もう歌詞から憲武さんのステージ姿まで見えちゃう。

―― 年齢や経験を重ねるにつれ、書きたいものが変わってきたところはありますか?

俺ね、あんまり伝えたいメッセージというか、「俺の想いを聴け!」という気持ちが薄いかもしれない。

―― 先ほどの「スペイン語に日本語の歌詞を乗せる」際にも、ご自身の想いなどではなく…?

あー! その質問おもしろいね。ラテンのバランスはまた独特なんですよ。ラテンって、わりとセクシャルな男女の心情を描いた歌詞がめちゃくちゃ多くて。しかもダイレクト。日本人だったら、「お、おうおう…」ってなっちゃうような表現もあるから、そこをいかにユニークに変換するかの戦いなんですよね。

―― 「お、おうおう…」というのは、わりと過激というか、濃密というか。

そうそう。僕も含め日本人はそういうところで育ってないからね。セクシーすぎる曲は「too much!」ってなっちゃう。だからたとえば、先ほどお話した「こんにちは」が入っている曲なんかは、自己紹介ソングであり、日本紹介ソングになったらおもしろいなと思って。「僕は東の果ての島国から来た。でも僕は侍じゃないから、君を切らないよ。もっと近くにおいで」みたいな。こういうアプローチにするわけです。

あとね、ラテン語のあとに「You have to try the Japanese one?」で「日本、試してみない?」みたいな表現を入れてみたり。その試す<Japanese>っていうのは、日本食かもしれない。日本の音楽かもしれない。でも、ちょっと体を使ってセクシーに表現すると、「日本人、試してみない? 俺どう?」って伝わるんですよ(笑)。

―― なるほど(笑)。

それでもう大爆笑。マイアミのレストランやバー、クラブで歌うと、ワーッ!って盛り上がるの。直接的ではないけれど、すごくユニークな表現なんだよね。海外の歌詞では、そういうところを突いていきたいなという思いがありますね。これはナオト・インティライミの音楽とはまったく違う気持ちでやっているかもしれない。

―― 今作『ファンタジスタ』収録曲は、むしろ日本人ならではの心の機敏を繊細に描いたようなラブソングが多い印象でした。

うんうん、そうなんだよ。海外でやっていることを、こちらに落とし込もうというつもりがなくて。「J-POPなんて世界の音楽ではない」みたいな勘違いも一切ない。日本ではJ-POPをやるぞ、向こうではラテンをやるぞ、とかなり切り分けている感覚です。

―― すでにリリース後ですが、リスナーの方からはどんな声が届いていますか?

photo_02です。

僕、エゴサというものをしないので、疎いところではあるのですが…(笑)。クリスマスソングあり、桜ソングありで、「季節感があるからこそむしろ年中聴けるアルバム」とか。あと意外だったのは、1曲目「Funky Music」から2曲目「MoonLight」でいきなりガクンと曲調が落ちるところだったんじゃないかな。この曲順は最後の最後にひっくり返したんです。曲順や曲間にはいつも相当こだわっているので、伝わっているといいなと思いますね。

―― アルバムタイトルの『ファンタジスタ』という言葉には、どのようにたどり着いたのでしょうか。

6枚目のアルバムから数字にまつわるタイトルシリーズを始めて、もう引くに引けなくなっちゃって(笑)。6枚目は『Sixth Sense』、7枚目は『7』、8枚目は『虹色∞オクターブ』、9枚目は『アドナイン』、じゃあキリがいいから10枚目まではやろうと。11枚目はどうなるかわかりません(笑)。それで10にまつわる言葉をいろいろ探したんですけど、やっぱりサッカーをやってきた身として10はエースナンバーだから、これだなと。

―― 今作にはコラボ楽曲も多数収録されていますね。以前『言葉の達人』では『「何を言うのか」よりも「誰が言うのか」』を大事にしているという作詞論を綴ってくださいました。すると今回は「誰と言うのか」のおもしろさもありましたよね。

掛け合わせによって可能性は無限大だなって思いました。僕ひとりだったらその世界にはならない。逆に相手ひとりでもその世界にはならない。こういう化学反応は、かなり楽しいものだなと実感しましたね。

―― まず3曲目「ミコラソン(feat.Novel Core)」は、シンガーソングライター・Novel Coreさんとの楽曲です。

彼とはイベントで一緒になって。最初は、「ちょっと怖いオーラのひとなのかな」って思っていたんです(笑)。でも実際はめちゃくちゃオープンマインドで、ナイスガイで。そこからご飯に行ったりして、より交流を深めたんですね。で、「この曲、俺ひとりで歌うより、ラップとか乗ってきたらかっちょいいな」とイメージが浮かんで。誰に歌ってもらうか考えたとき、「Novel Coreが歌ってくれたらありがたいな」って。

彼はラップのひとであり、歌えるというところも強みだと思います。しっかり歌えるラッパーって実はそんなに多くないし。あと、言葉のニュアンスや表現のタッチもすごく好きだったから。これはNovel Coreしかいないなと。直接、「一緒に曲をやろうよ。どう?」ってLINEをしたら、「いいっすね!」と言ってくれたんですよね。

―― 歌詞は共作ですが、どのように作っていったのでしょうか。

俺がたたき台を投げて、それを受けたNovel Coreがフレーズを書いて、それにまた俺が加えて、という流れでした。コロンビアにいるとき、Novel Coreからデータが来て、最後までバーッと書いて、レコーディングしましたね。

―― とくに印象的だったフレーズを挙げるとすると?

俺が書いた<ヘリウムガスに乗って 君のもとへ>というフレーズを受けて、Novel Coreが返してくれた<ほんのちょっとつくため息で 膨らませた風船に乗り 君のそばへ>ですね。どうやって風船を膨らませるのか考えたとき、<ため息>で膨らませるって、オシャレやなぁと思いました。

<ヘリウムガス>が風船を意味しているということも、彼に説明していたわけじゃないんですよ。でもワンフレーズからちゃんと汲み取って、素敵なフレーズにしてくれたなと。

―― <LINE>や<Netflix>、<お揃いの可愛いスタンプ>など現代的なワードが出てくるのも印象的ですね。

そうだよね。この曲は、もうひとりNanako Ashidaという若いシンガーソングライターの子も作詞に参加してくれていて。このあたりの融合で、自分ではなかなか出てきづらいワードが登場しました。Novel Coreだったり、Nanakoちゃんだったり、それぞれのエッセンスによって新しいものが生まれるのが何か一緒に作る醍醐味ですよね。

―― 8曲目「ジャイアントキリング(with 木梨憲武)」もまた、おもしろい化学反応が起きています。

これは憲武さんから「何か一緒に作ろうぜ」とお声かけいただき。「どんな曲にしますか?」と訊いたら、「いや、ナオトと俺だからさ、サッカーでしょ!」って。憲武さんはJリーグができる前から、日本とサッカー界を繋いできた方ですから。そして僕も、曲がりなりにも本気でワールドカップを目指してきて、遊びじゃなくやってきた自負もあるので「いいっすね!」と。

さらに憲武さんが、「スタジアム感といえばアンセムでしょ。ナオトはいろんな国に行っているから、アフリカなのか、ラテンなのか、もうイメージはあるんでしょ」と(笑)。もうそのワードだけで十分、僕のなかで音楽が鳴り始めていました。あとはもうそれを形にしていく、とてもスムーズな作業でしたね。しかも憲武さんのキャラクターも含めて、もう見えているものがあるから。歌詞は収録曲のなかでいちばん早く書けたと思います。

―― 「ジャイアントキリング」というワードはこの曲で初めて知ったのですが、「大番狂わせ」という意味だそうですね。

十何年前ぐらいから「ジャイアントキリング」という言葉をずっと温めていて、どこかで使いたいなと思っていたんですよ。で、そういうアンセムならここだなと、満を持して頭の金庫から出してきました。そしてそのタイトル先行で歌詞を書いていきましたね。憲武さんといえば、もう僕が小学生の頃からのヒーローですから。やっぱりおもしろさ、言葉のユニークさ、耳心地のよさ、それらは絶対に必要だなと。

ちなみに、実際に前回のワールドカップで、スペインやドイツという世界の超強豪に日本が大番狂わせを起こしたじゃないですか。そのときニュースとかで「ジャイアントキリング」という言葉を知られた方も多いんですけど、そのときすでにこの曲はできていたので、「ほら来た!俺のほうがこの言葉を使ったの早いから!」ってちょっとジェラシーを感じたりもしました(笑)。

―― おふたりが<上を!もっと上を!もっと上を!もっと上を!>と歌ってくださるパワーも強烈で。

憲武さんは、本当にまだまだおもしろいものを作りたいというハートがめちゃくちゃ強いですからね。お笑いでも音楽でも。そして俺も「さぁどうやって今、世界でジャイアントキリングを起こしたろうか」というハングリー精神に燃えていますから。それが相まってこういう歌詞になりました。

やっぱりまだめちゃくちゃなめられているから。「お前に何ができるんだ?」みたいな。だから<ちょろい しょぼいと油断させておいて すき見せておいて 噛み付くスタイル>っていう、まさにこれです。そういう想いもあって歌詞を書くのはスムーズでしたね。

―― この曲をナオトさんと憲武さんがテレビなどで歌っている姿も観たいです。

やりたいよね! しかも<今は無双状態 Kidding  誰もとめらんねー この独壇場>って歌っているんだけど、<いやちょっと 誰か止めて>って叫んでいるイメージも見える。もう歌詞から憲武さんのステージ姿まで見えちゃう。これもやっぱり一緒に歌ったことによる大きな化学反応でしたねぇ。

123