亀田誠治さんは私がバンドを始めるきっかけとエネルギーをくれた方。

―― 個人的には7曲目「me mori」から8曲目「ムーンライトリバース」のしっとり夜に移り変わっていくような流れが好きです。

ありがとうございます! 私もこの2曲の流れ、とても好きなんですよ。まず「me mori」は“生きる力強さ”が本質にあると思っていて。だからこそ空想的すぎずに、日常感のあるフレーズを大事にしました。その視点から、会いたい<君>への“生きた気持ち”というか、想いのエネルギーを曲にしたんですよね。

―― 「me mori」の最初の欠片は、どんなときに生まれたのですか?

当時、住んでいたところを、本当に何も考えずに歩いているときでした。いきなり夕日が、ブワーっとオレンジ色に空を染め上げていって。言葉が溢れてきたんです。なんというか…太陽が、徐々に地球に隠れるぐらいになって、夕日になるじゃないですか。そのとき、エネルギーが溢れ出す前のいちばん強い光を感じて。そうやって生まれた曲です。

―― 「ムーンライトリバース」はいかがですか?

「この気持ちって、好きなのか嫌いなのか。これは愛ということなのか」。そうやって考えたり、思ったりする気持ちが強ければ強いほど、自分の心に“それ”を所持しておく時間は長いと思っていて。そのループを表現したくて作った曲ですね。そういう気持ちって、本当にどうしようもなくて。でも月を見ると、静まり返るというか、なんて言えばいいんだろう…。

―― 心がかき乱されるような<好き、好き、好きだよ。>ではなくて、しんと静かに見えてくる思いというか。

はい、まさに。そして絵に描くとしたら、そのしんとした中に、小さい穴がぽっかり空いているイメージなんです。その穴が小さければ小さいほど、想いとか、光みたいなものが、濃密に凝縮されている気がして。

この曲を聴いてくれるひとたちが、きっと月を見上げたときにこの曲を思い出すじゃないですか。で、どこかで同じ気持ちを持ったひとが、また月を見て、この曲を思い出す。そうやって月を通じて、ひとと繋がれたらいいなという思いがありますね。

―― また、今作ではバンドとして初めて外部プロデューサーの方々を迎えられていて。「ムーンライトリバース」は、亀田誠治さんが編曲されているんですよね。

亀田さんは、私がバンドを始めるきっかけとエネルギーをくれた方、足を踏ん張る力を喜びに変えてくれた方なんです。

15歳のとき、亀田さんが携わっている、椎名林檎さんの「ギブス」を聴いて。「私、この曲がいちばん好き」って感じて。それから何かのインタビュー記事で、林檎さんが「この曲は17歳のときに作った」とおっしゃっていたのを読んで。「私も17歳までに、自分のなかで疑いようのない、いい曲を作ろう。それができたらバンドをやろう」って思ったんですよ。そして生まれたのが、リーガルリリーの「リッケンバッカー」なんです。

で、「ムーンライトリバース」を作った瞬間、私にきっかけをくれた亀田さんと一緒にできたら、いいなぁと思っていました。まだまわりのひとにも聴かせる前に。でも接点もないし…と思いながらも願っていたら、なぜか亀田さんが私のことをラジオに呼んでくださって。

―― それは運命ですね…!

しかも、そのタイミングがまさに、「外部のプロデューサーさんに編曲してもらったら、もっと良くなりそうな曲だけど、さすがに亀田さんはあまりに憧れすぎるし、今お忙しいのかもわからないし、難しいんじゃないか…?」みたいなことを考えているときだったので、いろんな運が重なって、ご一緒できることになったんです。だからアルバムのなかでもとくに、この「ムーンライトリバース」は大切な曲になりましたね。

―― ほのかさんの描く歌詞の主人公には、何か共通する特徴や性質はあると思いますか?

どうだろう…。キャラクターを作る上で、性別とか、年齢とか、国籍とか、素材として使うじゃないですか。だけど私は逆に、誰かが形づけた言葉を忘れるような瞬間が好きで。そういう“ひとの繋がり”を歌っていきたいんですよね。

もちろん歌のなかで、一人称としては<僕>とか<私>とかいろいろ使うし、そういうものは他者と関わる上での前提となる、着飾りというか…、檻というか…、守っているもの、かな。自分を守っているものだと思うんですけど。感覚としては「本当は守らなくてもいいんだよ」ということを大事にしていますね。

―― これから挑戦してみたい歌詞というと?

photo_03です。

もっと“人間ではないもの”の視点から人間を書いてみたいですね。それによって、「うわー、人間ってこう思っちゃうんだ」ってわかるというか。そういう実験はおもしろそうだなと思っています。

―― 最後に、ほのかさんにとって歌詞とはどのような存在のものですか?

最初のお話にも繋がるのですが、ずっと「言葉には意味がない」と思ってきたんです。だけど、それはただ「言葉には意味がないと思いたかった」だけだということに気づいて。歌詞にも、やっぱり意味があるから、ちゃんと取り扱いたい。今はもう第一言語とか、第二言語とかじゃなくて、すべてが私の音楽にとって大事なものになりましたね。


123