―― 年齢や経験を重ねるにつれ、歌詞で書きたいことは変化してきたところがありますか?
すごく内省的になってきた気がします。30歳を過ぎて、実家から上京して暮らすようになった生活面の変化だったり。あとは『おはスタ』や関西の子ども番組で、子どもたちと一緒に何かを作り上げるような機会が増えていたり。そういう影響もあって、自分の活動を通して、誰かに何かを伝えたい気持ちも出てきました。歌詞を書くとき「老婆心ながら…」みたいな気持ちが湧くようになったんですよね。
―― 今回のシングル「サブマリン」もまさに、岡崎さんが伝えたいメッセージがナチュラルに込められているような楽曲ですね。
そうなんですよ。一見、すごく自分自身のことを歌っているじゃないですか。<夏フェスに子供連れてくるタイプのミュージシャンになりたい>とか<自宅にスタジオ持ってるレベルのミュージシャンになりたい>とか。でも歌詞が完成してから改めて聴いてみたとき、無意識に誰かへのメッセージを発信していたなって。それは書いている途中には気づかなかったんですけど…。
―― 「頑張れ」とは言っていませんが、どこか応援歌というか、人生賛歌のような。
はい、自分のなかにある最大限の素敵な言葉で歌詞を書けた自負がありますね。20代の頃やったら<今夜きっと誰かが誰かのサンシャイン>なんて、ここまで慈愛に満ちた歌詞は書けなかったと思います。常にギラギラ尖っていたので。30代で目じりにシワが寄るようになってきた自分ならではの曲が「サブマリン」ですね。
―― これはどのように生まれた曲だったのでしょうか。
レゲエっぽくて、なかでもラヴァーズみたいなハッピーな曲を書いてみたいと思ったとき、先に「サブマリン」というワードが出てきて。そのワードが綺麗で美しいなと、そこから上にも下にも横にも肉づけしていったような作り方でしたね。音楽と一緒に広い海へダイブしていくような感覚。周りに何もなくて向き合えるのは自分だけ。そういう自分ならではの幸せの形をサビに描いていきました。
自分に寄り添ってくれる文化的なものが音楽じゃなくても、漫画でも、散歩でも、釣りでも、何でも、自分の好きなものを感じているときって心が穏やかになるじゃないですか。かつ、いい意味で鋭い感覚になったりもする。だから僕は<ずっとずっと音楽と⼀緒にサブマリン>って歌っているけれど、そこの<音楽>の部分はみなさんが好きに置き換えて聴いてほしいなと思いますね。
―― 1番Bメロの<いつかそんな幸せを幸せで買うのかな>というフレーズも素敵です。今も幸せであることが前提であり、「~になりたい」と思っている時間すらも幸せであるように感じました。
本当に何もマイナスな気持ちがない状態でこの歌詞を書けたんだなと思いますね。僕にとっては音楽自体が幸せ。こんなに長い間、大手のレーベルで音楽をやらせてもらえていることも幸せ。それでお給料がいただけているなんてもっと幸せ。さらに<代々木上原に400坪>とか買えた日にはとんでもなく幸せじゃないですか。そんなデカい必要ないけど。そうやって<幸せで幸せを買う>人生になれば最高だなぁと思っているんですよね。
―― また、「サブマリン」の“人生ゲーム風”ジャケット写真もいいですね。
ありがとうございます。マス目自体は僕が考えて、絵はスタッフさんが書いてくれたんです。最後のゴールは「年老いてたくさんのことを考える 良い人生とはどんなものだろうか」としたんですけど、まさに今そういうマインドなんですよね。リアルタイムで生きていくなか、自分にとって何が心地よくて何がストレスじゃないかを考えていくことって、自分を守ってあげること、愛してあげることにもなると思うので。そういうところを精神的にも肉体的にも考えてあげられるひとになりたいなと思っています。
―― では、今回「サブマリン」のなかでとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。
重複してしまうんですけど、<今夜きっと誰かが誰かのサンシャイン>はとくに素敵なフレーズが書けたなと思います。僕は『ザ・シンプソンズ』というアニメが好きで。そのシンプソンズという家族は3兄弟で、上の子がバート、真ん中の子がリサ、末っ子がマギーという名前なんですね。で、少年バートが素行不良でエレメンタリースクールをやめて、ミリタリースクールに編入するという回があるんですよ。
そして、リサはすごく優秀な子なんですけど、ミリタリースクールの校風に感化されて、同じくそこに入っていく。その学校では女の子がリサひとりだけで、男子に混ざりながら軍隊の苦しい訓練を受けて、ちょっとホームシックになってしまうんです。そんなとき、お母さんからテープが贈られてくる。そのテープはお母さんがリサに向けて「You are My Sunshine」という曲を歌ったもので、それを聴いてリサは元気を取り戻すんですね。
「サブマリン」の<今夜きっと誰かが誰かのサンシャイン>は、そのシーンから影響を受けて書きました。愛するひととか、大切なひとに向けて、「あなたは私のサンシャインだ」って言える、英語圏的な歌詞の詰め方が美しいなと思って。
―― サビは<サンシャイン>、<サブマリン>、<タンバリン>と続く韻も気持ちいいですね。
レゲエのリズムにも合っていて、自分でもなかなかいいのが書けたなと思っています。<今夜きっと誰かが誰かの>の跳ねたリズムはシャッフルっぽくて、やっぱりレゲエのルーツなんですけど、どこか日本舞踊的な“ちゃんかちゃんかちゃんかちゃんか♪”にも近くて。日本のいいところもミックスした“ジャパイアン”的なニュアンスのミキシングができた気がしますね。
―― ちなみに、ご自身が描く主人公像に何か共通する特徴や性質ってありますか?
基本ひとりきりなことが多いですかねぇ。僕の場合は恋愛ソングもほとんどなくて。曲中に自分以外の登場人物が出てくることが数少ないと思います。自分で自分に向けて歌っているか、もしくは不特定多数に向けて歌っているか、そのどちらかの主人公が多いですね。
―― どうして「ひとりきりな主人公」が多くなってくるのでしょう。
タイアップものだと、クライアントさんのことが念頭にはあるものの、いざ家で作業するときは自分との対話でしかなくて。自分の考えを文字に書き起こして、それが歌詞として成り立つかのトライアンドエラーを繰り返していくんですね。どうしてもその域から抜け出せなくなっています。ただ、自分にとってはそれが歌に真摯に向き合えている証拠でもあるなぁと感じていて。結構、満足している作詞スタイルなのかもしれません。