素顔になれた気がした
ただ あなたには自分を愛してほしいだけなのですそう 掛け替えのない日々は掛け違いだらけだ だからいいのか
もう 買えないモノの方が欲しい歳頃になっちまったな
覚えた数だけ分からないことだらけ 頭の中は騒がしく踊る
悲しいだけが さよならじゃないもっと歌詞を見る
―― 今さらながら「マカロニえんぴつ」というバンド名、キャッチーで良いですよね。意味も「マカロニの空洞のように“無い存在”を、えんぴつで線を書くように“在るもの”にしていきたい」としっかり考えられていて。ちなみに結成当初、他にも候補はあったのでしょうか。
みんなで紙に書いて出し合ったんですよね。でも最初、このバンドを本気でやろうという気概が俺以外あんまりなくて。ギターのよっちゃん(田辺由明)が「はっとりバンド」ってつけようとしたときは、適当すぎて頭に来ました(笑)。まぁ俺は「いろはかるた」という名前を候補に出しまして、どの道スベっていたんですけど…。結局、当時のドラムのサティが書いた「マカロニえんぴつ」を採用したんです。そして辞めていったという…(笑)。
―― もしかしたら「いろはかるた」という候補にも通じているかもしれませんが、はっとりさんは「言葉」がお好きですよね。
「言葉」というより「言葉遊び」が好きですね。なるべく多くの意味をかけたいので、曲作りでもとくにタイトルは結構考えます。「この言葉にしたら、この意味もこの意味も持たせることができるな」とか。だからこそ結構タイトルをつけるのが苦手なんですよ。その曲の顔になっちゃうじゃないですか。担う責任が大きい。曲も歌詞も納得できているのに、タイトルがスベってしまったらもったいないなって。だからスタッフから意見をもらったりもしながら、考えますね。
―― はっとりさんのTwitterでも、たまに「言葉」の意味を考えさせられるようなツイートをお見掛けします。そういったことを日常のなかで考えることは多いですか?
そうですね。原体験が何なのかわからないですけど。本の虫だったわけでもないし。なんか…僕はおばあちゃんっ子だったんですけど、おばあちゃんにはいつも「あまのじゃく」って言われていました。だから「言葉」が好きというより、知識がないからこそ「言葉で言い負かしてやりたい」とか「みんなが言っていることと反対のことを言ってやりたい」みたいなところがあった気がします。だからひとと反対のことばっかり言って、おばあちゃんを困らせていました。そういう部分が今にも通じているんじゃないですかね。
―― 子供のころから「言葉では負けない」というような気持ちが強かったんですね。
はい、授業では国語がいちばん好きでしたし。あと、おもしろい組み合わせの言葉に出会うと何回も見ちゃうんですよ。たとえば広告のコピーとか。「どういう経緯で思いついたんだろう」って。映画も吹き替えより字幕が好きです。展開が早い洋画の場合、ただ直訳した文章だと忙しなく切り替わって読みづらいじゃないですか。だからある程度は意訳がされていて、その言い回しが翻訳したひとの個性になっているんですよね。短い文で伝える字幕的魅力に惹かれます。そういう言葉のコーディネートが上手いひとに憧れるし、僕自身も興味がありますね。
―― 一文で魅せるという部分は歌詞も似ていますね。歌詞はいつ頃から書き始めたのでしょうか。
高校時代からですかね。とても歌詞と言えるようなものではありませんでしたけど…。
―― いちばん最初に書いた歌詞って覚えていますか?
ミゲルというバンドで「真実の日」という曲を…。うわー、これ記事になるんですか(笑)。サビは<見つけろ真実の日 手にしろ真実の日 信じろ真実の日>っていう。歌いだしがまたヤバいんですよ。<第三の寂れた声に 魂を奪われ>みたいな。もともとハードロックが好きだったので、<ベイビー どこに行っちまったんだ>というようなニュアンスのフレーズが僕にとっての歌詞になっていて。格好つけ方の方向性を誤っていましたね。あと「Time for our show」という曲もありましたね。俺たちのショーの時間だっていう…。サビが<ついに来た 奴ら見返す日 Let’s do it, It’s time for our show>という歌詞なんですよ。高2ですよ? 誰を見返すんだって(笑)。
―― 今とまったくテイストが違いますね(笑)。
全然違いますね!どこで変換していったんだろうな。やっぱり…女性を知ってからですかね(笑)。いや、でもそれは本当のことなんですよ。高校で大失恋をしてから大きく歌詞が変わりました。その失恋をした高校の終わりに、マカロニえんぴつのいちばん最初にデモにも入っている「日常と君と僕の歌」という曲を作ったんです。失恋をしたことで、フッと視点が等身大に下がった気がします。自分が経験したことを歌にするようになった。「Time for our show」のときはそんな痛みを知らなかったし、自分を無敵のロックスターだと思っていましたから。だから失恋をして、自分はちっぽけだと思い知ることができて良かったですよ。
―― はっとりさんが歌詞面で影響を受けたアーティストというと?
まずRADWIMPSには本当に救われていましたね。世間的には「前前前世」がいちばんのブレイクだと思いますけど、すでに僕らの学生時代には売れていて。だから「me me she」とか「05410-(ん)」とか「25コ目の染色体」とか、好きだったな。あそこまで極端に失恋が描かれることってなかなかない。その歌詞の特徴を自分に落とし込んだわけではないんですけど、歌詞の可能性というか、心を救ってくれる絶大なパワーを思い知ったという部分でかなり影響を受けましたね。
銀杏BOYZの「人間」とかもそう。破壊力が高い。何回聴いても、あれを聴くと14、15歳の自分に戻れますもん。あとエレファントカシマシ。宮本浩次さんの負けから始まる男の歌は、もう最高です。とくに「さらば青春」という歌がすごく好きです。
バンドとしての影響は、ユニコーンが大きいんですけど、意外と歌詞の面ではないかもしれないですね。独特すぎて、逆に触れられないというか。ユニコーンのなかでも奥田民生さんより、阿部さんと川西さんの書く歌詞がどちらかというと自分に近いかもしれないです。ロマンチストな感じで。ただ、韻を踏むという面では、奥田民生さんとかトータス松本さんのダジャレ魂からめちゃめちゃ影響を受けていますね。
クリープハイプ・尾崎世界観さんの歌詞も、ユニコーンと同じく唯一無二すぎて触れられない。でも一時期、尾崎さん的スタイルを真似していた時期があるんですよ。やっぱり僕には無理でした。だからクリープハイプは聴きすぎないようにしていて(笑)。本当に真似したくなるし、影響を受けちゃうから。圧倒的ですよねぇ…。
―― マカロニえんぴつさんの歌詞もすごく人気が高いです。歌ネットではこれまで5曲がアクセス数10万回を突破した歴代人気曲に認定されています。ご自身ではどんなところが支持の理由だと思いますか?
ちゃんと歌詞を読みながら聴きたい歌になっているってことですかね。それはすごく嬉しいですね。歌っていて口が気持ち良いのもあるのかな。韻を踏んでいるという部分で。サビではあんまり無理な口の動きをさせないように気をつけているから。僕はもともと洋楽の音の響きが好きで、空耳的な作り方をしていたんです。まずデモ音源になんちゃって英語を吹き込むんですけど、その音にのちに書く歌詞が支配されちゃうんですよ。だから自然と滑らかな歌詞になるんですよね。とくに「ミスター・ブルースカイ」とか『CHOSYOKU』ぐらいまではその作り方だったので。でも未だにやっぱり歌いやすさは意識していますね。
―― 今作でも「メレンゲ」のAメロや、「裸の旅人」の<火を見つめて>と<非を認め>の部分など、韻の気持ち良さ、おもしろさを感じました。
<スロウ>と<スノウ>とかね。いつもわりとAメロで遊ぶことが多いんですよ。なんか楽しさがでますよね。あといわゆるHIP HOP的な韻の踏み方よりも、字で見たときの韻の踏み方のほうを大事にするかもしれないです。僕は歌がなくても、歌詞を字で読むだけで良いものを作りたいというのをひとつのテーマにしているので。そこもマカロニえんぴつの歌詞の特徴になっている気がしますね。