ネットでの“ティライミいじり”をやっとエンタメに消化できた。

―― ナオトさんがとくに思い入れの強い楽曲を挙げるとすると?

これもやっぱりコラボ楽曲になるんだけど、9曲目の「やんなっちゃうよな(with meiyo)」かな。歌詞は絶対に俺ひとりでは書けんかった。まず、若手に乗ってみるのもおもしろいなと思ったんですよね。今まで彼が作ってきた「なにやってもうまくいかない」とか「PAKU」みたいなmeiyo節に乗ってみたいなと。

で、meiyoがうちの作業部屋に来てくれて、いきなりは作らず、どんな歌詞にしようか3~4時間は話した。「そっか、こういうのが大変なんだね」とかいろんなことを。そうしたらふと、ネットでの“ティライミいじり”の話になって(笑)。たとえば、「【受験生必見】 ナオト・インティライミで覚える前置詞」とか。

―― あ、X(旧:Twitter)で流れてきたことあります!

やっぱり知ってるんだ(笑)。「ナオト in ティライミ」「ナオト on ティライミ」「ナオト over ティライミ」「ナオト under ティライミ」みたいな。俺がアイコラでいじられているんだけど、すごくセンスがいいの。そして、また数年後に「ナオト・インティライミのサイコパス説」みたいなのが出てきて。俺の爽やかな写真に対して、サイコパスなひとことが添えられているんだけど、これまたバズりあげていて。

それって嫌がるひともいるかもしれないけれど、俺の場合は「おもしろいな。センスいいな」とか「話題にのぼるってすごいことやな」とか、「いじってもらえるなんてありがたい」とすら思っていたんですね。でも、それに対して発言する機会って今までなかったし、発言の仕方も非常に難しい。そういう話をmeiyoにしていたら、「いいですね、じゃあそれを曲にします」って。

―― meiyoさんは世代的にもSNSとの相性がよさそうですし。

photo_03です。

まさにそうだと思う。今の時代に何がバズっているかよく知っているんだよね。俺ひとりだったら、ちょっと繊細なネットいじわるに対する歌詞を書こうとは思わなかった。でも、meiyoのセンスならイケると思ったんですよ。だから結構、具体的なところまでさらけ出した。もれなく歌詞に入っている。ネットでの“ティライミいじり”をやっとエンタメに消化できた感じがしますね。<アフリカ人の子供に「ねっ!」>とかも知ってる?

―― はい、これもやはりXで。

ねっ(笑)! そうかー、やっぱり普通に流れてくるものなんだ。すごい現象だよね。僕としては、ただ旅をしているだけなんだけど。だから今、曲よりも「ねっ!の兄ちゃん」みたいな感じだよね、ってところに対しても<こらこら曲も聞けぇい!>ってツッコみがあったり。

―― ちなみに歌詞に表記されてない最後の部分はなんと言っているのでしょう。「はい、時間切れ」といくつか言葉が重なっていますね。

そうそう、3つぐらい重なっているんですよ。これはあえて内緒にしておきます(笑)。これもmeiyoのアイデアで、「こうすると何回も聴きたくなるだろうから」って。多分、5回ぐらい聴けば2つまでは聴きとれると思う。ぜひ、みなさん頑張って聴きとってみてください。

―― では、収録曲のなかでナオトさんがとくに「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

たとえば「First Christmas(Album ver.)」の2番Aメロに<また誰かに裏切られるのが怖くて この気持ちにブレーキを そんな仕掛けなんてもういらないね 信じていいかな>ってフレーズがあるんですけど、実はこれ、25年前の19歳の自分との共作なの。そのときはまだまだ言葉尻とかが未熟だったから、そこを2024年の俺の歌詞に書き換えていって。

でもやっぱりベースになっている部分は、逆に今の自分では書けないなと思いました。19歳の彼の恋愛模様や感覚をうまく活かしながら書いていった。その昔と今の自分の化学反応がおもしろかったです。25年前に創った曲が、令和にリリースされるなんてね。

―― 1番では<君との最初のクリスマスの前に お互いのこと知りたくって 何度もぶつかってすれ違って>と綴られていますが、歌詞のなかで関係性や物語がどんどん進んでいくのも印象的でした。

そうそう。でも結局、<最初で最後のクリスマスの日…>という切ないオチなんです。その先のクリスマスを<君>と一緒に過ごせることはなかった。これも当時にはなかったフレーズで、25年後の今、つけ足しました。実際にもそうだったのでね…。

あと、音遊びという意味では「Funky Music」の2番Aメロ<16の裏 刺さったら重力も無駄 「つっぱっぱ つっぱっぱ」ってな具合に そうシンコペーション>というフレーズ。韻を踏みながら、ファンクの16拍子の裏拍を「つっぱっぱ つっぱっぱ」って表現した歌なんて今までなかっただろうから。とくにドラムとかベースとかうちのミュージシャンたちにはグッと来ちゃっていましたね。「それ口で言っちゃうんだ!」って。

あー、「Level 44」も、今しか書けないリアルタイム詞という気がして好きですね。

―― 「Level 44」に<さあ未来 まだ行こう だけど大切な今忘れて 未熟な過去を切り捨てたら それじゃ意味がない それは僕じゃない>というフレーズがあるように、ナオトさんは未来というより、過去と今を大事にされているんだろうなと、今作を聴きながら感じました。

そうね。「過去なんか振り返ってないで!」というパターンの方もいますが、いやいやいやと。もちろん過去にすがって、まったく進めなくなるのはよくないけど。今の自分はやっぱり、これまで「してきたこと」と「してこなかったこと」で形成されているわけ。そういう想いが強いから、過去も引き連れて、今を感じながら、未来に進みたいという意識は常にあるかもしれないですね。

―― とくに世界中を旅するなかで見てきた景色や出会いなんて、ひとつひとつが宝物ですものね。

そうそう。結局、死ぬときに何がいちばん大事かと言ったら、思い出と経験でしょう。そう考えたら過去ってすごく大事だし、その思い出を作るための今が大事だよなと思うんですよ。あと、海外でチャレンジをしている分、人生をもう1回やり直している感じもあって。18、19歳のとき、どうやったら日本でデビューできるのか考えていたハングリー精神の世界規模版というか。だからこそ、いろんな経験を携えて、進んでいきたいなと。

―― ありがとうございます! 最後に、ナオトさんにとって歌詞とはどういう存在のものですか?

その時その時の自分の生き写し。今の自分が濃く出る曲もあれば、今回の「First Christmas」みたいに過去の自分が教えてくれることもある。40代で書けるもの、50代、80代で書けるものってまた違うだろうし。だから常にそのときにしか書けない言葉を、書き残して続けていきたいなと思いますね。

―― ナオトさんはリリースペースが速いので、来年になったらまた新しい生き写しがたくさんできているかもしれませんね。

やばいよね! 異常だよね! 年間13曲リリースして、アルバムも8、9カ月ごとに出して。日本一、速いんじゃないかな(笑)。来年どうなるのか…自分でも楽しみです。


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