頭のどこかに歌詞のカケラがいるけど、全然出てきてくれない。

―― iriさんの描く歌詞の主人公には、何か共通する特徴や性質はあると思いますか?

基本、主人公は自分なんですよね(笑)。だから、うまくいってないひとが多いかもしれません。日頃のもがいている感じを、軽やかなトラックに乗せることで、みなさんもほどよく共感できるものになる気がして。だからめちゃくちゃハッピーそうな主人公はほぼいません。自分もハッピーな歌をあまり聞かないし。もがいているか、リラックスしているか。自分が音楽を聴きたいときのテンションが反映された主人公を書いていると思います。

―― 曲作りのとき、歌詞はどのように見えてくるのでしょうか。映像的なのか、絵なのか、文章なのか。

photo_03です。
Photo by 田中聖太郎

何ですかね…。こう…「これだ!」っていうのが、音と同時にパッっと出てくる。めちゃくちゃ追い詰められている状況だからこそ、するっと出てくることもありますし。多分、頭のどこかに歌詞のカケラがいるんでしょうね(笑)。いるんだけど、全然出てきてくれなくて、ちょっと休憩とかしてまた始めると、「あ、出てきた」みたいな。でもそれが自分はいちばん楽しいし、出てきたときの「やったー!」って感じが好きなんですよね。

―― いろんなタイアップ楽曲を書き下ろしているなかで、作詞のスランプに陥ることも?

あります、たくさんあります。よくみなさん「(歌詞が)降りてくる」とおっしゃいますけれど、まさに私もそういうタイプで。そのときの気持ちだったり、心のコンディションだったり、体調だったり、その日の天気だったり、いろんな条件がいい具合にマッチした瞬間にパンッ!って書ける。それが来るまでが大変です。

―― パンッ!が来るときの予感は何かあるのですか?

うーん、大体こう…煮詰まって、煮詰まって、絶望まで行って(笑)。「これは無理だな。もうやめたいな…」ぐらいから降ってくるんですよね。諦めがスタート、みたいなところがあります。

―― タイアップが関係ないとしたら、どんなときに曲を作りたくなりますか?

新しいアーティストの音楽に出会って、刺激されたとき。自分のなかで言いたいこととか、思っていることが溜まってきたとき。リラックスしていて、ゆったりと曲を作りたいマインドになってきたとき。そういうパターンが多い気がします。でも大体は、徐々に溜まってきた想いを、「もう歌に乗せたい!」って思って、作っているかなぁ。タイアップ楽曲の場合でも、その溜まっている何かを取り出してきて書くことが多いです。

―― 歌詞を書くとき、いちばん大切にされていることは何ですか?

文字の置き方、リズム、響き、いろんな面で、常に自分にとっての“言葉のカッコよさ”を見極めていきたいと思っていますね。そのまま書かずに、捻る。それがあるから、より音楽がおもしろくなるし、想いが伝わると思うんです。そのカッコよさを探すのが大変なんですけど、いちばんこだわるところですね。

―― そういう「カッコよさ」を探すところがおもしろさだとすると、作詞で“難しい”と感じるところは?

キャッチーなフレーズを出すのが、わりと苦手かもしれません。CMとかタイアップ楽曲だと、やっぱり広告的な流れていかない言葉が必要じゃないですか。1回聴けば覚えられるというか。そういう歌詞を作るのは、難しいなと思いますね。

―― また、先ほどiriさんは「ショッキングな言葉はあまり使わないようにしている」とおっしゃっていましたが、逆に好きでよく使う言葉はありますか?

Swamp」でも使っていますけれど<ぼくら>とか。<ぼく>とか。響きが好きで使いがちですね。歌声がジェンダーレス であるというところにも通じてくるのかもしれませんが、私の声で<私>と歌うとなんか違和感があるというか。<ぼくら>とか<ぼく>のほうがしっくりきますね。

―― これから挑戦してみたい歌詞というと?

先ほどもお話したように、ハッピーな曲をあまり作ったことがないんですよ。ウエディングソングみたいな。だからお祝いにも使えるような曲を作ってみたいですね。

―― それは、作ろうと思ったら作れそうですか?

いやぁ…ちょっとわからないですね(笑)。途中でイヤになる可能性はかなり高い。もちろん自分のなかに幸せのフォルダもあるはずなんですけど、だんだんこう…沼な感じが出てくるかもしれない。気分がいいときに挑戦してみたいと思います。

―― 最後に、iriさんにとって歌詞とはどのような存在のものですか?

自分を自由に表現できるツールだなと思っています。たとえ表に出なくても、見た目とか自分のコンプレックスとか、そういうことまったく関係なく、ひとと共有し合えるし。誰かとコミュニケーションを取ることができる、大切な存在ですね。


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