願いは ただ一つだけなのに 全てを 失っても 構わない 行かないで 消えることのない過去 変えられぬ運命 でもこの巡り合わせ 意味があるはずさ 優しい 眼差しは 君も同じように 痛みを超えてきたからだろう 伝えきれない 想いは溢れてゆくだけ 行き場をなくしたまま どんなに声を上げても 木霊だけ響いて 言葉は 何故届かないの 他には何ひとつ 求めはしないから この命 失っても 構わない 消えないで 君を守るよ 時を超えて いつでも ここから またその笑顔 見れる日まで どんなに声を上げても 木霊だけ響いて 言葉は 何故届かないの 叶えたい 願いは ただ一つだけなのに 全てを 失っても 構わない 行かないで | DarkestoRy | HIROMI | Starfish・SIRIUS | | 幾千の夜を 一人で過ごしたろう 君に出会うまでずっと 閉ざしてた扉 暖かい その笑顔 溶かしてく心 このままどうか側にいて 遠ざかって行く 影を追いかけもがいても 小さくなってゆくだけ どんなに声を上げても 木霊だけ響いて 言葉は 何故届かないの 叶えたい 願いは ただ一つだけなのに 全てを 失っても 構わない 行かないで 消えることのない過去 変えられぬ運命 でもこの巡り合わせ 意味があるはずさ 優しい 眼差しは 君も同じように 痛みを超えてきたからだろう 伝えきれない 想いは溢れてゆくだけ 行き場をなくしたまま どんなに声を上げても 木霊だけ響いて 言葉は 何故届かないの 他には何ひとつ 求めはしないから この命 失っても 構わない 消えないで 君を守るよ 時を超えて いつでも ここから またその笑顔 見れる日まで どんなに声を上げても 木霊だけ響いて 言葉は 何故届かないの 叶えたい 願いは ただ一つだけなのに 全てを 失っても 構わない 行かないで |
ダーケストーリー銀の雲に散らばる虚空 ハルジオンの花の陽の淡彩 君だけが知る悲しみの夜といっしょに その物語はやがて 降り積もるように落ちてくる Sweet girl 何も知らない 真っ白な君を彩る 愛の物語を 特別に 教えてあげよう Baby, sweet girl 闇を知らない 純朴な君も素敵だけど ほら見せてあげよう “DarkestoRy”こんな風に Going on, Let's going' on! Ah Ah Ah 始まれば終われないぜ Ah Ah Ah あぁなんて素晴らしいことさ 愛を知るなんてそう…Oh no, Yeah ずっと Light down 暗闇のまま Light down (Baby, Don't stop me Let me go) どうしてもどうしても どうしたってそう いつまでも続けるのさ Anywhere you want, anywhere you want I'll take you baby 誰!? 何!? Don't stop me tonight! ずっと Light down Baby come let's go Sweet girl 誰も知らない 切なくて寂しくて 孤独色のストーリーを 描くのさ こんな風に Going on, Let's going' on! Ah Ah Ah まだまだいけるさどこまでも Ah Ah Ah 音の鳴る方へ飛び出して 愛を歌うなんてもう…Oh no, Yeah もっと Light down 脱ぎ捨てたなら Light down (Baby, Don't stop me Let me go) どうしてもどうしても どうしたってそう ほら勝手に動きだすのさ Anything you want, anything you want I'll give you baby 誰!? 何!? Don't stop me tonight! もっと Light down 孤愁の火がゆらゆら燃える 全てを包む沈黙の夜空を 片手に握るアルストロメリアと見よう 鈍く光る選択の扉は今、開かれる さぁ 輝けMoon, Melty night cruise 秘密のShowで教えようTruth 全て余すことなく 激しく燃えるストーリー Ready? One, two… Maybe I can't stop, Yeah ずっと Light down 暗闇のまま Light down (Baby, Don't stop me Let me go) どうしてもどうしても どうしたってそう いつまでも続けるのさ Oh Oh Light down 脱ぎ捨てたなら Light down (Baby, Don't stop me Let me go) Anywhere you want, anywhere you want I'll take you baby 邪魔はしないでよ 誰!? 何!? Don't stop me tonight! ずっと Light down | DarkestoRy | YouthK | Henrik Nordenback・YouthK | | 銀の雲に散らばる虚空 ハルジオンの花の陽の淡彩 君だけが知る悲しみの夜といっしょに その物語はやがて 降り積もるように落ちてくる Sweet girl 何も知らない 真っ白な君を彩る 愛の物語を 特別に 教えてあげよう Baby, sweet girl 闇を知らない 純朴な君も素敵だけど ほら見せてあげよう “DarkestoRy”こんな風に Going on, Let's going' on! Ah Ah Ah 始まれば終われないぜ Ah Ah Ah あぁなんて素晴らしいことさ 愛を知るなんてそう…Oh no, Yeah ずっと Light down 暗闇のまま Light down (Baby, Don't stop me Let me go) どうしてもどうしても どうしたってそう いつまでも続けるのさ Anywhere you want, anywhere you want I'll take you baby 誰!? 何!? Don't stop me tonight! ずっと Light down Baby come let's go Sweet girl 誰も知らない 切なくて寂しくて 孤独色のストーリーを 描くのさ こんな風に Going on, Let's going' on! Ah Ah Ah まだまだいけるさどこまでも Ah Ah Ah 音の鳴る方へ飛び出して 愛を歌うなんてもう…Oh no, Yeah もっと Light down 脱ぎ捨てたなら Light down (Baby, Don't stop me Let me go) どうしてもどうしても どうしたってそう ほら勝手に動きだすのさ Anything you want, anything you want I'll give you baby 誰!? 何!? Don't stop me tonight! もっと Light down 孤愁の火がゆらゆら燃える 全てを包む沈黙の夜空を 片手に握るアルストロメリアと見よう 鈍く光る選択の扉は今、開かれる さぁ 輝けMoon, Melty night cruise 秘密のShowで教えようTruth 全て余すことなく 激しく燃えるストーリー Ready? One, two… Maybe I can't stop, Yeah ずっと Light down 暗闇のまま Light down (Baby, Don't stop me Let me go) どうしてもどうしても どうしたってそう いつまでも続けるのさ Oh Oh Light down 脱ぎ捨てたなら Light down (Baby, Don't stop me Let me go) Anywhere you want, anywhere you want I'll take you baby 邪魔はしないでよ 誰!? 何!? Don't stop me tonight! ずっと Light down |
NotEQUAL男女の思考は永遠の漸近線(ぜんきんせん) まったく次元の違う世界だ 肌に触れて本能赤裸々より ちょっとのミステリー 曖昧でいいと 人ごみは目眩し 古きデモクラシー はぐらかして愛想笑いのFriday いつでも新鮮なのは君の空間(スペース)だけ 恋煩いの始まりは≠(ノットイコール) 火花が散った様だ すれ違いの摩擦 君が遠くに行くほど=(イコール) 全てが欲しくなる I'm crazy for you 手に取るように解ればいいけど 知ったかぶりの模倣(エピゴーネン)はNo No 女心 複雑なセキュリティー 突破するのは容易じゃないね ふと思い浮かんでた景色は霧の中 芳(かぐわ)しくて 麗(うるわ)しくて 君は魅力だらけ 振り向きざまの表情がとどめを刺してきた 恋は辛い 辛い つまり≠(ノットイコール) 不即不離(ふそくふり)の先に「幸あれ」と待っている 君が近くに来るほど=(イコール) 明日(あす)にでも斜線を排除します I'm crazy for you 酸素が今さっき どこかに消えていった あゝそうだ 君が目の前にいるからだった 0から1になった瞬間にできた線が ときめきをもたらすと同時に鬱陶(うっとう)しくなった 恋煩いはいつまで≠ 火花が散った様だ すれ違いの摩擦 君が遠くに行くほど= 全てが欲しくなる まだ辛い 辛い つまり≠ 不即不離の先に「幸あれ」と待っている 君が近くに来るほど= 正解のない答えは I want to kiss you | DarkestoRy | テルジヨシザワ | DjeDje | | 男女の思考は永遠の漸近線(ぜんきんせん) まったく次元の違う世界だ 肌に触れて本能赤裸々より ちょっとのミステリー 曖昧でいいと 人ごみは目眩し 古きデモクラシー はぐらかして愛想笑いのFriday いつでも新鮮なのは君の空間(スペース)だけ 恋煩いの始まりは≠(ノットイコール) 火花が散った様だ すれ違いの摩擦 君が遠くに行くほど=(イコール) 全てが欲しくなる I'm crazy for you 手に取るように解ればいいけど 知ったかぶりの模倣(エピゴーネン)はNo No 女心 複雑なセキュリティー 突破するのは容易じゃないね ふと思い浮かんでた景色は霧の中 芳(かぐわ)しくて 麗(うるわ)しくて 君は魅力だらけ 振り向きざまの表情がとどめを刺してきた 恋は辛い 辛い つまり≠(ノットイコール) 不即不離(ふそくふり)の先に「幸あれ」と待っている 君が近くに来るほど=(イコール) 明日(あす)にでも斜線を排除します I'm crazy for you 酸素が今さっき どこかに消えていった あゝそうだ 君が目の前にいるからだった 0から1になった瞬間にできた線が ときめきをもたらすと同時に鬱陶(うっとう)しくなった 恋煩いはいつまで≠ 火花が散った様だ すれ違いの摩擦 君が遠くに行くほど= 全てが欲しくなる まだ辛い 辛い つまり≠ 不即不離の先に「幸あれ」と待っている 君が近くに来るほど= 正解のない答えは I want to kiss you |
パンドラの牢獄歴史を変えるのはいつも、誰かが言ったひとつの【言葉】。 世界が夜になるはじまりは、この最悪の物語[ダーケストーリー]。 少年[サウロ]は途方に暮れた。 今日もあいつらに虐められてしまったのだ。 「早く帰りたい……」 サウロは泣きながら、誰もいない牢獄を磨き続けた――。 華麗なこの街[ダルカ]に、僕の居場所はどこにもない。 【言葉】を交わす友達もいない。 ひとり逃げ出そうにも、僕にはそんな勇気もない。 お願い、誰か僕を見つけてくれよ。 見知らぬ地下牢……呼び声がこだまする。 「そこにいるの……?」 誰なのか知りたい。その姿を見たい。 魅せられたサウロは、もう引き返せない。 麗しく澄んだ青い眼。穢れを知らぬ黎[くろ]い髪。 天使が僕に微笑みかける。 「私が、願いを叶えてあげる」 彼には初めてのこと。誰かと【言葉】を交わすのは。 世界を塗り潰すはじまりは、小さな恋でした。 その天使、イリスはひとりぼっちだった。 なぜこんな地下牢にいるのか、それはどうだっていい。 孤独なサウロにとって、イリスは唯一の理解者なのだ。 そして彼は、夜ごとその牢獄を訪れる。 僕のどんな願いも、不思議と叶えてくれる。 彼女は、きっと本当に天使なんだろう なのに、あいつら。 僕に悪魔が憑いてると蹴りつけた。 「違う……!」 僕にとってむしろ【言葉】を聞きもせず、 嘲笑うお前らが悪魔に見える……! 傷だらけのその心。涙に濡れるその両手が、 禁じられた牢獄を開けてしまう。 「ここから、ふたりで逃げ出そうよ」 彼には初めてのこと。愛で何も見えなくなるのは。 世界は僕にとっての牢獄だ。壊れてしまえばいい。 姿形[すがた]の違う者たちが、恋愛[あい]し合うのは難しい。 午前0時。約束の時間に、イリスは現れなかった。 異変に気付いたのは、その時。 街[ダルカ]から惨憺たる声が聞こえてくるのだ。 暗闇に震える心を押して、サウロは街の方角へ走った。 本当は分かっている。自分が一体何を解き放ってしまったのか。 それでもサウロは、あの天使を―― 【言葉】を、信じていたかった。 やっと会えた。ねぇ顔を見せて。天使のように微笑んで。 「……イリス?」 いや……その姿、もう彼女ではない。 あぁまさか。月が照らす、天使の素顔。 君は―― 「夜の悪魔[ヴァンヒール]……!」 それは、悍ましい紅い眼。あぁ、血に飢えた皓[しろ]い牙。 悪魔が僕に微笑みかける。 君だけを愛してたのに、イリス……! ……本当に愛しているわ、サウロ。だから世界を壊してあげるわ。 ただ、あなたには私の愛の手段[かたち]が、“悪意”に映[みえ]るだけ。 悪魔の女が愛を交配[かわ]す手段は、ただひとつ。 心から愛した男を、喰い殺す事である。 牢獄を開けて放たれたのは、まさしく“悪意[あい]”でした。 一夜にして、首都ダルカは堕ちた。 たったひとりの悪魔の【言葉】によって。 かの王国ミンストラは、これから50年余り続く悪魔の支配―― “黒い時代”を迎えるのである。 やがてイリスは、ひとりの男の子を産む。 愛する我が子に“悪意”という皮肉を込めて、 “マリス[Malice]”と名付けた。 | DarkestoRy | 奏音69 | 奏音69 | | 歴史を変えるのはいつも、誰かが言ったひとつの【言葉】。 世界が夜になるはじまりは、この最悪の物語[ダーケストーリー]。 少年[サウロ]は途方に暮れた。 今日もあいつらに虐められてしまったのだ。 「早く帰りたい……」 サウロは泣きながら、誰もいない牢獄を磨き続けた――。 華麗なこの街[ダルカ]に、僕の居場所はどこにもない。 【言葉】を交わす友達もいない。 ひとり逃げ出そうにも、僕にはそんな勇気もない。 お願い、誰か僕を見つけてくれよ。 見知らぬ地下牢……呼び声がこだまする。 「そこにいるの……?」 誰なのか知りたい。その姿を見たい。 魅せられたサウロは、もう引き返せない。 麗しく澄んだ青い眼。穢れを知らぬ黎[くろ]い髪。 天使が僕に微笑みかける。 「私が、願いを叶えてあげる」 彼には初めてのこと。誰かと【言葉】を交わすのは。 世界を塗り潰すはじまりは、小さな恋でした。 その天使、イリスはひとりぼっちだった。 なぜこんな地下牢にいるのか、それはどうだっていい。 孤独なサウロにとって、イリスは唯一の理解者なのだ。 そして彼は、夜ごとその牢獄を訪れる。 僕のどんな願いも、不思議と叶えてくれる。 彼女は、きっと本当に天使なんだろう なのに、あいつら。 僕に悪魔が憑いてると蹴りつけた。 「違う……!」 僕にとってむしろ【言葉】を聞きもせず、 嘲笑うお前らが悪魔に見える……! 傷だらけのその心。涙に濡れるその両手が、 禁じられた牢獄を開けてしまう。 「ここから、ふたりで逃げ出そうよ」 彼には初めてのこと。愛で何も見えなくなるのは。 世界は僕にとっての牢獄だ。壊れてしまえばいい。 姿形[すがた]の違う者たちが、恋愛[あい]し合うのは難しい。 午前0時。約束の時間に、イリスは現れなかった。 異変に気付いたのは、その時。 街[ダルカ]から惨憺たる声が聞こえてくるのだ。 暗闇に震える心を押して、サウロは街の方角へ走った。 本当は分かっている。自分が一体何を解き放ってしまったのか。 それでもサウロは、あの天使を―― 【言葉】を、信じていたかった。 やっと会えた。ねぇ顔を見せて。天使のように微笑んで。 「……イリス?」 いや……その姿、もう彼女ではない。 あぁまさか。月が照らす、天使の素顔。 君は―― 「夜の悪魔[ヴァンヒール]……!」 それは、悍ましい紅い眼。あぁ、血に飢えた皓[しろ]い牙。 悪魔が僕に微笑みかける。 君だけを愛してたのに、イリス……! ……本当に愛しているわ、サウロ。だから世界を壊してあげるわ。 ただ、あなたには私の愛の手段[かたち]が、“悪意”に映[みえ]るだけ。 悪魔の女が愛を交配[かわ]す手段は、ただひとつ。 心から愛した男を、喰い殺す事である。 牢獄を開けて放たれたのは、まさしく“悪意[あい]”でした。 一夜にして、首都ダルカは堕ちた。 たったひとりの悪魔の【言葉】によって。 かの王国ミンストラは、これから50年余り続く悪魔の支配―― “黒い時代”を迎えるのである。 やがてイリスは、ひとりの男の子を産む。 愛する我が子に“悪意”という皮肉を込めて、 “マリス[Malice]”と名付けた。 |
マリスの晩餐森の奥には、夜の悪魔が住むんだ。 奴らに【言葉】などは通じない。 太陽[ひ]が沈む前には、帰っておいで。 少女[ミラ]は途方に暮れた。 帰り道を見失ってしまったのだ。 「早く帰らなきゃ……」 ミラは森の奥へと歩きだした――。 夜の悪魔なんて、いるはずないわ。 誰しも【言葉】で理解[わか]りあえるもの。 やがて木の陰で、ミラは見つけた。 古びた洋館[やかた]に、蠢く何かを。 此処には、ねぇ、誰かがいるの? 蝋燭の燈[ひ]が、不気味に照らした。 「……貴方はだあれ?」 悍ましい紅い眼。血に飢えた皓[しろ]い牙。 あぁ、残酷で数奇なこの出遇い。 救けてと嘆悔[なげ]いて、お願いと喚鳴[わめ]いても、 そうか……悪魔には【言葉】は通じない。 その悪魔、マリスは何かに気付いて立ち止まった。 ミラは逃げることなく、彼に優しく話しかけた。 罪は犯した人だけのもの。 血統[うまれ]は関係ないわ。 あなたは、あなた。 それから、ふたりは探し始めた。 悪魔と少女が、理解[わか]りあう道を。 ある夜、ふと、誰かの靴音[あしおと]。 招かれざる殺意を握って。 「……彼女を還せ!」 怯えた黒い耳。震える手からは凶弾。 あぁ、姿形[すがた]ならミラと似ているのに……。 対話[はなし]をと説いた。聞いてくれと叫んだ。 なぜ……お前には【言葉】が通じない? 「悪魔を殺せ!」 姿形[すがた]の違う者たちが、理解[わか]りあうのは難しい。 もはや彼らに【言葉】は通じない。 一体どちらが、本物の悪魔なのだろう。 朝焼けに傷む身体を押して、マリスは村の方角へ走った。 この姿形[すがた]を見られたら、きっと殺されるだろう。 それでもマリスは、この少女を―― 【言葉】を、信じてみたかった。 悪魔[おれ]が恐いだろう。信じてはくれないだろう。 ただ、ひとつでいい。願いを聞いてくれないか! 虚ろな紅い眼。灰と化す皓[しろ]い牙。 あぁ、夜が明ける。 笑顔はもう、見れないな……。 侵略[おか]した歴史は、決して戻らない。 でもミラ、言うとおりだ。 姿形[すがた]は違えど、悪魔の子だとしても、 【言葉】で理解[わか]りあった。 ミラは正しかったんだ。 マリスは満足[みた]されたように笑って、 静かに……朝焼けに散った。 | DarkestoRy | 奏音69 | 奏音69 | | 森の奥には、夜の悪魔が住むんだ。 奴らに【言葉】などは通じない。 太陽[ひ]が沈む前には、帰っておいで。 少女[ミラ]は途方に暮れた。 帰り道を見失ってしまったのだ。 「早く帰らなきゃ……」 ミラは森の奥へと歩きだした――。 夜の悪魔なんて、いるはずないわ。 誰しも【言葉】で理解[わか]りあえるもの。 やがて木の陰で、ミラは見つけた。 古びた洋館[やかた]に、蠢く何かを。 此処には、ねぇ、誰かがいるの? 蝋燭の燈[ひ]が、不気味に照らした。 「……貴方はだあれ?」 悍ましい紅い眼。血に飢えた皓[しろ]い牙。 あぁ、残酷で数奇なこの出遇い。 救けてと嘆悔[なげ]いて、お願いと喚鳴[わめ]いても、 そうか……悪魔には【言葉】は通じない。 その悪魔、マリスは何かに気付いて立ち止まった。 ミラは逃げることなく、彼に優しく話しかけた。 罪は犯した人だけのもの。 血統[うまれ]は関係ないわ。 あなたは、あなた。 それから、ふたりは探し始めた。 悪魔と少女が、理解[わか]りあう道を。 ある夜、ふと、誰かの靴音[あしおと]。 招かれざる殺意を握って。 「……彼女を還せ!」 怯えた黒い耳。震える手からは凶弾。 あぁ、姿形[すがた]ならミラと似ているのに……。 対話[はなし]をと説いた。聞いてくれと叫んだ。 なぜ……お前には【言葉】が通じない? 「悪魔を殺せ!」 姿形[すがた]の違う者たちが、理解[わか]りあうのは難しい。 もはや彼らに【言葉】は通じない。 一体どちらが、本物の悪魔なのだろう。 朝焼けに傷む身体を押して、マリスは村の方角へ走った。 この姿形[すがた]を見られたら、きっと殺されるだろう。 それでもマリスは、この少女を―― 【言葉】を、信じてみたかった。 悪魔[おれ]が恐いだろう。信じてはくれないだろう。 ただ、ひとつでいい。願いを聞いてくれないか! 虚ろな紅い眼。灰と化す皓[しろ]い牙。 あぁ、夜が明ける。 笑顔はもう、見れないな……。 侵略[おか]した歴史は、決して戻らない。 でもミラ、言うとおりだ。 姿形[すがた]は違えど、悪魔の子だとしても、 【言葉】で理解[わか]りあった。 ミラは正しかったんだ。 マリスは満足[みた]されたように笑って、 静かに……朝焼けに散った。 |