消えるとわかっていても、諦めなければそのひとはそこにいる。

―― アニメ『魔道祖師 完結編』OPテーマ曲の「Beyond」というタイトルは、どのようにたどり着いた言葉でしょうか。

私たちのチーム全員、スタッフもディレクターもプロデューサーもタイトルつけるのが大好きなんですよ。この曲もみんなで競争するみたいに考えました。物語に「時を越える」というテーマがひとつあったので、それにまつわるワードとか。でもギリギリまでしっくりくる言葉が浮かばなくて。

で、「今日中に決めないとまずい」というタイミングで、たまたま私が「越える」という言葉だけを調べていて。そのときにこの英語の意味に気づいて、「Beyondは?」って言ったら、全員が「それだ!」って。

―― タイトル決めはチーム戦なんですね。

そう、曲にせよアルバムタイトルにせよ。私が「これがいい」と言ったとしても、他にいいアイデアがあったら、じゃんけんで決めるぐらいみんな本気です(笑)。今回は「Beyond」がピタッとハマりましたけど、他の方が出してくれた案がカッコよくて、「いただきます!」ってときもいっぱいあります。そうやって楽しんで考えてくれるのが、すごく嬉しいんですよね。

―― 美嘉さんは作詞をなさるとき、まず「必ず入れたいワード」を入れて書いていくことが多いそうですね。「Beyond」の場合はいかがでしたか?

今回はいきなり歌い出しました。これは、Carlos K.さんの曲のおかげだと思います。トラックを聴いたとき、すぐに最初の<それは確かにここにあったもの ここは確かに君と出逢った場所 愛と言うには簡単すぎて 言葉失う>という4行が出てきたんですよ。

―― <愛と言うには簡単すぎて 言葉失う>というワンフレーズ、刺さります。ここは<言葉失う>くらいの想いだからこそ<それ>や<ここ>という代名詞で表現しているのでしょうか。

計算したわけではなく、自然に出てきたんですよね。私のなかで明確に「これがいい」という感覚があったと思います。この<それ>や<ここ>を具体的な何かにしたくなかった。あとやっぱりこういう曖昧な言葉って、それぞれが想像しやすいじゃないですか。だからよく使うんです。多分、私はみんなに想像してもらうことが好きなんでしょうね。

―― 美嘉さんの声にエコーがかかる<愛のない 日は遠のき 愛の光 また蘇り 愛を持つ 僕に戻る 時よ動け 今>の部分は、時計のカチカチ音がだんだん<2人の鼓動>にも聴こえてきました。

ああ、そこまでわかってくださるの嬉しい。このカチカチ音によって伝わり方が大きく変わりますよね。あと実はここのメロディーとフレーズ、最初はなかったんですよ。長い間奏だったんです。でも私が、「ここで何かボソボソ言っているほうがいい気がする」って勝手に書いてみたところだったので、入れてよかった。

―― また、ひとは大切な相手にこそ「そばにいてほしい」とか「気づいてほしい」とか求めてしまいがちじゃないですか。でも「Beyond」の<僕>は愛を持ちながらも、自分の意志や決意のみで在るのが強いです。

本当ですね…。自分でも今気づきました。なんでだろう。なんか、私が『魔道祖師』の主人公になりきって書いているとき、<君>を待っている側に意識がいって。ひとりでどういう気持ちでいて、何を思っていたのか考えたとき、「多分、心でそのひとと一緒にいたんじゃないかな」って感じたんですよね。一緒にいたから、また会えると信じているし、確信があるんじゃないかなって。じゃないと戦えないですよね。

―― なるほど。ゆるぎない信頼と確信があるから、相手に何かを求める必要がないんですね。

そうそう。あと、2番のAメロで<燃えるような目に戸惑う僕の 進めない手を導いてくれた 汗ばむ君から感じ取ったもの 同じ恐れだった>と書いたように、いつも守ってくれて楽しく一緒にいたひとが、実は同じようにすごく怖かったんだって気づいたとき、より絆が深くなる。今は自分も相手を守ってあげたいと思う。それを『魔道祖師 完結編』のジャケットから感じて、歌詞で表現できたらいいなと思ったんですよね。

―― 「Beyond」はアニメ『魔道祖師』ファンの方からの賞賛の声もとても強いなと感じました。みなさん、「美嘉さんはどこまで物語の展開をわかって歌詞を書いたんだろう」と驚かれていて。

そういう声をいただけてすごく嬉しい。実は私、作品のタイアップ楽曲の場合、脚本を細かく読み込むというより、ビジュアルやあらすじからいちばん大事なキーワードだけを拾うんです。そして歌のなかで主人公たちを動かす。不思議とそういう方法のほうが、作品にピタッとハマっていると言っていただけることが多いんですよね。

逆に原作を何度も深く読み過ぎてしまうと、すごく引っ張られてしまう。すると、『魔道祖師』の主人公である魏無羨と藍忘機の物語そのものをなぞって書いてしまうと思うんです。

―― 美嘉さんはご自身が発する言葉に対しても、すごく正直で誠実ですね。

やっぱりいいところを抜いちゃうんですよね。「あのシーンが、このフレーズに繋がっている気がして…」とか。それって嘘をつくことになるというか。10代の頃からチームのみんなも思っているだろうけど、めんどうなくらい真面目なところがあるんですよ(笑)。

歌詞のクレジットなんかも、「これは共作じゃなくてもいいんじゃない?」と何度言われたことか。だけど私は、誰かの言葉をひとつでも使っていたら、「共作にして」と言うんですよ。絶対に。いろんなことに対して、「まあいいか」とはなれない性格ではありますね。

―― 美嘉さんが「Beyond」でとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。

<消えていく君を 諦めないよ>かな。これは“君”でも“夢”でも何でもそうで。消えるとわかっていても、諦めなければそのひとはそこにいるし、それはそこにあるんですよ。自分の思い次第で、そばにいてもらうことも、消すこともできるでしょう? 不思議なことなんですけど。

―― 「Beyond」を含め、美嘉さんはデビュー時から恋というより、愛を歌われてきた印象があります。ずーっと「愛」について歌い続けてきたなかで、「愛」の概念は変わってきましたか?

「愛」=「恋愛」じゃなくなってきたところが大きいです。若いときは自分が忙しい分、一緒にいたくてそれこそ、「そばにいてほしい」とか「ここに来てほしい」とかよく言っていた気がします。でも今はないですね。

それは「愛」が「家族愛」みたいなものに変わったから。そばにいてくれるひとたち、誰に対しても。ただそばにいてくれることを受け入れる。それが「愛」に変わってきた気がします。もしかしたらそういう自分の変化も「Beyond」の歌詞に表れているのかもしれないですね。

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