そばにいるほどが 痛め合う 感情を 許してよ 繋いでみせるから逃げれない Get away
手放したくても 甘すぎる代償を 悔やんでも 汚せぬ君の明日もっと歌詞を見る
―― iriさんが最初に音楽に心を動かされた記憶というと何が浮かびますか?
大きく心を動かれたというより、当たり前に音楽が生活のなかにあった気がします。母はジャズやボサノバが好きで、家でいつも流していたので、自分も自然と好きになりました。先日、私の幼少期の映像が出てきたんですけど、勝手に替え歌にしたり、メロディーを作ったりして歌っていて(笑)。そんな子ども時代でしたね。
―― 聴く側から作る側になりたいと思った、明確なきっかけはあるのでしょうか。
大学1年のとき、七尾旅人さんの音楽に出会った影響が大きいです。それまでの学生時代は、ぼんやり「歌うひとになりたいな」と思いながら、わりと洋楽を多く聴いていて。カフェでライブをするときなどは、カバーをしていたんですけど。旅人さんのライブで楽曲を聴いたとき、「あ、私も自分の言葉で歌いたい」と思ったんです。
―― 七尾旅人さんの他に、歌詞面で影響を受けたアーティストというと?
たくさんいらっしゃいますね。ハナレグミの永積タカシさんとか。ラッパーの方だととくに、LIBRO(リブロ)さんが好きで影響を受けていると思います。
―― iriさんは、2014年にオーディションでグランプリを獲得し、2016年にメジャーデビュー。その後も様々なタイアップ楽曲を生み出し続けられていて、イチファンとして拝見していると右肩上がりな印象を受けます。ご自身では、今に至るまでの音楽活動を折れ線グラフで表すとしたら、どんな形になると思いますか?
私には頂点がない感じなんですよね(笑)。グランプリやメジャーデビューは、スタートよりもっと前の感覚もありますし、すべてが通過点である気がします。じわじわと、ですが、着実に進んでいるというか。そういう意味では、おっしゃってくださったように右肩上がりですね。ちょっとずつ、ちょっとずつだけど、下がりはしない。
―― 人生でいちばん最初に書いた歌詞って覚えていますか?
最初かぁ…。「無理相反」や「brother」という私の楽曲があるんですけど、そのあたりが初めて書いた歌詞かもしれません。自分の感情を本当にストレートに綴った感じ。とくに初期は、何かあったらすぐ書いていましたね。どうツラいのか、どう悲しいのか。感じたままに言葉にすることで、おもしろいフレーズが出てくるというか。
―― その初期から、今のiriさんの音楽軸はどのように形成されていきましたか? 変わった部分も大きいのでしょうか。
自分的にはかなり変わったと思います。初期は、ただ自分の感情を“書き出す”という感覚だったんですけど。だんだんギターのスリーコードが、ゆっくりのアルペジオからちょっと刻むようになってきて。そこにビートが乗っかってきて。さらにダンスミュージックみたいなトラックに乗せるようにもなって。すると、言葉がベタッとしないよう意識するようになり、ワードで遊ぶ感覚が強くなってきました。歌詞が立体的になった気がしますね。
―― とくに歌詞面での“iriらしさ”が確立されてきたと実感されたタイミングというと?
曲で言うと「会いたいわ」かなぁ…。それまでは“ラララ~♪”のメロディーで歌っていたのが、ギターのビートのループ、リズムに、自由に言葉をハメていくという試みをしてみた楽曲で。でも作ったときに、今までと違った手応えがあったわけではなくて、あくまで挑戦のなか自然に生まれていた変化で。ゆったりと歌う楽曲もあるけれど、ビートを刻みながら歌う曲も私らしさになったというか、引き出しが増えた感覚でしたね。
―― また、iriさんは歌詞の魅力はもちろんですが、歌声の温度感が好きです。クールだけれど熱量や感情も伝わる。
ありがとうございます。よく、「声だけ聴くと男性か女性かわからない」と言われるんですよ。だからジェンダーレスな歌声であることは、特徴のひとつかもしれません。
―― その歌声の特徴や、クールなファッションイメージなどは、楽曲を作るときどれぐらい意識されるのでしょうか。
今回の新曲「Swamp」もそうなんですけど、ドラマ主題歌やCMソングの場合、音色に関して派手さを求めることが多いんですね。だけど、“自分がカッコいいと思う派手さ”と“ちょっと違うと思う派手さ”があって。そのさじ加減はいつも意識して、大事にしているところです。
それは歌詞も同じで。たとえば、ショッキングな言葉はあまり使わないようにしているんです。パッって聴いて、あからさまに攻撃的な言葉で作る“カッコよさ”とか“派手さ”は好きではないですね。
―― ちなみにiriさんには以前、「会いたいわ」の歌詞エッセイも書いていただきました。この曲については「歌詞は実話を元に描かれています」と綴られていましたが、歌詞はご自身の体験をベースにされることが多いですか?
そうですね。それはタイアップ楽曲でも変わらない気がします。今作「Swamp」もドラマ『スカイキャッスル』の原作を観させていただいて書いた歌詞ではあるんですけど、そのなかでも大事にしたのは、自分の記憶のなかに溜まっているものだったり、「自分だったらこの出来事をどう消化するかな?」という考えだったり。常に自分の体験や感情は入れ込んで、曲を作っていますね。