ただ一緒に居たいからどれだけ 寂しくて どれだけ 君を想い
孤独で 時を繋ぎ 今また 重ねた 運命を離しはしないもっと歌詞を見る
―― 美嘉さんが最初に音楽に心を動かされた記憶というと、何が浮かびますか?
多分、習い事ですね。日本舞踊。だから子どもの頃、常日頃、演歌を聴いていたんです。日舞では踊りで歌詞を表現しなきゃいけないでしょう? 小さいながらに演歌の歌詞を理解して、その世界を表現しようとしていたから、その影響は大きいと思います。歌うことも好きでしたね。
―― ポエムや歌詞のようなものは書いていましたか?
中学生ぐらいからストレス発散程度に、日記のようなポエムのようなものを。
―― どんなことを書いていたのでしょうか。
…まったく覚えてない(笑)。でも誰にも見せない気持ちです。もともと読むこと・書くことは好きだったんですけど、話すのが得意じゃなくて。それを音楽にすれば伝えることができるから、歌詞は私にとって大切なものなんですよね。
―― 美嘉さんには2022年に『言葉の達人』にもご登場いただきました。デビューシングル「STARS」のカップリング曲「TEARS(粉雪が舞うように...)」の朗読部分から歌詞を書く練習をなさったんですよね。
当時、とにかくいっぱい書いていたんですよ。メロディーに乗せる・乗せないは関係なく、「詩みたいなものをたくさん書き溜めておきなさい」と言ってもらったので。そして溜まっていた言葉たちをすべて渡して、そこから「TEARS(粉雪が舞うように...)」にフレーズを使っていただいたんですよね。
―― この曲は秋元康さんとの共作ですが、作詞についてアドバイスなどはありましたか?
秋元康さんは、いい意味でそういう方じゃないんですよ。「こうやったらいいよ」なんて言わなくて、むしろ逆。あんなにすごい方が、あんなに若かった私に、「どうやったらこんな歌詞を思いついたの?」とか聞いてくれて。最初にそういう方と出会えたのは幸せでしたし、感動しましたね。
―― 歌詞に中島美嘉らしさ、自身の軸みたいなものが確立されてきたと実感されたタイミングというと?
いいえ、ないんです。デビューから今まで20年以上、「歌詞を書いていいよ」と言われたときしか書いてないんですね。私から、「書かせてください」と言ったことがなかった。そして、その時々の曲に合う歌詞を形にするのが好きだし、喜怒哀楽いろいろ書ける自分でありたいので、「中島美嘉と言えばこう」って“らしさ”がないんですよ。
―― デビュー当時も、「歌詞をすべて自分で書きたい」とは思っていませんでしたか?
何かを書くこともそうだし、自分提案で何かをするという考えがまったくありませんでした。まず「何かアイデアを出してみて」なんて時間がなかった。もう「これをやって」を次々ともらっていた時期だったから、とにかくやることで毎日が埋まっていて。それをどうやったらこなせるかが精一杯で、当時は考えられませんでした。
―― 今はいかがですか?
その感覚みたいなものが少し残ってはいます。だから「何かやりたいことある?」って言われたら、一瞬は戸惑うかなぁ。でもここ1~2年でやっと、「これはやったほうがいい気がする」「やりたい」とかをはっきり言うようになりました。活動を重ねて前例が増えてきた分、昔より遠回りしなくてもよくなるじゃないですか。その分、時間と余裕ができたんでしょうね。
ただ、ずっと「こういうアーティストになりたい」みたいなのはなくて。私自身がいちばん、まわりからどう見られているかわからないし、自分の説明ができないんです(笑)。
―― では、あえてご自身の歌声を改めて客観的に言語化するなら、どんな特徴があると思いますか?
歌詞と同じく歌声にも“らしさ”がない気がします。声質は特徴的だとよく言っていただけるのでありがたいんですけど…。曲によって声量も、出す場所も、使う場所も違って。同じ曲であっても同じようには歌わないようにしているし。
なんというか…歌のなかに入り込んで、その主人公になるのが好きなんでしょうね。書いていくうち、歌っていくうちに、そのひとになれることが好き。それがやっと自分でわかってきた特徴と言えるかもしれません。
―― それもここ数年で徐々に見えてきたことでしょうか。
そうですね。ずっと正解を求める癖があったんですよ。多分、スタッフとか大多数の方が言ってくれることをかなえたかった。だから自分の音域じゃなくても、「この曲をこうやって歌ってほしい」と言われたら、やるようにしていて。そうしたら結果的に、出るようになったんです。それはもう私としては「引き出してくれてありがとう!」ですよね(笑)。もし私が自分の歌声を把握しすぎていて、「ここは歌えません」って言っていたら、狭いままだったんだろうなと思います。それは長く続けてきたから、見えてきたことですね。
―― とにかく目の前のことひとつひとつに、実直に応えながら活動されてきたんですね。ちなみに最初から、20年以上も歌い続けていく未来というのは見えていましたか?
いや、ずーっと自分から切ろう、逃げようとしてきましたよ。やっていることが嫌いなわけじゃないんです。ビジュアル的なものも派手だろうが何だろうが好き。でも、もともと目立つのが苦手で、目立ちたくてやっているわけじゃない。好きだからやっているでしょう? その葛藤が大きくて。私としては、「好きだからこうなんです」としか言いようがないのに、「他者からのジャッジが少し疲れたな。いつ逃げようかなぁ…」って。
―― とくにどんなときにしんどさを感じるのでしょうか。
うーん、そもそも合わないんですよ。音楽をやっているときには、絶対にここだ!って思うんですけどね。でも普通に生活しているなかで、「中島美嘉さんですよね?」って言われることとかにも、まだ違和感があるんです。
―― 好きなことと、ご自身が居心地いい生活が一致しないのかもしれないですね。
そうなんですよ。真逆ですね。ステージで歌っているときの自分は大好き。でも日常では目立ちたくない。だからずーっと葛藤です(笑)。