昔も今も音楽に「満たしてくれ!」という思いがある。

―― 歌詞は冒頭から順番に書いていくことが多いですか?

サビから書くことが多いですが、最近は楽曲によってバラバラです。ハマる単語が見つかったところから先に広げていきます。たとえば「Nagisa」だったら、まず頭のメロディーで<今では>が出てきて。そこから<私に 見惚れちゃって>と続いて、どんどん広げていきました。

―― 「Nagisa」の<私>は、ちょっとお姫様的で、自信があって、独占欲も強め。だけど実は弱さを隠している。そういう主人公像もマジカルバナナ的な連想のなかで徐々に作られていくのでしょうか。

この曲は、最初にワンコーラスをざっくり作ったのですが、その段階で「少し強めの女性像が合うな」と思っていたんです。80年代のシティーポップは強い女性が主人公の歌詞が多い印象があったので、僕もそっちに寄せたほうがシティーポップらしくなるかなと。

でも、やはりどこか弱さも見えたほうが聴き手も感情移入しやすいだろうから、最後に<本当は孤独に 怯えちゃって 潤んだ瞳に気づかないで>というフレーズを入れて、人間らしさのバランスも取りながら書いていきました。

―― 途中の<進めない赤も青に変わるの>というフレーズが、最後には<涼しげな青も赤に変わるの>と対になっていて、もう伏線回収まで素晴らしいなと。

photo_02です。

そこまで言っていただけると嬉しいです(笑)。ここは<交差点沿いの光>というワードが先に出てきて、何かうまい表現をしたくてずっと考えていた部分なんですよ。それで、やっとメロディーに<加速する恋>がハマリ、<進めない赤も青に変わる>というフレーズを絞り出しました。ここで少し悪いことをしている感じも表現できたかなと。そして、このフレーズを書くことができたので、ラストの部分はおっしゃるとおり<涼しげな青も赤に変わるの>という伏線回収をしたかったんですよね。

―― あまりに物語がしっかり構成されているので、ゴールから逆算されて作られているのかと思っていました。

いえ、マジカルバナナなんですよね(笑)。とくにタイアップ楽曲はそういう作詞法がやりやすいです。「18」もそうで。サントリーWEB動画「大人じゃん・ここからだね04」篇 テーマソングとして書き下ろしたのですが、高校を卒業される18歳の方々に向けて作った楽曲なんです。当時の18歳はコロナ禍で青春時代を過ごした世代じゃないですか。コロナ禍といえば、マスク。だから<思い出の写真には目元以外映んなくて>…とか。

<生まれ落ちて18年か>のなかで、コロナ禍によって「何ができなかったのか」というちょっとネガティブなことを書いていきました。でもだからこそ、<楽しみはここから>というフレーズで「逆に大人になってから楽しみが待っているよ」というメッセージを込めてポジティブにしてみたり。そういう作り方でしたね。

―― また、imaseさんの楽曲にはいろんな人称が登場しますが、何か使い分けのこだわりはありますか?

「Nagisa」や「恋衣」のような物語や主人公が浮かびやすい歌詞には、そこに合った人称を意識して入れるようにしています。逆に「Shine Out」は抽象的なほうがよいと思ったので、人称は入れていません。サビも<Dance Dance Dance 鮮やかに 踊りだす 感情は美しい>と、かなり語感とノリ重視の歌詞にしました。アネッサのCMがキラキラしていたので、楽曲も2010年代のEDMっぽくして。そんなふうに、人称はタイアップとのバランスと自分の感覚で決めています。

―― 今作『凡才』についてimaseさんは、「特別歌が上手かった訳でも才能があった訳でもない“凡才”の僕が、どうしたらたくさんの方に聴いて貰えるかをたくさん考えて作った曲が詰まっている」とコメントされていました。たとえば、どんな工夫が挙げられますか?

まずデビュー曲の「Have a nice day」は、ほぼファルセットだけで歌うポップス、という点で引っかかりになるかなと。おそらく誰もやっていないだろうという部分もありました。

また、いちばん工夫したところで言うと、やはり語感。母音をすごく柔らかく歌うことで日本語っぽいカチカチの印象を持たせず聴き心地のよいものにしました。

逆に「NIGHT DANCER」は、最初の一音目やサビの強い部分を濁音、破裂音にして印象づけたり。少しブルーノート的なメロディー(哀愁を帯びたメロディラインの音)を入れてみたり。僕はサビ中で一瞬、半音下げるクセもあるのですが、そういう違和感がフックになりやすいのかなと思うので、意識的に入れることが多いですね。

―― こうしていろんなお話をお伺いしていると『凡才』ではなく「むしろ天才…」と感じてしまうのですが、ご自身ではどんなところに「天才」との違いを感じていらっしゃるのでしょうか。

いえいえ、僕はやはり凡人です。このSNS時代にハマったのがラッキーだっただけで、天才はいろいろ考えずともいい曲を作れると思いますし、何よりどの時代でも聴かれたり評価されるんだろうなと思うんです。でも自分は決してそういうタイプではないですし、そこを活動当初から自覚し意識していたからこそ、いろんな工夫を仕掛け続けられているんだと思います。

―― 先ほど、1曲目の「BONSAI」だけは「特殊」だとおっしゃっていたように、この歌詞にはご自身のことを書かれていますね。

はい、自分の境遇や気持ちを交えて書くのは初めてかもしれません。今回初めてのフィジカルアルバムなので、自己紹介的な楽曲を作りたいなと思い制作しました。「BONSAI」を聴けば、僕がどういう環境で音楽を作ってきたか、どういう思いで音楽を作っているかがわかるような歌詞になっています。今後、こうやって自分のことを書くことはおそらくないと思うので、このタイミングで書くことができてよかったなと思っています。

―― imaseさんは岐阜県出身ですが<隣町の人すら 見慣れるほど>の場所だったのですね。

はい、かなりの田舎なので、町の人口はおそらく数千人だと思います。

―― その“田舎ならではの美しい情景描写”を歌詞にする、というのもひとつ武器になりそうですが、むしろimaseさんの歌詞はかなり都会的です。

そうなんですよね。それはもう何にも考えていなかった初期の頃からで。自分の好みだと思うのですが、都会的な楽曲や歌詞を書くこと多いです。都会への憧れがすごく強かったわけではないのですが、田舎だったからこそ都会に抱くイメージが強く出ている部分もあるのかなと思います。

―― <何回も 夜に凝らした目 熱に浮かされ 気づけば 朝まで 常夜灯 紙を照らした ペン>というフレーズからは、とくにimaseさんの生きざまを感じます。そんなにも音楽はimaseさんをアツくさせたのだと。

昔はサッカーをやっていたのですが、中学3年生のときに挫折してしまい。そこから20歳で音楽を始めるまでの期間は熱中できるものがなかったことも大きいです。初めて作った曲に対してたくさんのコメントをいただけて、「これっておもしろいかも。久しぶりに熱中できるものを見つけたかも」とようやく思えたんですよね。そこから徐々に、「自分には音楽かもしれない」という熱が増していったような感覚です。

―― このフレーズの続きには<僕を満たして>とも綴られていますが、imaseさんはどんな状態になることで“満たされてる”と感じるのでしょうか。

まだ全然満たされていないかもしれません。何が満たしてくれるのかもわからないんです。だからこのフレーズも、曲を作ることが<僕を満たしてくれた>ではないんですよね。「音楽が僕を満たしてくれたらいいな」みたいな願望というか。昔も今も、音楽に対して「満たしてくれ!」という思いがあるような気がします。

―― そして最後<枝を伸ばした 凡才なのさ>という終わりから、2曲目「NIGHT DANCER」に繋がるのが粋ですね。「NIGHT DANCER」はどんなときに生まれた曲だったのでしょうか。

「NIGHT DANCER」の制作は活動初期だったので、作業部屋ではなくドライブをしているときにメロディーを思いつきました。鼻歌を録音して、家に帰ってすぐに打ち込んで作ったんです。当時はチルでゆったりした曲が多かったので、ちょっとダンサブルにノレる曲を作りたいなと。そういう時期にできた曲です。

―― 最初にどのフレーズが書けましたか?

頭の<どうでもいいような 夜だけど>からですね。ただ、実は最初は<とってもいいような 夜だけど>だったんです。でも濁音にしたほうがグッとくるかなと思って、<どうでもいいような夜>に変えて。そこからどんどん歌詞ができていきました。

―― たとえば<とってもいいような 夜だから>としていたら、まったく違う物語が見えてきそうですね。

そうなんです。<どうでもいいような夜>の次に<だけど>を置いたことによって、その後のストーリーがかなり作りやすかったんです。語感を重視して濁音に変えたからこそ、たまたま生まれたフレーズで。やはり運だなと思います。

―― そういうきっかけから、ちょっと無気力で、衝動的で…という主人公像が生まれてきたわけですね。でも最後には<愛して どうでもいいから 僕だけを>とちゃんと熱さも見える。

そうなんです。最後は熱くしたくて、あえてそこまでは一人称を出さずに、ここだけ<僕>を出したんです。それにより急にグッと主人公が出てくる感じを表現してみました。あと、最後は少しだけメロディーも変えて、より心情が動いている感じを出しました。

改めてこうして歌詞を見てみると、僕は最後のほうに本音や熱さを出しがちかもしれません。思えば「Nagisa」で最後に弱さを見せるところとかもそうですよね。全体の締めとして最後にちゃんとオチを持ってくるのは、きっと僕の作詞のクセなんだと思います。

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