核は「お母さんのお腹の中から出してくれ!」みたいなエネルギー。

―― 2020年の1stアルバム『bedtime story』リリース時にエッセイを書いていただいた際、「このアルバムで1番大切にしたのは、五感です。もし、その一つ一つが考える力を持っていたのなら、それぞれの目先の風景もまた違います」と綴られていて。そして今作には“きりんの視点で物事を見る”というテーマがありますが、ほのかさんは常に「視点を変えて景色を見たい」という気持ちがあるのでしょうか。

おっしゃるとおりです。もっと言うと、私が普段、身にまとうファッションによっても視点は変わると思っていて。「こういう系統の服を着るひとは、こういうふうに他者と関わって、こういう気持ちになるのかもしれない」というのを疑似体験できるというか。だから、かなりいろんなタイプの服を着るようにしているんだ…、ということに今改めてハッとさせられました。自分の心と身体のできる範囲で、視点を変え続けていますね。

―― もしかして、よくお引越しとかもされますか?

あ、しますね(笑)。

―― 1stアルバム『bedtime story』の際は、川沿いにお住まいで、影響を受けたと書かれていましたよね。なので住んでいる場所でもかなり目線が変わるのかなと。

そういえば今回の『kirin』もそうです…! 東京タワーとか見えるようなところがいいなと思って、ちょっと高い階に引っ越していて。だから、高い景色を見たいというマインドが表れているんだと思います。

―― アルバム1曲目の「天きりん」は、どんなときにできた曲だったのでしょうか。

自分にとっていちばん<どこにも行けないここから出してくれ!>って混沌として、いろんな矛盾から解放されたくて、何か残したいと思っていたのは、やっぱり歌詞にもある“しもきたざわ(下北沢)”という場所で。そういう思い出があったので、アルバム制作中に実際、下北沢に行ってみたんですよ。そうしたら、当時の記憶が鮮明に思い浮かんできて。ぶわーって言葉が出てきた感じですね。

―― この<しもきたざわざわざわざわめきが止まらない>、<しもきたざわざわざわざわめきがまとまらない>の“ざわざわ”にはどんな感情が含まれているのでしょう。

私が音楽をしはじめの頃に出たライブハウスは、新宿とか渋谷とか都内なんですけど。やっぱりバンドといえば下北沢のイメージがあって、憧れを抱いていたんですよ。

ただ、そういう憧れと、実際そこに飛び込んでみたときに感じるものって、ギャップが生じることってあるじゃないですか。とはいえ「自分が憧れていた世界は本当にあるんだ!」という高揚感も確かにある。そういう感情のざわざわしたせめぎ合いを、バンド活動のなかで感じた瞬間があって、その感覚を思い出して書いたフレーズですね。

―― では、<ねぇ つながって痛むよ>というフレーズは、そういう当時の感覚に今のご自身の気持ちがつながって、何か痛むものがあるようなイメージですか?

photo_02です。

そういう意味もあります。でもいちばん大事にしたかったのは五感のつながりですかね。足と地面がつながるって、やっぱりエネルギーが必要だし、踏ん張り続けるのには覚悟もいるし、そういう痛みを表現しました。

あと、私はライブハウスが好きで、今でも行くんですけど、お客さんたちが拳を上げている姿がきりんに見えることがあって。拳を上げ続けるって、力がいるし、手も足も痛くなってくるじゃないですか。それでも拳を上げたいという気持ちに、すごく感動してしまって。個人的にはそういう光景も浮かぶフレーズですね。

―― ほのかさんが「天きりん」で、とくにお気に入りのフレーズを教えてください。

この曲の核は、エネルギーの強さだと思っていて。それをわかりやすく表現しているのは、サビの<ここから出してくれ 出してくれ!>という言葉ですよね。ただ、<出してくれ!>という言葉を"希望"として考えたら、その希望に魂を宿らせるのは<そこに意味なんて無くなってしまえ やぶり棄てた 絵本の中>というフレーズで、そこが私にとっていちばん大切かもしれません。

<絵本>は、幼い頃に母親が読み聞かせてくれたもので、そういうつながりのイメージ。そして、今はもうそれすらも破り捨ててしまいたい反抗心があるけど、同時に、「でも私ってその絵本の中に存在するんだよ」という気持ちもある。そういう相反するエネルギーを持ちながらの<出してくれ!>なんです。

それって「お母さんのお腹の中から出してくれ!」みたいなパワー、エネルギーに近いかもしれないなと思っています。ものすごく苦しい世界かもしれないけれど、まだ世の中に出ていない赤ちゃんが、「世界を見たい!出してくれ!」と叫んでいる。そういう強さを持った曲がこの「天きりん」ですね。

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