―― タイトル曲「Ray of Light」は『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』挿入歌です。改めてドラマ版“きみセカ”挿入歌「Not the End」も聴き返してみて、リリース時である2021年の世の中の空気感を思い出しました。
ちょうどコロナ禍の始まりと、“きみセカ”のなかで描かれるゴーレムウイルスという存在が重なったタイミングでしたもんね。やっぱり「Not the End」はそういういろんなクエスチョンだらけの、「わからない、怖い、不安、会いたい」という現実世界の想いをリンクさせながら書いたのを思い出します。
―― そして今年、奇しくも元旦から能登半島で大きな地震が起こり…。「Not the End」を書かれたときには想定されていなかったと思いますが、歌詞の<全ての事に 意味があるなら この景色は 何を意味する>といったフレーズがより刺さりました。
本当にそうですよね。こんなことが起きるなんてまったく予想していなかったのに。私自身もそこがいちばん思い入れの強いフレーズです。災害の際もそうですし、日常でも仕事や恋愛で落ち込んでいるとき、「すべてに意味がある、とポジティブに捉えよう」とか言われることがあるけれど。やっぱり人生には、「こんなに私は苦しんでいるのに一体何の意味があるの?」って叫びたくなる瞬間がいっぱいあって。
そういう気持ちが『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』にもリンクすると感じました。今作では、竹内涼真さん演じる主人公・響の娘であるミライがワクチン研究のためにさらわれて、愛する娘に会えない時間が続くんですね。ただ家族が一緒にいたいだけなのに、こんなにも不安な日々を過ごさなきゃいけない。そういう響の想いを歌詞に乗せるならこのフレーズかなって。
―― 曲を作るにあたり、映画サイドの方からは何かテーマやワードの希望はありましたか?
ドラマ版の「Not the End」も劇場版の「Ray of Light」も、監督やプロデューサーとどういう方向性にするのか、誰の目線で歌詞を書くのか、そういう話し合いをさせていただいて、インスピレーションをもらいました。ただ、「このワードは入れてほしい」という具体的なオーダーはなくて、かなり任せてくださったんです。自由ななかで歌詞を書くことができたのでありがたかったですね。
私は本当にこの作品が大好きで、Huluで続いているシリーズもすべて観ていて、もうただのファンなんです(笑)。最初はゴーレムの怖さがメインなのかと思いきや、結局は人間同士の奪い合いや殺し合いが、世界でいちばん憎いもので。汚れているのは人間自身なんだな、と改めて“きみセカ”を通じて思ったり…。あまりに作品への愛情が強すぎるがゆえに、この1曲にどう想いを乗せればいいのかすごく悩みました。
しかも「Not the End」を書いたときは、情報が台本と資料だけだったんです。でも「Ray of Light」は過去のストーリーを知っている上に、ほぼ完成している状態の映像もあって、ものすごい情報量でした。どんどん成長している響。そして新たな登場人物である、大和(高橋文哉)や葵(堀田真由)の想い。それらをかみ砕いて1曲にしていくのがとても難しかったです。でも大好きな作品のファイナルに携わることができて、「きみセカ、ありがとう」という気持ちを込めながら歌詞を書きましたね。
―― 「Ray of Light」のテーマとしては、何をいちばん大事に描こうと思いましたか?
そこも迷いました。まず響や大和、葵、それぞれの「自分よりも大切なひとを守りたい」という気持ちは絶対に入れたかったですし。あまりにも登場人物への愛情が強すぎて、「これじゃ足りないな」とか「これじゃ彼らに失礼だな」とか思い始めたらきりがなくなってしまい、何回も何回も書き直しました。
一人称も最初は<僕>だったんですけど、それだと響だけの気持ちになってしまう気がして。今回は大和や葵というキャラクターの想いも大切にしたかったので、イメージを狭めないようにあえて日本語の一人称を外して、フレキシブルな歌詞にしたいなと。
あと「Ray of Light」は「Not the End」よりも確実に成長して逞しくなっているところも大事にしたくて。ゴーレムがどういうもので、どう対峙していくのかわかった。そして私たちもコロナがどういうもので、どう共存していくのかを見つけていった。そのひとまわり逞しくなった心を「Ray of Light」では大切に描きましたね。
―― 「Not the End」には<怖くても守りたいよ 君との優しい明日を>と綴られていましたが、「Ray of Light」では<守り続けよう どんな明日が待っていようとも>とより揺るぎない意志を感じます。
ありがとうございます。不安要素や弱い部分以上に、強さや愛情、自分よりも大切な人との出会いにフォーカスした歌詞にしたかったので、そこが伝わっているのが嬉しいです。とくに響は<正しい事だけ選んでは いられなくてだって>とあるように、壊れた世界で自分も壊れそうになりながらも強くなっていって。でもこれが本当の愛なのかもしれないな…、っていうのはぜひ劇場で観てください(笑)。
―― この曲でとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。
響の娘の名前が「ミライ」なので、<手応えのない 朝が来ては 小さな未来 蝕まれた>という2つの意味を込めたフレーズが書けたのはよかったですね。ミライはまだ小さな女の子で世界のことなんて何もわからないのに、いろんな管で繋がれてワクチンの研究材料にされている。そうやって自分の娘が蝕まれていることに耐えられなくて、一生懸命に命を守ろうとする父親の姿を描けたかなって。
実は大親友が昨年に赤ちゃんを産んで、もう可愛くて可愛くて、いろいろ買ってあげちゃうヤバいおばちゃんになっています (笑)。私に子どもはいないですが、その子とミライを重ねると、涙が止まらなくて。映画の試写会…泣いたなぁ…。本当にみなさんぜひ映画を観てほしいです。
―― 2曲目「声のカケラ」はアニメ『烈火澆愁』日本語版エンディングテーマです。この曲では“記憶”をテーマにされたんですよね。
作品のなかでは毎回、戦うシーンが登場してとてもカッコいいんです。もちろんそういうテーマで自分と重なる部分を見つけることもできたと思うんですけど、よりリンクするテーマを見つけたいなと。そう考えていたとき、アニメのなかで「もしかしたら過去のどこかでふたりは出逢っていて、繋がっていたんじゃないか」というシーンの描写を観て、「あ、記憶をテーマにしたい」と歌詞を書き始めました。
―― レイさんにとって“記憶”ってどんな存在のものですか?
私はいつ作った曲なのかも忘れちゃうぐらい、記憶力が悪くて(笑)。でも振り返ってみると、誰かにもらった言葉によってここまで歩いてきたなって思うんです。惑わされる言葉、振り回される言葉、優しく寄り添ってくれる言葉、いろんな言葉に対して「いや、違う」とか「そうだな」とか思って、自分の人生を選択してきました。だから“記憶”って<声のカケラ>なんだなと感じます。
悩んでいたり、不安になったりするとき、パッと<声のカケラ>を思い出す瞬間があるんですよね。「そういえば、自分はどう生きようか迷っていた頃、学校の先生に言われたあの一言が人生を変えてくれたのかもしれないな」とか。それを思い出したとき、「なんでこんな小さなことでまた悩んでいるんだろう。あの言葉があったから、今があるんじゃないか」って改めてパワーをもらったりもする。歌詞を書きながら、そういうひとつひとつの<声のカケラ>に感謝をしたくなりました。
―― 歌詞の冒頭にあるように<無くしたことさえ 忘れていたいくつもの 胸の奥にしまったままの 記憶の音>を、みなさんこの曲がきっかけで思い出したりすると思います。
これはまさに私のことでもあるんです。その記憶と似た場所にいるとか、匂いとか音楽とか、何かが1ミリ重なることで、走馬灯のように思い出したりするんですよね。だから記憶っておもしろいなって。
忘れてしまっている大切な記憶もいっぱいあるはずだから、日々思い出してあげたい。私はそれこそ曲を書きながら思い出すことが多いので。みんなもこの曲を聴いて、自分の記憶のなかに眠っている言葉をふわっと思い出して、優しい気持ちになってくれたらいいなと思います。
―― レイさんはどんなタイアップ楽曲のときでも、ご自身の感情や実体験も必ず大事にされますね。
そうなんですよね。完全にフィクションや想像で歌詞を書ける方もたくさんいらっしゃいますけど、私は自分のなかにないものを書けなくて。だからどんな作品にも、自分の体験と重なる部分を必ず見つけたいし、そこから掘り下げて歌詞にしたいと思っています。そのほうが歌っているときにも感情が乗るので。それは描き下ろしのときに大切にしていることだと思います。